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ゴブリンが綺麗好きで何が悪い!  作者: ロドリアンヌ
5/10

第5話 決戦!

 冒険者との戦闘だ。


 わざとゴブリンっぽく叫んだのは、自分を鼓舞するのと、体の緊張を無くすためだ。

 冒険者にどう聞こえているかは知らないが…


 オレは小声で魔法を詠唱しながら前傾姿勢で突進する。

 冒険者は剣を構えているがその場を動かない。


 余程余裕があるのだろう、片手間でもゴブリンなら楽勝だと言わんばかりだ。


 距離が近付き冒険者の剣が頭上から襲いかかる。

 速い!だがギリギリ反応出来る!


 刃が触れ合う瞬間に剣を僅かに傾けて力の向きを変える。

 冒険者の剣が耳の横を通り過ぎる。耳の先を少し斬られた。


『なんだと!』

 そんな声が聞こえたが無視して魔法を放つ。


「『フラッシュ』」

 冒険者の目の前で光が爆ぜた。

 その隙に防御が薄い足の関節部分に剣を差し込んだ。

 すぐに剣を抜き、離れながら小声で詠唱を開始する。

 オレが居た場所を冒険者の剣が空振りした。


『ぐっ…!魔法だと!』

 痛みと驚きと目がやられてパニックの筈だ。

 一気に片をつける!


「『ウォーター』!」高圧洗浄機バージョン、しかも最大出力で冒険者の顔に高圧の水を叩き付ける。


 突然の衝撃に冒険者は両手で顔をガードした。

 魔法を唱えた時点から冒険者に徐々に近付いていたので、今は目の前だ。

 オレは剣をガードの下の首の当たりに思い切り突き出した。

 剣が首に吸い込まれていく。


『ぁ、………』

 冒険者は声を出そうとしたが剣で遮られ、そのまま前に倒れ込んできた。

 のし掛かられのを避けるため、剣を抜き体を横にずらす。


 そして、倒れた冒険者の首に剣を振り下ろし絶命させた。



「はあ、はあ、…何とかなった」

 オレは大の字に倒れ込んだ。

 神経を研ぎ澄ませていたのと魔力欠乏で体が限界だ。


 ローザの方を見る。

 本当に救えて良かった…


 そのままオレは気絶した。



 目を覚ますと自分の部屋に居た。


「マミーさん!セシルが目を覚ました!」

「ローザ、無事で良かった…」

「うん!セシルが助けてくれたんだよね?」

「ああ、ギリギリだった。もう少し遅れていたら危なかったな」

「…ありがとう」

「助けるのなんて当たり前なんだから、礼は良いよ」

「それでもだよ!」


「本当に貴方は頑張り過ぎよ」

 マミーが近付いてオレを抱き締めた。


「ごめん」

 だいぶ心配をかけただろう。

 謝罪の言葉がすんなりと口から出た。


「あの後どうなった?」

「少ししてカインとリディアが駆け付けてくれたみたい。私とセシルが倒れているのを見たときは死ぬほど驚いたんだって」

 もしオレが倒すまではいかなくても、2人がなんとかしてくれた可能性はあるな。


「そう言えばキングが、セシルが起きたら自分の部屋に来るようにって言ってた」

「そうか、それじゃあ行くかな」

 立ち上がって自分の体を確認してみる。

 よし、どこも異常はないようだ。

 耳の先っぽも元通りになっていた。


「ローザが治してくれたのか?」

「うん」

「オレの方こそありがとうだな」

「助けるのなんて当たり前なんだから、お礼は良いよ」

「ははは」

 ローザがオレと全く同じセリフを言うもんだから笑ってしまった。


 キングの部屋に行こうとしたらローザが付いてきた。


「ローザも行くのか?」

「うん、ダメ?」

「別に良いと思うが…」

「じゃあ、一緒に行く!」



 キングの部屋に着いた。


「おお、セシルか!無事で良かった。オレが狩りで居ない間に人間が来るとは…」

「人間も偶然この洞窟を見つけたみたいでしたし、咄嗟のことだったので自分が戦いました」

「そうか、良くやったな!ああ、お前を呼んだのはこれをどうするかと思ってな」

 キングの横にはあの冒険者の剣と鎧、そして色んな道具が置いてあった。


「お前が欲しいのがあれば持っていけ」

「ありがとうございます」

 オレは返事をして物色し始める。


 まず…鎧はいらないな、と言うか大き過ぎて装備出来ない。

 キングが使った方が実用的だ。

 剣を持ってみる、こちらも大きいが両手剣として使うのはアリだろう。


 他は、ポーチのような道具袋が2つあったので中身を出してみた。

 キングの部屋の半分が魔物の素材や食糧、魔道具などで埋め尽くされた。


「何をしたんだ!」

「これはたぶん道具袋ですね。見た目より多くの物を中に収納出来ます」

「それ良いな!1つはオレが使う、狩りで役立ちそうだ」

 もう1つはオレが貰った、この前の赤毛熊もこれがあれば楽に運べただろう。


 暫く物色し、剣と道具袋と魔道具を何個か選んだ。


「もう良いのか?」

「はい、鎧はキングが、素材や食糧は洞窟内の皆に分けてあげてください」

「おお、助かるぞ。だが人間がここを見つけたとなるとやはり対策をしておかねばいかんな」

「見張りを立てるとか罠を仕掛けたりが良いかも知れないです」

「そうだな、考えておこう」

 まずは戦う事よりも皆を安全に逃がすことが先決だ。


 キングの部屋を後にする。


「そうだ、ローザにこれを上げるよ」

 オレはそう言ってローザに指輪を差し出した。


「これって…」

「効果は解らないけど綺麗だったからローザに似合うと思ってさ」

 魔術書には鑑定魔法もあったので修得しておかないと。


「セシル…、ありがとう」

 ローザは指輪を両手で包み、祈るように胸の前に持っていく。

 すると指輪が淡く光だして、その光はオレとローザを包み込む。


 もしやと思って自分の指を剣で少し切ってみると、途端に傷口が塞がった。

 早速効果が判明してしまった…

『祈りの指輪』とでも名付けよう。


「びっくりした~!でも魔法と違って詠唱もいらないし便利だね!」

 ローザも興奮気味に喜んでいる。

 後でカインとリディアにも魔道具を渡しておこう。


 でも装備や道具を見るに、あの冒険者は結構強レベルな感じがする。

 オレは後で調べるために取っておいた、1枚の手の平サイズのカードを見ながらそう思った。



 起きたのが夕方だっため、掃除と剣の訓練は取り止めジイジの部屋にやってきた。

 部屋に来る途中で訓練中のカインに改めて無事を報告したらオレに抱き付いて喜んでいた。

 隣のローザがちょっとむくれた顔をしていたのは何故だろうか。


 カインには何かの牙っぽいのを渡した、紐が通してあって首に掛けられるようになってた。



 ジイジの部屋に着くとリディアが魔法の勉強をしていた。


「良かった、無事だったのね!」

「ああ、心配かけてすまない」

「そうよ、二人が倒れてるの見たとき心臓が止まるかと思ったわ!」

「そうか、お詫びにこれをやるよ」

「お詫びだなんて、殊勝な所あるじゃない」

 オレはリディアに腕輪をプレゼントした。


「なかなか良いわね、有り難く貰っとくわ」

 早速着けてご満悦だ。


「人間を倒すとは…、セシルも成長したのう」

「ジイジにも心配かけたな、ごめん」

「よいよい、それより人間は1人だけじゃったか?」

「ああ、オレもそのつもりで戦った。何人か居たら皆を逃がすのに全力を尽くしたと思う」

「そうじゃな、人間の最大の怖さは集団の力じゃ。慢心するでないぞ」

「…重々承知してるよ」


 オレは冒険者のカードを調べるために部屋に残ったが、ローザも新しい魔法の解読をしたいらしく、魔法書とにらめっこ中だ。


 改めてカードを確認する。

 カードの色は銀色、銀等級ってことか?冒険者のランクだろうが、確かめようがないのでこれは保留だ。


 名前は、えっとカルカン・オイシーか、鹿児島の銘菓だな。

 ミドルネームも無いし、貴族とかじゃなくて良かった。

 道楽で冒険者になったりもするらしいからな。

 貴族の権力で探索とかされたら堪ったものじゃない。


 後は何もなかった。

 だが、名前しか載っていないのは不自然だ。

 もしかしてと思い魔力をカードに通してみると裏面に文字が浮かび上がった。


 レベル:32

 ジョブ:剣士

 依頼達成数:214

 預金額:55000G


 もしかして、ベテラン冒険者だったのか?

 依頼達成数も3桁あるし、とても只のゴブリンに負けるレベルではない。

 この世界の基準が判らない以上、推測でしかないが…

 あと、この世界にはジョブがあるらしい。

 ゴブリンもジョブを選んだり出来るだろうか。


 取り合えず情報はこれだけかな。

 いや待てよ、よく考えたら魔法が使える世界なのだ、このカードに発信機のような機能が付いていても不思議ではない。

 この場で破壊しても良いが、カードが壊れる事でギルドに伝達される細工が施してある可能性を考え、オレはカードを洞窟から離れた場所に捨てる事にした。

 用心は重ねたほうが良いだろう。


「ちょっと外に出てくる」

「あっ、待って私も行く!」

「いや、すぐ戻るから心配無いぞ」

「…行くの!」

「…分かったよ」

 なんでこんなに頑ななのだろうか?


 2人で暗くなった森の中を歩く。

 生まれてからずっと洞窟の中に居たので、夜目が発達したのか暗さは殆ど苦にならない。

 周りの気配を探りつつ、いつも利用している小川を目指す。


「セシルは何を調べてたの?」

「あの人間の情報だな」

「何かわかった?」

「判らないことが分かった」

「??」

 ローザが首を捻っている。

 正直オレも首を捻りたい。


 運良く魔物と会わずに小川に辿り着いた。

 カードを流れやすいように何かの葉っぱでくるみ、小川の流れに任せる。

 視界からカードが消えるのを確認してからその場を後にした。



 オレのその行為が何を引き起こすかも知らずに…












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