昔も今も、これからも 【月夜譚No.3】
このグローブには、青春の思い出が目一杯詰まっている。解れた糸にも、擦れて薄くなった革にも、その一つひとつに想いや記憶が染みついている。
青く澄み渡った空、打ち上がるボール、仲間たちの笑い声。そして、悔しさに流れた苦い涙も。グローブを撫でているだけで、脳裏に蘇ってくるようだ。
良いことも悪いことも全部、あの時の気持ちを忘れてしまわないように、今日のような日には必ず持って歩くことにしていた。
名前を呼ばれて顔を上げると、自分と同じユニフォームを身に着けた人影がこちらに向かって手を振っている。
「今いくよ!」
軽く返事をして新品のグローブに持ち替え、駆けるようにチームメイトの許へ向かった。
彼等も昔の仲間も、自分にとって何にも代え難い宝物だ。今も、そしてこれからも変わらずそうなのだろう。