第7話 カインの相棒!
大不評だったパーティー名は、皆で考え抜いた挙げ句『緑樹の守人』になった。
特に意味はなく、ただ響きが良かっただけと言う理由だ。
まあ、パーティーは結成したが、すぐに敵が来る筈もなく専ら午前中は掃除、午後は鍛練の日々だ。
そんなある日のこと。
キングが狩りで大きな卵を持ち帰ってきた。
何でも森に隣接している岩山まで遠征したらしく、崖の横穴の洞窟で何かの巣を発見したそうだ。
何故か1個だけ残っており、暫く様子を見たが巣の主が戻ってくる気配もないので持って帰ったらしい。
岩山まではかなりの距離がある筈だが、キングは流石だなと思っていると、本人と目が合った。
「この道具袋があるから荷物は軽いし、移動速度も段違いだ。お前のお陰だな!」
今までは、武器や食糧、傷薬や獲物を運ぶ道具などを手分けして持っていかなければならず、それなりの重量になっていたそうだ。
それが武器だけになったのだから、目に見えて違うらしい。
オレが感心していると、近くに居たカインが卵を凝視しているのに気付いた。
「あれ食べたいのか?」
「リディアと一緒にするなよ!そんなに食いしん坊じゃない!」
「あぁ!? お前ちょっと表出ろや!」
「リディア、抑えて!」
「じゃあどうしたんだ」
「あの卵が欲しい、何でかわかんねーけど」
「…?じゃあ、キングに聞いてみるよ」
「別にいいぞ、他にも食糧はいっぱい狩れたからな」
「ありがとうございます」
「食べるのか?今度味を聞かせてくれ」
「いや、カインが食べないけどどうしてもと言うので」
「変わった奴だな…」
「貰ってきたぞ」
「セシル、ありがとう!」
「で、どうするんだ?」
「孵らせようと思って…」
「何の卵か解らないんだぞ」
「それでもだよ!」
「まあいいか、責任は持てよ」
「ああ、わかってる」
そうして、カインは槍と卵生活に突入した。
常に側に槍と卵を置いている。
動きづらくないのだろうか?
「まあアイツ単純バカだし…」
「趣味嗜好は色々ありますから…」
他の二人は辛辣だった。
そして一週間後、誰もが卵を気にかけなくなっていた頃、卵が孵った。
小さな爬虫類の体に手の代わりの羽が付いている。
うん、ワイバーンだな!
「キュー!キュルル!」
「やっと孵ったな!オレはカイン、よろしくな!」
「キュー!」
「そうか、腹減ったか!食べ物は?っと」
オレには「キュー」としか聞こえんのだが…
因みに女性陣2人の目の輝きがヤバかった。
「撫で回すのはあと2・3日待ってくれ!」
カインが必死に宥めていた。
それから更に一週間後、カインの隣でワイバーンこと『ハムート』が歩いていた。
今では群れのマスコット的存在として、皆から可愛がられている。
「ハムちゃん!おはよー」
「キュルル!」
「キャー!可愛い!」
「ハムは元気だのう」
「キュルー!」
隣に居るカインは空気と化していた。
だがハムート自体は自分の主人としっかりと理解しており、カインを背中に乗せて飛び上がる練習を始めている。
まだカインの方が大きいので物理的に無理なのだが。
「キュルー?」
「ああ、何でもねーよ。ちょっと目にゴミが入っただけだ」
…カインよ、強く生きろ!
因みにハムートは、頭の額に何かのクリスタルの様なものが付いていた。
種族的な何かだと思うが、やはり『鑑定』の魔法の修得が急がれる。上級魔法書に有るにはあったのだが、難解過ぎてまだ一部しか解読出来ていない。
リディアに頼んだら、
「攻撃魔法が先に決まってるじゃない!そんなの後回しよ!」
と有り難いお言葉を頂いた。
今の所洞窟内の掃除も順調で、有志も増えた事から余った時間で洞窟の拡張を行っている。
オレとリディアの土魔法で壁を掘っていく、リディアも魔力量を増やす訓練だと言って率先してぶっ倒れていた。
「もう無理!一時したら起こして!」
そのまま用意してあった布団の様なものに倒れこんだ。
鳥の魔物から採った羽毛を袋に詰めただけの物で、まだ数量も少なく超貴重品だ。
「リディア、お疲れ様」
倒れたリディアにローザは手をあて、魔法を唱える。
相手に魔力を譲渡する魔法だ。
ア○ピルの逆バージョンだと思ってくれたら良い。
ローザの魔力量アップにもなるし、かなりの効率の良さで洞窟の拡張は進んでいった。
そして一週間後、第3層が出来た。
最初に第2層から下斜めに掘っていき、そこから横に拡げていった。
居住用に横穴も掘ったため、蟻の巣のようになった。
オレとリディアは何回気絶したか覚えていない。
ローザも結構な数だと思う。
余りにも短期間での工事だったので、念のため壁や天井の強度を確認している。
「良し!特に問題無しだな」
「ふう、しんどかったー!」
「2人ともお疲れ様!」
「いや~、ローザが居なかったらここまで早く終わらなかったよ!」
「そうだな、一番の功労者はローザだ」
「そんなこと無いよ~」
今回はただの工事だが、やはり怪我を気にしなくて良いのは気持ち的に楽だ。
オレとリディアはひたすら魔法を使っていただけだし。
「ローザ、協力してくれてありがとう!」
「そんなの当たり前だよ!」
「パーティーの初仕事完了だな!」
「戻って食事にしよーよ、お腹空いた…」
「ははは」
今度、第3層の利用方法をキングと相談しよう。
…カインを忘れていた。
オレ達が洞窟の拡張を行っている間に、ハムートも飛べるようになり、一緒に鍛練していたらしい。
念のため、飛行する時は森の木々の上に行かないように注意しておいた。
ワイバーンはたぶん討伐のランクも高いだろうし、飛び立つ所を誰かに視認され、洞窟の位置を特定される危険があるからだ。
鍛練風景を見せて貰って気付いたのだが、ハムートの飛行する前の初動がおかしい…
翼を動かしていないのに、既に体が地面から浮いているのだ!
カインを通して聞いてみる。
「何でハムートは浮いてるんだ?」
「キュ!キュルルー、キュキュキュルルー」
「『それはね!額の石に力を込めると、重さを変えられるんだー』と言ってる」
だからなんでカインはワイバーン語が解るんだ?
「キュルキュルル!」
「『自分以外の重さも変えられるよ!』と言ってる」
「重力制御の能力なのか?」
確かに自分に掛かる重力が『0』になれば、無重力状態なのだから浮くだろう。
逆に重さを増やせば、動きは鈍くなる。下手をすると全く動けなくなるだろう。
カインの攻撃スタイルと凄く相性が良い筈だ。
ついでにオレの重さを増やして貰った。
「ぐお…、これは、きついぞ…」
鍛練の時の負荷には丁度良いかもしれない。
今度からハムートにお願いしよう。
キングと第3層の話をしたら、1層の住人が3層に引っ越すことになり、1層は外敵用の罠を仕掛けることになった。
住人が外に出る事も考えて、まず抜け道を作った。
洞窟の入口付近に開通させ、さも普通に洞窟に入っている様に見せかける。
実際は、入ってすぐの部屋に死角になる場所を造り、そこから第2層に繋がっている。
流石にサーチ系のスキルなどがあればすぐに見破られるだろうが、全ての侵入者を防げるとは思っていない。
肝心なのは、時間稼ぎした上での住人の避難だからだ。
裏口は限りなくバレないようにした上で、第1層には心が折れるような凶悪な罠を仕掛ける事にしよう。
そうして、掃除、罠作り、狩り、鍛練、魔法書の解読などで日々は慌ただしく過ぎていった。
「おはよう、セシル」
「おはよう」
朝起きると、マミーが寝ているオレの顔を覗き込んでいた。
最近、オレの母親が綺麗になっている件について。
女性の美への執着が成せる業なのか、元から才能が有ったのかは分からないが、いつの間にかマミーが水魔法と風魔法と火魔法を覚えていた。
オレがやっていた温水全身洗浄と乾燥で毎日体を綺麗にしている。
更に、森で見つけたとある木の樹液がリンスと同じ効果があると判明し、それを使って髪がしっとりサラサラになった。
豊富な栄養とバランスの取れた食生活でゴブリン特有の肌の凸凹が少なくなり、濃い緑色も薄くなった。
母親用にお手製歯ブラシもプレゼントしたので、歯を磨く習慣が出来て歯も白くなり口元が明るくなった。
終いには、オレが前世の記憶で覚えていたヨガっぽいのを教えたら、毎日欠かさずやっていたみたいで、背筋が伸び猫背が矯正されただけでなく、腰が括れてスラッとした足になる始末。
まず初見ではゴブリンに見えないだろう。
まあ、自分の母親が綺麗なら言うことはないのだが、ゴブリン種を超越しようとしているのでちょっと心配だ。
前世の価値観が残るオレが見ても綺麗に見えるのだから…
そして、ママ友ゴブリン達もマミーの美しさに憧れ、マミー主体の美容教室に通っている。
最初に水魔法と風魔法と火魔法を会得しないと入会出来ないらしく、この洞窟のメイジゴブリンの割合が急激に増えた。
「頑張ってるみたいだね」
「うふふ、そうなの。セシルから切っ掛けを貰って…、やってたらハマっちゃって♪」
そうやって楽しそうに笑うマミーは一段と綺麗だった。
ローザとリディアもオレ達に内緒で美容教室に通っているらしい。
触れないでおこう…