第4話 序曲!
ある日、森の中で熊さんに出会った。
まずは、ローザが全員に光魔法の『プロテクト』をかける。
これで物理ダメージが半減だ。
リディアは魔法の詠唱が直ぐに行えるように木に隠れるように待機。
カインもすぐに作戦行動に移った。
オレも気合いを入れ直す。
この作戦のカギはオレがどれだけ熊をその場に留めておけるかにかかっている。
剣を鞘っぽい物から抜いた。
毎日研ぎ続けているので、剣が少し短くなったが切れ味は中々だ。
オレ達が居るのは気付かれているだろうから、正面から対峙した。
「来い、熊野郎!悪いが食糧になってもらう!」
オレの挑発が通じたのか解らないが熊が雄叫びを上げる。
「グオオオオオ!!」
熊が立ち上がって右前足を振るう。
こんなのまともに受けたら吹っ飛ぶだろう。
オレは熊の爪を剣に見立て、体を左前方に傾けながら爪が剣に当たった瞬間、力を受け流す。
そのままがら空きになった熊の右腹目掛け、すれ違い様に剣を走らせた。
血飛沫が舞う、手応えはあったが熊は直ぐに振り向き追撃してくる。
「リディア!」
オレの掛け声で木から飛び出したリディアは魔法を放つ。
「土に眠りし大地の精霊よ、我が意思に応え敵を貫け『グレイブ』!」
地面が隆起しだし、熊の背中に向けて鋭い一撃が迫る。
音と揺れに気付いた熊は後ろを振り向いた。
「『フラッシュ』!」
タイミング良く詠唱を終わらせたローザの魔法で、熊は目をやられた。
「グオアアア!」
オレの目の前には熊の無防備な背中姿がある。
「隙だらけだ!」
右後足の健を狙って切った。
熊は痛みでまたこちらを向いた。
それではグレイブの格好の的だ
地面から勢い良く突き出した先端の尖った岩に熊の胴体が貫かれる。
『グガアア…』
岩が突き刺さった状態だがまだ生きている。
凄い生命力だ。
「カイン!」
オレの発した大声と共に、カインが熊の頭上から槍を構えて落ちてくる。
その落下速度と全体重を槍に乗せた一撃で槍は熊の頭を貫いた。
熊は声も上げれないまま絶命した。
「……よし、オレ達の勝ちだ!」
「よっしゃあああ!」
「やったね!リディア!」
「うん!私の魔法役に立ったよね!?」
「凄かったよ!どーん!ばーんって!」
皆興奮している。
そう言うオレも高揚感が凄い。
特に最初の熊の一撃は失敗したらたぶん死んでいた。
成功したあの時の感覚を覚えておかないと。
その後はオレとカインが全身血塗れだったので『ウォーター』で洗い流し、熊の血抜きを行った。
帰りは全員で引き摺って運んだ。
身体強化を掛けて貰ったのに物凄く大変だった…
1トンくらいあるんじゃなかろうか。
洞窟に戻ると熊の話が広まったらしく、ほとんど全員が出迎えてくれた。
因みに熊が大きすぎて入口から入らなかったので、切断して分けて運び入れた。
「またこれは…大物だな!怪我は無いのか?」
「はい、ここまで運ぶのにかなり疲れましたが」
他の3人は疲れてぐったりしている。
「赤毛の熊?オレは見たこと無いぞ」
たまにキングが狩ってくる熊とは違うらしい。
「自分達で倒せた位ですので、弱い熊だと思いますが」
「うーん、弱い熊は別にいるんだが…」
誰1人怪我もせずに倒せたのだ、流石に上位種ではないだろう。
だが、初めての対魔物との戦闘にしては上出来だったと思う。
この調子で訓練を続けていこう。
「よし!お前ら今日はご馳走だ!好きなだけ食え!」
キングの合図で皆一斉に食べ始める。
平たい大きめの石の上で焼いた焼肉や、肉と一緒に野菜や内臓を煮込んだ鍋も好評だった。
「セシルが無事で良かったわ、でも危なくなったら逃げる勇気も必要よ」
マミーが頭を撫でながら心配してくれている。
今回は勝てると思ったので挑んだが、確かにオレがやられたら全滅の可能性もあった。
次からは慎重を期して決断しよう。
熊討伐から数日間、オレは掃除に没頭した。
洞窟の外に出たときに見てしまったのだ。
空からヒラヒラと舞い降りる白い雪を!
どうやらこの地域は日本と同じく四季があり、雪も積もるみたいだ。
その話を聞いたオレは絶賛大掃除中なのだ。
『一年間の汚れは次の年に持ち越さない』がオレのモットーなので、期限は特に決めていないが寒さが本格的になる前に終わらせたい所だ。
現在は通路の天井に高圧の『ウォーター』を吹き掛け、汚れを落とす作業中だ。
ローザが魔法の障壁を展開し、『ウォーター』の水が洞窟の奥に行かないようにしている。
魔法って便利だな!
因みに魔法はエルフが開発したとされているが、大方怠け者のエルフが精霊を使って楽しようと考えたのがきっかけかもしれない。
そう考えると魔法が発達した世界の科学力が低いのも自明の理だ。
「ねえ、セシル。前から思ってたんだけど、なんでこんなに洞窟を綺麗にするの?」
それを聞いちゃうのか?長くなるぞ!
「単にオレが汚いのが我慢出来ないと言うのもあるが、例えばローザは今の洞窟と生まれた頃の洞窟どっちが住みやすい?」
「勿論、今の洞窟!」
「そうだ、悪臭が立ち込めて害虫や害獣が闊歩し、至る所にゴミや埃の塊が落ちている、そんな場所で生活していたら心が荒む。中には散らかっていないとダメな特殊癖の持ち主もいるだろうが、オレには理解出来ない。
…口上を並べても仕方ないな。要するにオレの自己満足だよ」
「自己満足?」
「オレが綺麗な場所で生活したくて、周りも出来ればそうして欲しかっただけだ。深い意味はないよ」
オレの中で勝手に自己完結してしまったが、ローザの反応が無い。
「…………」
ローザはオレの顔をじっと見つめて固まっている。
どうしたんだろうか?
「ローザ?」
「……えっ!あ、ああ、ごめんなさい!セシルの考え方に感動してしまって…」
感動するようなこと言っただろうか?まあ、良いや。
「よし、仕上げに入ろう」
「分かった!この汚れた水を外に捨ててくれば良いんだよね?」
「ああ、宜しく頼む」
オレは『ウインド』で天井を乾かしていく。
乾かし終ってもローザが帰って来ない。
「キャアアアア!!」
その時洞窟内に悲鳴が木霊した。
この声はローザ?オレは壁に立て掛けておいた剣を手にして入口に疾走した。
洞窟の入口には倒れたローザと大きな人影が見える。
人影?人間か!
幸い人影は直ぐには動かず、ローザは洞窟の奥側に倒れていたので人影とは若干距離がある。
オレは直ぐ様、ローザに駆け寄り声をかける。
「ローザ!大丈夫か?」
ローザは肩からお腹まで斬られたみたいで血が流れ出している。
ローザからの返事はない。
息はしているが、危険な状態だ。
『依頼からの帰りに近道してみりゃ、こんな所にゴブリンの巣が在るなんてな。小遣い稼ぎに狩っていくか!それにしてもなんか良い匂いがするな。ゴブリンの巣は目茶苦茶臭いことで有名なんだが…』
この世界の人間の声を聞いたことは無かったが、魔法の勉強のお陰で意味が解る。
ソロの冒険者か?
しかもあの余裕、新米冒険者では無いな。
だが、フローラルな香りがする洞窟に驚いて立ち止まっている。
この隙にオレは先程から小声で詠唱していた中級光魔法の『ハイヒール』を唱えた。
ローザの傷が見る見るうちに塞がっていく。
息も落ち着いてきた。
こちらはもう大丈夫だろう。
オレは改めて冒険者と向かい合う。
狩ると言っていたので、戦うしかないだろう。
キングならなんとかなるかもしれないが、生憎狩りに出掛けている。
カインとリディアは2層の掃除を頼んでいたので悲鳴が聞こえていない可能性がある。
オレの力が通用するのか?
だがオレが殺られたら洞窟内のゴブリンは全滅するだろう。
やるしかない!!
オレは剣を抜き放った。
『ん?なんだこいつ、一丁前に剣を持ちやがって。ゴブリンなら棍棒位にしとけよ』
こちらを雑魚と思ってくれているなら好都合だ。
「グギャアアアアアア!!」
オレは大きく息を吸い込み、冒険者に向けて怒号と殺気を叩きつけた。