第9話 急展開!
『姫様お待ちください!』
『例えゴブリンと言えど、我が身を救って貰ったのは事実です!人語を理解出来るのなら礼をするのは当然でしょう!』
姫様が騎士三人と共に近寄ってくる。
オレは皆の前に立ち、何が起きても対応出来るようにしている。
このまま対話だけで済めば良いが…
あと5、6歩という所で姫様が何かに突き飛ばされたようにオレに向けて突っ込んできた。
『きゃっ!』
オレは慌てて姫様を受け止める。
そして次の瞬間、オレの腹に剣が突き刺さった。
しかもオレの正面から?
見ると姫様の腹から剣が生えていた。
「み、皆!オレから離れろ!」
オレの叫びで意図が伝わったのか、カインがローザとリディアの前に立ち、後ろの二人は魔法の詠唱に入った。
『な、なんで…』
姫様が護衛の隊長みたいな奴を一瞥して地面に崩れ落ちた。
『申し訳ありませんなぁ、姫様には生きていて貰っては困るのですよ。グレイトウルフが出たお陰で何も知らない部下の処理をしなくて済みましたが、まさかゴブリンが出てくるとは予想外でした。まあ全部殺せば問題解決ですな!』
隊長さんが言っていることを纏めると、元々このお姫様を暗殺する予定で、偶々グレイトウルフやオレ達がやって来てしまったが、全員殺せば計画に支障は無いと言うことだろう。
『おい!お前達、ゴブリンを殲滅するぞ!』
『了解!』
『ゴブリンに礼とか、この姫さん馬鹿だろ』
この態度を見る限り、先程のグレイトウルフとやらもこの三人で倒すつもりだったのだろう。
「皆!コイツらはたぶんさっきの魔獣よりも強い!油断するなよ!」
一応警告しておく、オレとカインが抜かれなければ良いだけだ。
「『エリアヒール』!!」
ローザの魔法で腹の傷が回復した。
元々プロテクトが掛かったままなのでそんなに深い傷では無かった。
姫様にもヒールが掛かったのでたぶん死ぬことは無いだろう。
『オレ達にもヒールしてくれるのか、ありがたいねぇ』
隊長達にもヒールが掛かってしまったが、怪我もしてなかったみたいだし問題ない。
「カイン!正念場だ!」
「分かってるよ!ハムート!援護してくれ!」
「キュー!!」
ハムートが上空に昇っていく。
予備動作が無いので向こうも反応出来なかったみたいだ。
オレは隊長の前に立った。
『お前がオレの相手してくれんのかぁ!まあ、グレイトウルフを倒すくらいだ、油断しないでいてやるよ!』
『何ヲ調子ニ乗ッテイルノカ知ラナイガ、オ前如キガオレニ敵ウ筈ガ無イダロウ』
『ゴブリン無勢が!!』
此方の挑発に乗ってくれた。
隊長は一足で間合いを詰め、剣を大上段から振り下ろしてきた。
剣速は速いが軌道が正確過ぎる。
オレは軌道上に左手の剣を斜めに構えて受け流す。そして、がら空きの左腹に剣を振り抜いた。
『それはさっき見たぞ!』
隊長は左手の小盾で剣を防ぎ、右手だけで振り抜いた剣を切り上げてきた。
オレはそれを左手の剣で更に受け流す、受け流した勢いに任せ左手の剣を手放す、そして即座に体を右回転させ右手の剣を両手で持ち、剣を思い切り振り抜いた。
隊長は自分が剣を弾き飛ばしたと勘違いし、僅かに剣に意識を向けてしまったため、オレの次撃に気付いていなかった。
多少の抵抗はあったが、かなりの手応えがあった。
『ま、まさか…、その剣、ミスリルか?』
鎧を貫通し、隊長の腹の真ん中まで剣が届いていた。
オレが剣を抜くと、隊長が膝をついた。
オレは隊長の顔の前に手をかざした。
「『アイス・プリズン』!」
隊長の周りを氷の檻が取り囲んだ。
「リディア!頼む!!」
オレは叫んだ後、姫様を抱えてその場を離れる。
「凄いのいくわよ!!『ヘルズゲート』!」
隊長の正面に高さ10mはある禍々しい門が現れた。
次の瞬間、門が開いて黒い空間から鋭い牙が並んだ巨大な口が出てきて、隊長を丸飲みにして引っ込んでいった。
そして、門が静かに閉まるとそのまま消えていった。
本当に凄いのが来た…
あんなのどうやって防ぐんだ?
「ケルベロスか~、今の私の魔力だとあんなものかしらね」
リディアが戦闘中なのに暢気に言っているので、慌ててカインの方を見ると、既に兵士二人は倒されていた。
「カイン、無事か!」
「いや、ハムートのお陰で動きが遅かったから楽勝だった」
「そうか…」
此方は消化試合だったようだ。
改めて地面に降ろした姫様を見る。
傷は治っているが全快はしていない。
「ローザ、回復してやってくれ」
「えっ!でも…人間だよ…」
「こいつ一人では何も出来ない筈だから、頼む…」
「…わかった」
『…っ、う…』
『目ハ覚メタカ?』
『貴方はゴブリン…、また助けて頂いたのですね…』
『マア、何ト言ウカ…ソウダナ』
『はは、まさか護衛が買収されているとは夢にも思いませんでした。どのみち私はここで死ぬ定めだったのですね』
『…頑張ッテ強ク生キテクレ』
オレはこの場を離れようと立ち上がった。
結局姫様を助ける形にはなったが、後のことはどうしようもない。
『!!わ、私を連れて行って下さいませんか?』
『ハ?』
『もう私は色々疲れてしまいました…。どうせここで死ぬ予定だった命、これからは好きに生きたいのです。どちらにせよ、放って置かれたら野垂れ死ぬ可能性が高いので…』
『オレ達ハゴブリンダゾ?』
『世間に伝わっているゴブリンの話は酷いものが多いですが、実際はどうなのでしょうか?』
『マア、オレ達ノ群レハソンナコトハナイナ』
『では!』
『仲間ニ聞イテミル…』
「と言うことなんだが…」
「オレは皆に被害がなければ、別に良いぜ!」
「私はセシルの考えに従うわ」
「人間だよ?大丈夫かな…」
「ローザ、人間も別に一種類ってわけじゃない。オレ達もゴブリンだからといってひとくくりにされるのは嫌だろう?」
「うん」
「あの人間もたぶんオレ達を裏切ることは無いと思う。裏切られて死にかけてるからな」
「わかった…」
ローザも何とか了承してくれた。
『終ワッタゾ』
『どうでしたか?』
『トリアエズ、客トシテオレ達ノ住処ニ招待スル。後ノコトハ自分デ決メテクレ。タダシ住処ノ情報ヲ他ノ人間ニ伝エルヨウナ素振リガアレバ、スグニ殺ス』
『じゃあ大丈夫ですね!ありがとうございます!』
『…ワカッタ。出発ノ前ニスルコトガアルカラ、待ッテイテクレ』
姫様をその場に待たせたまま、オレ達は魔獣の回収や兵士達の装備、馬車に積んであった荷物などを回収した。
今回、人助けに来たわけでは無いからな。
帰り道、森の中を歩くと言うことで、姫様はハムートに運んで貰うことにした。
最初はワイバーンの迫力にビクビクしていた姫様だが、危害を加えないと知ってからは逆にハムートの空中浮遊を楽しんでいるようだ。
洞窟に着く前に情報交換を行う。
まず互いに自己紹介をした。
姫様の名前は『カーミナ・リオ・コーシ』だそうだ。浅草の銘菓だな!
この森があるリオ王国の第3王子らしく、継承権を争って死にかけたのも一度や二度ではないらしい。
食事も必ず毒見を通して行われ、冷たい料理を常に一人で食べていたらしい。
それでいて王族としての教養のため、やりたくもない勉強やダンスや社交で一日が終わり、自分の時間など全く無かったそうだ。
これは聞いてるだけで嫌になってくるな。
王族とかに転生しなくて良かった…
ローザとリディアも魔法書を解読する際に人間語を読めるようになっている筈だが、やはり筆記とリスニングは違うみたいだ。
まるで日本人が習う英語と一緒だな。
今度人間語の勉強会でも開いて、リスニングと発声の練習でもしようと思う。
『私も頑張ってゴブリン語を覚えますわ!』
カミーナも意気込んでいることだし、意思疎通は直ぐに出来るようになりそうだ。
話し込んでいるとあっという間に洞窟に着いた。
見張りのゴブリンに、人間を連れて行くことを先に伝えに行って貰ったから、さほど混乱は無い筈だが。
どうなることやら…