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ゴブリンが綺麗好きで何が悪い!  作者: ロドリアンヌ
3/10

第3話 名前を命名!

 数週間経った。


「ふふ、良く眠れた?」

 オレは母ゴブリンの膝枕で寝ていたようだ。


「あんまり無理しちゃダメよ」

「うん」

 確かに部屋に戻ってからの記憶が無い。

 寝落ちしてしまったのだろう。


 洞窟の掃除、剣の訓練と魔法の勉強、どれも疎かには出来ないため、頑張りすぎて疲労が溜まっているのだろうか。


 洞窟内の掃除は1回りしたため、今は2周目に突入した。

 掃除は一回やって終わるものではない。

 続けてやることで綺麗さが維持出来るのだ。


 だが最近は、自分の部屋は自分で掃除するゴブリンも増えてきたので、通路や広間、食糧庫やトイレを中心にやっている。


 掃除仲間も増えた。

 女の子ゴブリンの他に別の男の子ゴブリンと女の子ゴブリンだ。

 オレと同世代なので仲良くやっている。


 翌日、ボスに頼みたいことがあったのを思い出した。


「ちょっとボスの所に行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。いつもありがとうございますって伝えておいてね」

 ボスの部屋に向かう途中も、汚れている箇所がないかの確認は怠らない。



「名前?」

「そうです。皆に1人ずつ呼び名を決めてもらったら色々便利だなと思って」

「それ良いな!よし、皆を集めよう」

 ボスの号令で皆が広間に集まった。


「今から全員に自分の名前を決めてもらう!」

「名前って何?」

「知らないな」

「名前って言うのは1人1人の呼び方の事だ。今まではオレの事をボスと呼んでいたと思うが、今度からは『キング』と呼べ!」

 若干意味が被ってるように思うが…まあいいか。


「じゃあ、オレは『ゴンタ』で!」

「私は『バニラ』が良いわ」

 皆それぞれ思い思いの名前を決めていく。


 さて、自分の名前はどうしようか。

 特にこだわりは無いので何でもいいのだが…

 前世でやったゲームのキャラの名前にするか。


「名前何にしたの?」

 女の子ゴブリンが聞いてきた。


「『セシル』だ」

「セシル…、なんかカッコいいね!」

「ありがと、君は?」

「全然思い付かなくて…、そうだ!セシルが決めてよ!」

「そうだな、じゃあ『ローザ』だな」

「ローザ…、なんか素敵ね!」

 オレが考えたわけではないのでなんか申し訳ないな。


 これでこの群れのコミュニケーションも円滑になるだろう。

 因みに母ゴブリンは『マミー』が良いそうだ。

 被ってるから!



 朝からの掃除も終わり、今は剣を素振り中だ。

 片手でもかなり振れるようになってきた。

 オレが素振りしているのを見て興味が湧いたらしく、掃除仲間の男の子ゴブリン『カイン』が、隣で槍を持って突いたり回したりの練習をしている。

 そろそろ次の段階に移ろう。


 カインに好きに打ち込んでもらい、それを剣で受け流していく。

 ゴブリンの体格上、力が強い冒険者と戦ったら間違いなく競り負ける。

 受け流して敵の隙を誘い、攻撃に転じるやり方を身につけたい。


「もっと、腰を落として突き出せ!腕の力だけだと威力も出ないぞ!」

「了解!こうだな」

「そうだ!槍の間合いを考えて中に入られないにするんだ」

「間合い…、これくらいか?」

 カインも自分の動きを反復し、試行錯誤している。


 カインは努力家だ、槍と共に生活するという極端な面もあるが、徐々に訓練の成果も出始めており、良い訓練相手になっている。


 訓練が終わると次は魔法の勉強だ。

 カインは納得いく所までやりたいらしく、広間で別れた。


 メイジゴブリンのおじいさん『ジイジ』の部屋に行くと先客がいた。


「あっセシル!待ってたよ~」

「ローザも来てたのか」

「私も居るんですけど!」

「賑やかになったのう」

 掃除仲間のローザ、そしてもう1人は『リディア』だ。

 ローザの名前を決めた後にカインとリディアもオレに決めろと言ってきたのでこうなった。

 もう1人はきっと後から仲間になる筈だ。


 オレは中級の魔法書を手に取り腰掛けた。

 初級魔法はジイジの手助けもあり、なんとか覚えることが出来た。

 中でも風魔法の『ウインド』と水魔法の『ウォーター』はオレの清掃活動に革命をもたらした。

『ウインド』で定期的に洞窟内の空気を入れ替え、『ウォーター』を高圧洗浄機の要領で使用し、頑固な汚れを落としていった。

 後は火魔法の『ファイア』も水や食器の殺菌が行えるので重宝している。


 ジイジは魔法は覚えたが魔力量が少ないらしく、頻繁には使えないそうだ。

 オレ?何回も魔力欠乏になったお陰で地道に底上げされている。

 掃除に妥協の2文字は無いのだ!


 ローザとリディアが参加し始めたのは最近なので、まだ人間語の勉強中だ。

 オレが魔法を使っているのを見て自分達も使いたくなったらしい。

 因みにローザは光魔法、リディアは全部の魔法を覚えたいそうだ。



 中級魔法の本を読んでいく、魔法名と説明がこの世界の言葉で書かれており、ここまでは普通に読めるようになった。

 だが詠唱の言葉は精霊語かなにかわからない文字で書いてあり、案の定読めない。

 しかも詠唱は何故か口頭で伝えることが出来ない鬼仕様だ。

 初級はジイジの手助けもあり、なんとか解読し詠唱することが出来たが、中級からはジイジも全く解読出来なかったみたいで、勿論オレにも解読できない。

 初級魔法の詠唱と被る部分と読めない部分に分けて、読めない部分をパズルのピースのように1つずつ推測で解読していくしかなかった。

 根気強くやっていこう。



 そうして、1ヶ月くらいの時が過ぎた。


 今や、洞窟内は壁や通路が磨きこまれゴミ1つ落ちていない。

 しかも以前の悪臭が嘘のようにフローラルな香りに包まれている。

 ゴブリン達も小綺麗になり、毛皮で作った服のようなものを着ている。

 ボロ布を纏う者は居なくなった。


 食事も素手で食べたりすることは無くなり、オレが作って配給した木のスプーンやフォークを使うようになった。

 食べ溢しが減り、害虫や害獣も激減した。


 快適になってくると更なる快適さを求めるのがオレの性。

 現在は洞窟の外に出れるようになったため、色んな自然の素材を集めることが出来るようになった。


 初めて外に出た時は異世界の景色に感動するかもと思っていたが、周りは深い森だったので期待を裏切られた。

 だがこの深い森のおかげで人間が来ないのならば有り難くもある。

 どうやら人間の集落とこの森は生活圏が被っていないみたいで、キングも生きている人間には会ったことがないらしい。

 まあ、もし会っていたらここには居ないだろうしな。

 森で遭難したり魔物に襲われた人間の死体から武器や防具などを拝借しているそうだ。


 たが用心は必要なので、キングに色んな洞窟防衛策を提案し形にしている。

 例えば、洞窟の入口の前に大きな岩を置き、入口が岩の陰になるように配置し、岩にも周りの景色と同化するようにカモフラージュを施した。

 入口の横側からじゃないと洞窟があることすら解らない。

 後は、正面入口以外の通気口兼脱出口を作った。

 これは洞窟内の空気循環にも役立っており、緊急時にだけ外への脱出経路として機能する。

 他にも洞窟周辺の木や地面には極力手を加えず、自然な形を残した。

 防衛と言うより回避だな。

 戦いが起きないようにするのが一番だ。

 洞窟には子供や年寄りも居るのだから。



 話は戻るが、ゴブリン生活を快適にするために時たま外に素材探しに出かける。

 出かける時は掃除仲間の4人でパーティーを作り、役割分担をして周りを警戒するようにしている。


 オレが先頭で索敵を行いつつ道を作る。

 ローザが光魔法での回復と支援担当。

 リディアはまだ攻撃用の魔法しか覚えていないので荷物持ち。

 カインが殿で後方の警戒だ。


「なんで私が荷物持ちなのよ!」

「リディアの魔法は敵と会わないと使えないし…」

「普通、男が持つでしょ!」

「でもローザの魔法で身体強化されてるから重くないだろ」

「それはそうだけど…」

「いざという時はリディアが居ないとダメなんだ!」

「そ、そう。分かれば良いのよ!」

 話のすり替えに成功した。

 まあ、この分担が結局一番良いので代えられないんだけど。


 森の中を進むことしばし、少し先に生物の気配を感じた。


「気を付けて、この先に何かいる」

 オレの言葉に3人も警戒を強める。

 さらに近付くにつれて全貌が明らかになった。

 全身赤毛の大きな熊がそこに居た。

 体長3メートル程で自分達から見たら大きな岩のようだ。

 まだこちらには気付いて居ない。

 皆で固まり作戦を立てる。


「どうしようか?今まで一角ウサギみたいな小さい魔物しか相手にしなかったから、今回はかなり危険になると思う」

「私はセシルの決断に任せるわ」

「私の魔法が炸裂するわよ」

「日頃の成果を試す時だな」

 確かに安全圏で戦っていても強くはなれないだろう。


「よし、じゃあオレの考えた作戦を伝えるから良く聞いてくれ」

 ……そうして作戦会議も終わり、皆に発破をかける。



「今日の晩御飯は熊鍋だ!」






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