第1話 ゴブリン生活!
あまり難しく考えずに読んで下さい。
お願いします!
気が付くとオレは誰かの腕に抱かれているみたいだった。
さっきまで真っ白い部屋で神様みたいな人と転生がどうとか話していたのを思い出す。
無事に転生出来たことに安心し、改めて周囲を確認してみる。
だがオレの首の稼働域はそんなに広くなく、周りが薄暗いため、自分を抱いている人物を確認するので手一杯だった。
異世界転生と言うと、地方貴族の家に産まれ美男美女の親の顔を遺伝し、チートを使い特に苦労することなく生きていくのがデフォルトだと思っていたオレは、さぞかし自分の母親であろう人物も美人なのだろうと予想していた。
だが、その顔を見た瞬間オレは凍りついた。
長い鼻に尖った耳、大きな瞳とボサボサの髪、そして緑色の肌。
何処をどう見てもゲームやアニメで見るようなゴブリンだった…
オレは絶望し泣きまくった、だがその母ゴブリンの腕の中であやされている内に心が落ち着き泣き止んだ。
じばらくして、現状を思い出してまた泣き出し、母ゴブリンから離乳食のような物を食べさせて貰い、お腹が満たされたので泣き止んだ。
排泄物が気持ち悪くなって泣き出し、綺麗にしてもらったら泣き止んだ。
…オレはゴブリンの赤ちゃんだった!
それから数週間経ち、オレは母ゴブリンの腕を離れ自分の足で立って歩いていた。
ゴブリンの成長速度はかなり早いらしく、背も大人ゴブリンとまではいかないが80㎝くらいになっている。
「あんまり遠くに行っちゃダメよ」
母ゴブリンがそう声をかけてくる。
「うん、わかった~」
いつものように返事をし、オレは洞窟の探索に乗り出した。
普通に会話が出来ているのは違和感しかないが、ゴブリンに育てられたらゴブリン語を理解出来るのは当たり前だ。
だが人間には「グ、ギャギャッギャ~」とか聞こえるのだろうか。
ここ1週間ほど探索した結果だがこの洞窟は2層しかなく、2層の奥にこの群れのボスの部屋がある。
多分、ボブゴブリンと呼ばれるゴブリンだろう。
体は他のゴブリンと比べて一回り大きく、武器と防具を身に着けているのが特徴だ。
一度、外の見回りから帰ってきた所に出くわしたことがある。
「おお、好奇心旺盛なのは良いが洞窟の外には出るなよ、危ないからな」
そう言って無骨な手で頭を撫でられたのが印象に残っている。
他のゴブリン達にも扉は無いが部屋が割当てられており、オレと母ゴブリンの部屋は1層の真ん中ぐらいにある。
他にも食糧や水を保管・解体する部屋や排泄物を処理する部屋、皆を集めて集会を開く広間なども存在する。
ゲームやアニメなどではそんな所は描写されないが、知能がある生き物が群れで生活するならば当たり前だよなと妙に納得した。
で、本題なのだがオレが探索するのにはわけがある。
それは人としての人生経験があるオレだから思ったことなのだが、洞窟内は汚くて臭いのだ!
臭いは産まれた時から嗅いでいるので慣れたが、汚いのは見過ごせない。
最初は自分達の部屋をボロ布と水で綺麗にしたのだが、そうなると他も気になるのがオレの性格で、今は気になる所を見付けては拭き掃除を敢行している。
数日前に食糧保管庫を綺麗にし、次の掃除場所を探しているのだ。
そうして洞窟内を歩いていると、狩りに出かけるボブゴブリンとお伴の集団が前方から歩いてきた。
「おお、お前は最近洞窟内を綺麗にしている奴だな、有難いことだ。日頃の食糧調達でそこまで気が回らんからな、ついでにオレの部屋も綺麗にしてくれんか?何か欲しい物があったら褒美にくれてやる」
「分かりました、お仕事頑張って下さい!」
「おお、でかい獲物を狩ってくる!」
ボブゴブリンはそう言って「ガハハ」と笑いながら出かけていった。
やっぱり群れのボスの部屋が汚かったら駄目だよな、念入りに掃除しとこ。
それからボス部屋をみっちり掃除した。
まず、乱雑に積み上げられている物を整理整頓し、床のゴミを自分で作ったホウキっぽい物で部屋の外に掃き出す。
そして、壁や床を綺麗になるまで何度も拭いた。
「よし!終わったぞ」
自分が納得出来るまでには綺麗になった部屋を見渡すと、ふと壁に立て掛けておいた剣が目に入った。
もしこの世界に人間が居るならば、自分がゴブリンである以上討伐対象に他ならない。
しかもザコキャラの扱いだ。
凄腕の冒険者に殺されるならまだ諦めもつくが、新米冒険者に倒されるテンプレみたいなのは嫌だ。
ボブゴブリンが何かくれると言っていたので剣を貰って訓練することにした。
その日、狩りから帰ったボブゴブリンは自分の部屋を見て驚いた。
まず、物が種類別に集められ、部屋も広くなっている気がする。
歩く度に舞っていた埃も無く、壁や床のシミまで綺麗になっていた。
しかも、いつもの臭いがしないばかりか、爽やかな香りまでする。
香りの元を辿って行くと、水などを飲むための入れ物に果物の絞り汁が溜まっていた。
ボブゴブリンはあの子ゴブリンがここまでしたことに感動し、上機嫌で眠りについた。
翌朝の目覚めも最高だった。
いつもであれば、口の中がガラガラで水を飲んで洗い流していたのだが、それも無い。
爽やかな香りのお陰で、起きてすぐだが頭がハッキリとしており、そのまま部屋を見渡せばゴミ1つ無い状態で気分も良くなった。
そして、考えることしばし、ボブゴブリンはあるアイデアを思い付いた。
「ボスの部屋を掃除するなんて偉いわね~」
母ゴブリンがオレの頭を撫でながら昨日の事を誉めてくる。
洞窟内には照明が無いため、基本的に疲れたら眠りにつき、起きたら活動開始だ。
所々にある岩に付着している光ゴケのおかけで真っ暗闇ではないが、常に薄暗い状態である。
昨日は気合いを入れて掃除したので、部屋に帰り着くなり寝てしまったのだ。
「いつもみんなの食べ物を取ってきてくれるんだから当たり前だよ」
「今日も何処か掃除しに行くの?」
「うん、今日はたぶん広間かな」
「昨日みたいに頑張り過ぎちゃダメよ、ご飯もちゃんと食べなきゃ大きくなれないわ」
「うん、程ほどにしとく」
若干過保護気味な母ゴブリンとの会話を終わらせ、掃除に繰り出そうとしたときだった。
「おお、この部屋の坊主は居るか?」
ボブゴブリンが訪ねてきた。
「ボス、何かご用ですか?」
「おお、お前の子供に用事があってな」
「オレ?」
「おお、昨日はあんなに部屋を綺麗にしてくれて嬉しい限りだ。いつもより快適に眠れたぞ!」
「それは良かったです」
「そこで頼みがあるのだが、お前をこの群れの掃除係として任命したい」
「良いですよ、元々洞窟内を全て掃除するつもりでしたから」
「おお、本当に助かるぞ!気持ち良い目覚めは重要だと感じたのでな。あと、昨日言っていた褒美の件だ。何か欲しい物はあるか?」
「それなら、ボスの部屋にある剣を1本下さい!」
「おお、いっぱいあるから好きな物を選んで良いぞ。オレは今から狩りに行くから勝手に持っていけ」
「ありがとうございます。狩り頑張って下さい!」
「おお、掃除もしっかり頼むぞ」
「はい!」
そうして、ボブゴブリンは部屋を後にした。
「もう剣を扱う歳になったのね、子供の成長は早いわ~」
事実早いからな…
「じゃあ、頑張って行ってらっしゃい!」
「行ってきます」
こうして、オレのゴブリン生活が幕を開けた。