TRUE《トゥルー》
これは終わらせたくても、終わらない心のお話。
とか、そんな感じにテキトーに考えてます。
私は今、とても緊張している。最愛の婚約者と2人きりの昼食で。おかしな話だと我ながら思う。
「近頃食欲が無い様子でしたので昼食は料理人にお願いして軽めの物を用意していただきました」
私は彼を心配し、私の方で用意した料理。しかし、彼の答えは………
「確かに俺は食欲が無い。だからこれも食べられない」
少しの躊躇もなく放たれる言葉は最早作業的ともいえるもので、一切の迷いもないものだった。
それもその筈。私は悲しい事に彼に苦手だと、最悪の場合は嫌いだと思われている。
「そう、ですか」
少し詰まってしまったが、問題なく答えられた範疇だろう。
◆◇◇◇◆
さて。私が彼に、この国の王太子に嫌われてしまった理由は色々思いつくが、一番はやはり彼が愛を見つけたからだろう。相手はこの国の男爵家の娘。家格的には不釣り合いである。言っては悪いが男爵家はどちらかと言えば庶民に近い。
継承爵位の中でもっとも位が低い。またその多くが元は豪商であったり、町の代官であったり。貴族然とした男爵は本当に少ない。
そんな男爵位の中、彼の心を射止めた彼女の家は珍しい貴族然とした振る舞いや身なりにも気を使うタイプだった。
だが正直、その珍しい貴族然とした男爵家も多くはないが掃いて捨てるほどいる男爵達の中なら、の話である。
彼を射止めた彼女は、優しかった。本当に、心の底から、白く清らかだった。更にあの儚げで保護欲を唆る愛らしい見た目。そして何より面と向かって愛をささやける実直さと豪胆さ。私が彼女と対面して勝てるところなんて肉付きの良さくらいだ。
そんな彼女に私の友人の方達が陰口を叩くようになった。『婚約者のある殿方に愛を囁くなんて』と。
私も実際そう思った。しかし私も次期国王の婚約者として、度量の深さを示さねばならなかった。彼と彼女の逢瀬を極力邪魔せず、見逃した。
今思うと、それがダメだったのだろう。
彼は本格的に私から離れ始め彼女を正妻に出来ないのは私がいるからと考えたらしい。
結論から言えば、私は学園を卒業する前日に婚約破棄を一方的に突き付けられたのだ。
◆◇◇◇◆
俺はこの女が“嫌い“だ。切れ長で深く青い瞳。ピンと伸びた背筋に男好きする身体付き。聞けば聞くほどこの女は美人で、更に男を立てる器量まである。
しかし、こいつは常に俺に対して表情を崩さ無い。ここまで完璧だと気味が悪くなってくる。
(一体、何を考えるんだ?)
全く持って理解できない。だからだろうか。彼女に惹かれたのは。
彼女は男爵家の娘。次期国王である俺とは明らかに家格が釣り合わないが、外堀を埋め、両親や主要人物との話し合いも進み、ついにあの女の両親も説き伏せた。
そして学園の卒業前夜祭にて、あの女との離縁を告げ、彼女との婚約を明かした。
当然、あたりは騒然。そして、肝心のあの女は。
(は?)
泣いていた。いつもの無表情を必死に取り繕おうとしているものの、明らかに顔は青冷め、大粒の涙を目から溢れさせている。そして言った。
「わかり、ました。失礼します」
明らかな涙声で、いつもの凛とした面影の一つもない弱々しい声にも関わらず、一欠片の文句も言わず気丈に振る舞い、いつものように男を立てて、そして去るあの女の背を見て、その時に初めて気がついた。あの女が、俺に本気で惚れていた事に。
しかしもう遅い。俺は引き返せないし、引き返すつもりもない。あの女のことは“苦手”だし、俺は彼女を愛しているのだから。