第6話 パーティー始動!
最近、ローザがおかしい…
最初の掃除仲間だし一緒に居ることが多かったのは事実だが、四六時中オレの側から離れなくなった。
掃除もオレの隣で行うので「場所が被る」と言ったら、その場から30㎝横に移動した。
剣の訓練中も邪魔にならないギリギリの所で杖に見立てた棒を振っている。
魔法の解読も隣に本を広げ、時折こちらの顔を伺って目が合うと微笑む。
食事もオレの部屋で取るようになり、寝るときも怖いから隣に寝ると言い出した。
親には許可を貰っているらしい。
つまり、そういう事なのだろうか?
確かに、同世代で最初の仲間であり、女の子なので優しくしてきたつもりだ。
だがオレは、洞窟の掃除と自分が強くなる事に夢中で、そういう気持ちになったことは無い。
それに、もしオレの勘違いだったらと思うと、気まずくなって今後一緒に行動出来なくなりそうだ。
「尊敬はしてるけど、別に好きってわけじゃ…」
「だよなー、ははは!」
「………(勘違いさせちゃった!どうしよう…)」
「………」
こんな風に!
と言うことで、ローザの好きにさせる事にした。
結局、側に居てくれたほうが何かあった時に守りやすいしな。
トイレにも着いて来たときは流石に出て行って貰ったが…
「…セシルはいつもカッコいいなぁ」
「………」
オレには正解が解らない…
暫く何事もない日々が続いた。
掃除が捗り過ぎて困る。
壁や床、天井は勿論、各部屋の寝床や皆が使っている物まで何でも綺麗にしていく。
魔法を覚えてから格段に効率が良くなり、手が届かない細部の汚れや物の殺菌など、掃除範囲も広がった。
トイレや食糧庫もリフォームを重ね、遂にはトイレに換気の為の穴をあけることに成功し、汚物臭さえしなくなった。
食糧庫にも魔法で作った氷を常備させ、庫内の温度を下げることで食糧の保存状態も良くなった。
氷の作成担当は専らオレとリディアだが、最近ではどちらがより大きい氷塊を作れるかを競いあっている。
生活水準もかなり高くなってきたのではなかろうか。
自分が過ごし易くするためだったとは言え、やり過ぎた感はある。
だが、掃除は生物が生きていく上で、終わることの無い果てしなきもの。
今後も継続あるのみだ。
自作の歯ブラシで歯を磨きながらそんなこと考えていた。
やっぱり歯は綺麗にしておかないとダメだよな!
剣の訓練も順調だ。
新しく手に入れた剣も、何とか片手で扱えるようになった。
研ぎすぎて短くなった剣と合わせて二刀流にするつもりだ。
あと、槍と共に生活するのが功を奏したのか、カインの槍捌きが格段に進歩している。
時折オレでも受け流せないほどの鋭い攻撃を繰り出してくる。
「今の良い感じだったよな!」
「ああ、只の棒じゃなかったら間違いなく戦闘不能だな」
「大丈夫だよ。セシルが大怪我してもエクストラヒールで治してあげるから」
「……その時は頼む」
更につい先日、ローザが光魔法上級の『エクストラヒール』を詠唱出来るようになった。
魔力量が少ないため1日1回が限度だが、初の上級魔法だ。
オレやリディアのやる気に火を点けたのは言うまでもない。
因みに魔法の修得状況だが、オレは火・土魔法が初級、水・風・光魔法が中級だ。
ローザは光魔法に特化しており、回復系だけ上級。
リディアは初級魔法を全て覚え、火・土魔法が中級という感じだ。
リディアは狩りに行かない時は、一日中ずっとジイジの部屋で魔法書の解読してるから、使える魔法の種類は一番多い。
オレ?勿論掃除に大活躍な水と風魔法を率先して覚えた。
超高圧洗浄で頑固な汚れも一瞬で落とし、ダイ○ンも真っ青な吸引力でホコリすら残さないぜ!
魔力切れで度々倒れてるから、魔力量も上がってると信じたい…
余談だが、最近は母ゴブリンマミーへの親孝行も行っている。
毎日魔法で作った温水で体を服ごと洗い、温風で乾燥させ常に清潔な状態にしている。
これは掃除仲間は勿論、たまに他のゴブリンからも頼まれるのでその都度やっている。
食事も新鮮な食材を使い、栄養バランスにも気を遣っている。
肉などは過熱調理して食べやすくし、ちゃんと器に盛って見栄えも考えている。
食卓が一気に華やかになった。
お陰でマミーの肌はゴブリンの肌とは思えないくらい、張りがあり艶が出ている。
冒険者から拝借した魔道具の中に何故か髪飾りもあったので、プレゼントしたら大層喜んでいた。
「セシルが頑張ってるから、私も何かやろうかしら」
「魔法なんか良いかもよ、便利だし」
「そうね、じゃあジイジに聞いてくるわ」
その流れでマミーが他のゴブリン達を誘ったりして、今やジイジの魔法教室は大盛況だ。
いつもオレが魔法を使っているのを見て、興味があったゴブリンも居たようだ。
…キングも悪戦苦闘しながら本とにらめっこしているのを見かけた。
こうやって皆の生活が豊かになっていくのを見ると心が安らぐ。
ゴブリンに生まれた時は絶望したものだが、今の生活が悪くないと思っているのも事実だ。
あとは、この洞窟、この群れをどうやって守っていくかだ。
キングはこの群れのボスだし、勿論強いと思う。
しかし、相手が軍隊だったり奇襲や罠などには全く歯が立たないだろう。
先ずは洞窟に敵を近づけないこと、そしてもし敵が来たときに防戦が出来ること、この2つをキングに提案しよう。
「確かにオレが戦うにしても数が多かったら止めらんねえな」
「そうですね、数には数で当たるのが最良ですが、群れの人数は莫大には増えません。しかし人間は繁殖力で言えば生物一なんです。やはりこの洞窟に近付かせないのを第一に考えるべきでしょう」
「何か良い案があるのか?」
「はい、自分には仲間が3人居て、狩りなども一緒にやっています。自分達が遊撃隊となって、敵と戦いながら洞窟から引き離します。その間に群れを避難させるか防戦の準備をする時間が稼げます」
「お前達がやるのか?」
「キングは群れのボスですから、緊急時には皆に指示を出したり、鼓舞したり、安心させたりとかなり重要な役割があります。自分達ではそれは出来ませんから」
「確かにな、危険だと思うが頼む」
「それと、防戦についてですが……」
キングとの打ち合わせは深夜まで続いた。
隣にいたローザは寝ていた。
「と言うことで、オレ達は敵が洞窟に近付く前に接近し、洞窟から遠ざける役目を担うことになった!」
「はい!質問!」
「なんだね、リディア君」
「『と言うことで』じゃ分かんないんだけど!」
「説明が長くなるから、要点だけ話したんだ!」
「なあ、敵ってどんなのなんだ?」
「まあ、人間が一番危険だな。後は強いモンスターとかかな」
「人間…」
ローザの握った手が震えている。
オレはその手を自分の手で包み、微笑みながら言ってやる。
「オレ達は日頃から訓練や魔法修得を頑張ってきた。だからかなり強いパーティーになっている筈だ。4人で戦えば絶対に勝てる!」
「セシル…」
「そうだよな!このオレの槍で追い払ってやるぜ!」
「まあ、私が居れば心配無いわよ。大船に乗った気でいなさい!船は見たこと無いけど…」
「…頼もしいな」
こうして、オレ達のパーティーは最初の一歩を踏み出した。
「因みにパーティー名は『ローザリア遊撃隊』だ!」
「嫌です!」
「え~」
「ダサいんだけど!」
大不評だった。