食堂
「ごめん。レナを困らせたね。でも、レナの瞳の色は本当に綺麗な紫だね」
瞳の色を褒められ、また頬が火照る。
「これは祖母譲りの色なの。祖母もタンザナイトのような色の瞳で。もう亡くなったんだけどね。この間、祖母が瞳の色と一緒だからとくれたタンザナイトをあしらった髪飾りを卒業パーティーで落として…」
髪飾りのことを思い出すと落ち込む。
「ご祖母様と同じ色だなんて素敵だね。髪飾りをパーティーで落としてしまったんだ。それは大変だったね。見つからないのか?」
「だいぶ探したんだけど、見つからなくて。お姉様にも心配かけてしまったわ」
「…大丈夫だよ。きっと、レナの手元に戻ってくるよ」
ディルが力強く励ましてくれる。
「ありがとう。ディルがそう言い切ってくれると、なんだかそんな気になるわね。結構、落ち込んでいたんだけど、元気が出たわ。さあ、お喋りをしてばかりだと料理が冷めちゃうわよ」
「そうだな」
ディルは本当に綺麗に食べる。
マナーも完璧だ。
わたしも皇女なので、これに関してはかなり厳しい教育を受けたけど、そのわたしが思わず見惚れるぐらいだ。
どこかの国の王子だと言ったら、騙される人がいるかも知れない。
お腹もいっぱいになり、昨夜は緊張のあまり眠ることが出来なかったので眠気が襲ってくる。
「レナ、眠そうだね」
「実は昨日は今日からのひとり旅を思うとよく眠れなくて」
「部屋まで送るから先に休んでいるといい。ベッドを使ってくれ。俺は少しやる事があるから」
「そうなの?」
「休暇で王都ベルに行っていてその帰りだけど、いろいろ仕事が残っていてね。それをやっつけるよ」
「ベルに来てたんだ。いままで出会わなかったのが不思議ね。とりあえず、わかったわ。申し訳ないけど、先に休ませてもらうね」
ディルはテーブルから立ち上がり、静かにわたしのそばに来ると、慣れた手つきで手を差し出した。
戸惑うわたしに微笑む。
「レナ、どうぞ」
恥ずかしく、俯きながらディルの差し出された手を取る。
そんなスマートにエスコートされるなんて。
6年前に会った時も漆黒の髪と目が綺麗な少年だなと思ったが、大人の男性になったディルは雄々しさも加わり、より魅力的になった。
これなら周りの女性が放っておかないだろうと考えながら、一緒に歩くディルをチラッと見上げた。
「レナ、なに?」
見たのがわかったらしい。
「ディルはこの6年で素敵な男性に成長したなと思ってね」
「…ありがとう」
ディルが照れている。
今日、偶然にも転移魔法でディルのところに来られて良かった。
明日にはラストリアに行って、ディルとわたしの絵を塗って、わたしの自由な時間は終わる。
あまり考えないでおこう。
眠気に負け、そっと目を閉じた。
仕事が残っているなんてのは言い訳だ。
同じ部屋に戻ったら、あの様子では男慣れしていないレナは、長椅子で寝るとか言い出すだろう。
ひとりでベッドに寝てもらうにはこの方法しかない。
だいぶ疲れていたのか、顔色も悪かった。
昨夜は緊張で寝られていなかったらしい。
「ディカルト殿下」
「ザック!」
談話室で本を読んでいると、後ろから声をかけられて、振り向くとザックが立っていた。
「ザック、お疲れ様。いま、着いたのか?」
「いえ、だいぶ前です」
金髪で長身のザックが端正な顔でニヤッと答える。
「それなら、早く声を掛けろよ」
「食堂で声を掛けようとしたら、ディカルト殿下が女性連れだったので、顎が外れそうなぐらい驚きましたよ」
ザックはニヤニヤが止まらない。
好奇心の塊のような顔をしている。
「あー それは……。大変なことになっている」
「…はぁ…?」
「レナが… 現れた」
「………。初恋を拗らせると幻が見えるんですね」
ザックがやれやれと言った表情をしている。
「そうじゃないんだ。最初から説明するから、呆れずにちゃんと聞いてくれよ」
ザックにレナと出会った経緯を一から説明することになった。
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