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傑作を思いついた

作者: りったん

 傑作を思いついた。しかし、場所が悪い。会議室でプレゼン中だ。どうしてこういう時に思いついてしまうのだろう? メモすら取れる状況ではない。いっそ、体調不良だと言ってトイレに行き、そこであらすじだけでも書き留めようか。いや、無理だ。会社の威信をかけたプロジェクトを担えるかどうかの瀬戸際のプレゼンなのだ。体調不良などと言えば、ライバルに付け入る隙を与えてしまう。それだけはダメだ。あいつにこのプロジェクトを奪われるくらいなら、傑作など書けなくてもいいとすら思える。悩みながら、何とかプレゼンを終え、拍手を浴びて、席に戻った。案の定、思いついた傑作はすでに頭の片隅にも残っていなかった。綺麗さっぱり忘れてしまった。でもいい。あいつにこのプロジェクトを奪われるのよりはましだ。


 数日後。最悪だ。プロジェクトはあいつに奪われた。こんな事なら、体調不良を訴えて中座し、トイレで傑作を完成させた方が良かった。だが、時は戻せない。何もかも失った私は、小さく溜息を吐くと、帰り支度を始めた。どうせなら、辞表を書こうか。そこまで思い詰めてしまった。その時、また傑作を思いついた。何故、このタイミングなのだろうか? 思いついてはいけない時に傑作は降ってくる。今はとても書く気力が湧かない。集中力が全くない状態だ。その時だった。第一営業課のエースである小岩井貴宏君が声をかけてきた。

「先輩、プレゼン残念でしたね。今日、一緒に食事に行きませんか?」

 はにかむような顔で誘ってくれた。私はすぐに誘いに乗り、小岩井君と高級フレンチレストランに赴いた。店に着くと、すでに傑作を忘れていた。どれ程考えようと思い出せないくらい、綺麗さっぱり忘れていた。まあいい。小岩井君と二人で食事ができるのだ。噂では、彼は私に好意を持っていると聞いた事がある。チャンスだ。いける。そんな高揚感に溢れていたのは、一瞬の事だった。着いたテーブルには、すでに一組の男女が座っていた。

「遅かったね」

 そこにいたのは、絶対にプレゼンで負けたくなかったライバルである瀬能せのう眞子まこと、小岩井君の親友の桂木健君だった。二人はそういう関係? 

「そっちが早いんだよ」

 ジェントルマンな小岩井君は椅子を引いて私を座らせてくれた。桂木君は何故か席を立つと、私の隣に座り、小岩井君は眞子の隣に腰を下ろした。嫌な予感が頭をかすめる。

「実は、僕と眞子さんは婚約をしまして、来年の春に結婚する事になりました」

 晴れやかな顔で報告する小岩井君。眞子はこれ見よがしなドヤ顔で私を見ている。

「そうなんだ。全然、知らなかった」

 棒読みな言葉を吐いた私の頭の中にまた傑作が降ってきた。今度こそ、書けそうな気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうよ、最高傑作を書くのよ。 思わず力が入りました。
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