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たらこのエッセイ集

ネットで誹謗中傷する人たちの正体 ~因果応報ってあるんだよ~

 昔話をしよう。


 あれは私が小学生のころ。

 友達と集まって探検に行こうという話になった。


 放課後、校庭に集合したクラスメイト達はランドセルを背負ったまま、何処へ行くのか楽しそうに相談していた。しばらく話し合った後、学校のすぐ近くにある雑木林へ行こうということになった。

 別に離れた場所にあるわけでもないので、誰も行ったことのない未踏の地というわけではない。しかし、幼い彼らにとっては身近にある雑木林でさえ、未知の領域になりえるのだ。


 その雑木林には小さな小道があり、今まで誰も入ったことがないという。どこか不思議な場所に通じているのではないかと、クラスメイトは楽し気に話している。私はなかなか話に入って行けず、彼らの話を少し離れた場所で聞いていた。


 どうやら話がまとまったようで、クラスメイト達は一塊になって意気揚々と目的地へ向かう。私はその最後尾を追いかけるようについて行った。


 その集団の中に石田君(仮名)がいた。

 彼は普段から危ない遊びをすることで有名で、野良猫や近所の犬に石を投げて遊んでいた。と言っても、本当に当てるつもりはなく、小さな小石を近くに放って反応を見るだけ。それでも、今の感覚からしたら動物虐待にあたる行為で、あまり褒められたものではない。


 近所から学校にクレームが入ったのか、石田君が犬や猫に石を投げて遊ぶことはなくなった。しかし、彼は別の標的を見つけたのだ。


 それはカラスだった。


 彼はお手製のパチンコでカラスに狙いを定め、小さな小石を放っていた。それが命中することはなかったと思うが、驚いて逃げる姿を面白がり、彼は毎日のようにカラスを標的にして遊んでいた。


 話を戻して探検の続き。


 雑木林に入った私たちは雑草をかき分けて進み、ある民家へとたどり着く。それはどこにでもある平屋建ての民家。廃墟ではなく、きれいに庭が整えられている。家庭菜園もあって現在も人が住んでいることがうかがえる。

 周囲が木々に囲まれているものの、その土地自体に生活感があり、道路と繋がる大きな入り口もあった。門扉は固く閉ざされ車や自転車も見当たらない。どうやら家主は留守のようだ。


 クラスメイト達はがっくりと肩を落とす。不思議な場所に通じていると思った裏道は住人の通り道だったのだ。


 今思うと、雑木林によって外界から隔離された民家というだけで、十分に不思議な魅力を持つ場所だと思うのだが、当時の私たちからしたらごく普通のありふれた存在にしか思えなかった。


 せっかくここまで来たのに、何の収穫もなく帰るのも癪なので、私たちは周囲を散策することにした。そして……あるものを見つける。


「なっ……なんだよあれ」


 クラスメイトの一人が言う。


 民家から離れた場所に置かれた物干し竿。それに数匹のカラスが逆さ吊りにされている。


 カラスはすでに絶命しており、日光に照らされて干からびていた。真っ黒な羽が太陽の光を受けて不気味な光沢を放つ。どの個体も大きく目を見開き、口をパカッと開けたまま動かない。

 その異様な光景にクラスメイト達は固まり、言葉を失う。


「うわあああああああああああ!」


 一人が悲鳴を上げて逃げ出した。他の仲間たちもつられるようにその場を後にする。

 私は足が遅くのろまだったので一番最後になった。途中で何度も転んで土まみれになり、泣きべそをかきながらやっとの思いで雑木林を抜け出す。

 クラスメイト達はとっくにどこかへ逃げており、仕方なくなった私は一人で家に帰ることにした。


 その日の出来事はそれで終わるが、数日後にクラスの中である噂がたった。

 例の民家に住む住人が交通事故にあったのだという。


 なんでも、その民家に住んでいた老齢の女性が道路を横断して車に轢かれたそうだ。事故の原因だが、カラスに襲われて転んでしまい倒れたところへ車が来たらしい。

 数日間その話題で持ちきりになり、他のクラスや学年にも噂が伝播する。

 まずいと思ったのかホームルームに担任から話があり、かん口令が敷かれた。


 その甲斐あって噂は終息。誰も話題にしなくなる。


 しかし……影響を受けたクラスメイトが一人。くだんの石田君だ。

 彼は自分がカラスに石を投げたことを覚えており、復讐されるのではないかと怯えていた。彼の受けた精神的なダメージは相当なもので、数日間学校を休むほどだった。


 と言っても噂はあくまで噂だ。クラスはすぐに落ち着きを取り戻し、石田君も学校へ来るようになった。例の民家の住人が本当に亡くなったのか定かではないし、交通事故があったかどうかさえ分からない。

 真相を確かめるために例の民家を見に行った生徒もいたが、話によると変わった様子は見られなかったと言う。カラスも干されていなかったらしい。


 だが、その民家にカラスが干されていたのは間違いない。あの光景は今でもはっきりと思い出せる。決して幻ではなかった。


 当時の出来事を振り返ると、あれはただのカラス避けで別に怖がることはなかったかと思う。しかし、幼い私からしたら衝撃的で、生き物を吊るす光景は後にも先にも目にしたのはその一度きり。

 地方の街とは言えそんなことをする人がいたと思うと、色々と考えさせられる。


 その後の話を少しすると、石田君はすっかり元のやんちゃっぷりを取り戻した。もう彼が石を投げることはなくなったが、同時にカラスも怖がらなくなってしまった。

 のど元過ぎればなんとやら。自分がカラスにしたことも、復讐を恐れていたことも、すっかり忘れてしまったらしい。


 人は自分の行った行為に無頓着である。誰かに加害行為を行ったとしてもすぐに忘れてしまう。しかし、自らがやられる側になったら別だ。

 普段から過激な言動をとっていた著名人がつい一線を越えた発言をしてしまい、泣きながら謝罪する光景を最近目にした。

 あの涙には何の価値も無いと思うが、彼がそれなりにダメージを受けたのは事実であるようだ。


 人の言葉は時に誰かを傷つける。言葉は石とは違って気軽に投げられてしまうが、場合によっては石を投げ返されるよりもずっと深刻なダメージを負ってしまうこともある。


 とある作家は自らの発言が原因で作家生命を絶たれてしまった。

 こう書くと誰のことかと想像してしまうだろうが、特定の人物を指して述べたつもりはない。失言が原因で廃業した人は多い。


 しかし……誰も自分が当事者になるとは思っていない。他人事のように考えている人がほとんどだろう。普段からみんな発言には気を付けているし、一般的な社会常識があればみだりに不用意な発言はしない。これを読んでいるあなたも、まさか自分が例のあの人のようになるとは思っていないだろう。


 もしかして……匿名掲示板や捨てアカウントで、誰かを傷つけるような発言をしていないだろうか?

 だとしたら止めておいた方がいい。いつかその言動はあなたを追い詰める。


 ある人が「思考が人生を作る」と言っていた。自らの思考が己の運命を決めるのだという。


 普段からネットで他人を傷つけるような発言をしている人は、リアルでも知らず知らずのうちに他人を傷つける。SNSや掲示板に吐き出したその言葉は少しずつ現実を侵食する。

 たとえ特定されなかったとしても、自らの人生に不利益をもたらすのは間違いない。


 かつてインターネットでの誹謗中傷に悩まされたスマイリーキクチさんは、誹謗中傷を行っていた人たちは一様に悲壮感を漂わせていたと発言した。彼を中傷したネットユーザーたちは実生活で強いストレスを感じていたと推測できる。

 そのストレスの原因は彼らの思考そのものではないのか。私にはそう思えてならない。


 ちなみに……例の石田君だが、中学に上がってから姿を見なくなった。カラスをいじめなくなった彼だが、普段から周囲を不快に思わせるような言動を繰り返して、次第にみんなから距離を置かれるようになったという。登校しなくなった彼がどうなったのか知らない。知ろうとも思わない。


 彼を追い詰めたのはカラスでも、根の葉もない噂でもなく、彼自身の発言。

 他人に向けた言葉は必ず自分に返ってくるのだ。

これは事実を元にしたフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 田舎のほうでは、ありますよカラス吊り。カラス避けになるんですよね。おばあさん、農家とかに卸してたのかなぁ? ともあれ、誹謗や中傷無くなって欲しいですね。
[一言] 自分でやったことは返ってきますよね。 実証はありませんが、そんな気がします。 エッセイみたいな、物語みたいな……ものでした。
[良い点] 自分がやってきたことは人はもちろん自分も見ていますからね。やってきたことに恐れを抱かない生き方をしたいものです(後悔しないとは言ってない)
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