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世界の魚

作者: うめささ


その日、世界は終わった。原因はユーラシア大陸の崩壊だった。世界を支える支柱のひとつが無くなったことで、均衡が保てなくなった。世界の各地で山が火を吹き、大地は沈み、海は水かさを増して他の大陸を呑み込んだ。


 そもそもなぜ大陸が崩壊したのか。それが何なのかは分からないが、それが動いたことで大陸は真っ二つになったんだ。

 それは大きなもの、とても大きい魚。生き残った人はそれをバハムートと呼んだ。あまり神話に明るくない僕でもわかる、そいつは世界を支えているとされる巨大な魚だ。とすれば、神話は真実だったらしい。天使はどこにいるんだろう。


 世界が終わった後、人々は何処かへと逃げる。山を造りその頂上に避難する者がいれば、船に乗ってさながらノアの方舟のように生き延びようとする者がいた。この星を棄てて空をさまよう選択をした者もいた。とにかく、生き残ろうと必死になっていた。


 不思議なことに動物たちは逃げようとはしなかった。自分達の終わりが分かっているかのように、身を寄せあって最後の時を過ごしていた。世界が終わることを、悟っていた。


 やっぱり、人間って愚かなのかもしれない。もうどうしようもないことを分かっていてそれでも足掻いている。それが素晴らしいのことなのか、それとも醜いことなのか。あの動物たちを見た後では判断が難しい。


 いよいよ人が滅び始めた。なぜそう断言できるのか、それは空に浮いている豪華な飛行船の群れが嵐に飲まれたから。生き残った人類の三分の一が居なくなった。

 次に、まったくなんの動きもなかった山が突如として噴火した。ついでに地震も起きた。山に登った人は今ので居なくなっただろう。

 ああ、ついに大地が割れた。僕の前からビル群が無くなっていく。すごい地響きだ。もう立ち上がることすら許されない。いずれ僕も同じように沈むだろう。


 唯一、僕が死の瞬間を見ていないのは宇宙に旅立った人たちだろうか。たったの六人、それも食料が一年分しかない。彼らがもし、新しい故郷を見つけられれば、僕ら人類は滅ばなかったことになる。僕らはそれを知ることはできないし、種が続いていること自体が嬉しい、なんて感情は、なんていうか、まあ、僕にはない。だって僕が死んだら僕はそこで終わりだし。


 僕は最後までなにもしなかった。生き残ろうと逃げることも、諦めてすべて投げ出すことも、最後に親しい人たちと過ごすことも。なにもしないってことは諦めと変わらないような気もするが、自暴自棄とはまた違う感じだ。そう、いうなれば無だ。なにも感じることはない、これこそが悟り。僕は世界の終わりを目の当たりにして、仏の道を切り開くことが出来たのだ...なんて。


 本当のところは、あの魚を見た時点で、ああこれはもう駄目だと思った。早い時点で諦めていて今のこの状況も予想できていた。だから人類が滅びるのは想定内だし今慌てることはなかった。私はとっくのとうに諦めがついていたのだ。


 いまこうやって孤高を気取っているのも、諦めたから。諦めれたから。

 今僕の親しいたちと会わないのは、希望を持たないため。せっかく諦めがついたのに、顔を会わせてしまったら、命が惜しくなるでしょう?

 唯一の心残りは、あの子に告白しとけば良かったな、っていう、密かな恋心だけだ。


 僕は世界の終わりを、人類の終わりを見届けている。

 たぶん、諦めている人は僕だけだから。









(初投稿)

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