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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

貴方に逢いに逝く

作者: Alcohol Holic

リハビリ用の小話です。

私はいつも笑っている変な子だって昔は言われていた。

自分ではそこまで笑っていた訳では無かったが、他人からすると私はそんな風に見えていたようだ。

そんな私は、小学校に入ってから高校に入って一年経つまで。それが理由でイジメを受けた。どうやら、彼等には私がとても気味悪く思えて仕方無かったらしく排除しなければって、その時はそう思い込んでいたという。これは、私を虐めていた彼等が再会した時に語ってくれた弁だ。語ってくれた後に皆申し訳無かったって、虐めてた私に頭を下げてくれた。

これも、きっと私の表情が治ったからに違いない。

私の表情が治ったきっかけはたぶん『彼』との出会いだ。


彼を初めて見たのは、確か高校の入学式の時だった。入学式の時に遅刻しかけた私はその時急いで走っていたのだが、そんな時に同じく遅刻しかけていた自転車に乗った彼が横を通って、多分同じ制服の、それも女子だったからだろう、私を後ろに乗せてくれたのだ。それが彼との最初の出会いだった筈だ。

その出会いの後も偶然な事にクラスが同じだったため、彼と話す事が多くなった。だが、その時は私の表情は治ってはなくイジメという程では無かったがほぼ孤立していた。ほぼなのは、彼だけが私に話し掛けてくれていたからだ。

入学してから二ヶ月程たって、彼に聞いた。


『私の事が気持ち悪くないのか?』って。


すると彼はこう返した。


『芸術品のようにとても綺麗に見える』


その言葉を聴いた時は不覚にも固まって暫く動けないでいたし、つい彼に何度も本当かどうか尋ねてしまった。私はその言葉を自分の主観では産まれて初めて言われた。そう認識している。


そして、その言葉を聴いた時から彼との距離が近くなったのはきっと私だけの気の所為では無かったと思う。というより、気の所為だったら私は彼を『アナタ』と呼ぶ程近しい関係にはなれてなかっただろう。

彼は私とは真逆だと思う。余り笑う所は見た事がないし、笑っても薄く笑うくらいだ。でも、私より表情がわかりやすい。それに彼には私と違って友達がいた。同性だけ、それも三人だけだったけど一人一人が個性的で面白い人達だった。それに私の表情の事もそこまで気にしないでくれた。






そんな彼等は、私の前で泣いている。いや、泣いてくれている。


お前がいなくなって悲しい、って。


もう、一緒にゲーム出来ないんだな、って。


今まで、ありがとう って。



彼等とは高校を卒業しても、彼と一緒だった。仕事場所は違っていた。皆それぞれ夢があったから。でも、一週間に一度は皆で集まって色々やった。


ファミレスで愚痴を言い合ったり、彼の家で二十四時間耐久のゲームパーティーとか、普通に酒盛りしたりとかさ。


彼はいない。彼はずっと遠くに行ってしまったから。誰も手の届かないずっと遠くに。




彼は自分で行ったんだ。



それは暑い夏の日の事だ。



あの日の事は今もしっかり覚えている。寧ろ忘れる事が出来ない程に頭にこびり付いて、夜眠れないくらいだ。寝ても夢で見てしまうから寝た気なんてしない。


咽び鳴く蝉の声、鳴り響く警告の音。


『×××××、××××』


『××、××××』


彼の朗らかな声、そして今でも耳に残る潰された音。


ほんとに突然だったし、偶然だった。


あの日、私は買い物の帰りでその道を通っただけだった。よく通る道で、家までの一番の近道がそこだった。そしたら、そこにある踏切の前に彼が立っていたのだ。その時には既に警告の音は鳴り響いていた。私は当然の様に彼に声を掛けたのだが、彼は。



笑って二言程私に言ったら、踏切を越えた。



とても素敵な笑顔で、私はそれをその時初めて観た。



そして、彼は飛散るようにいなくなった。


彼の体躯は酷く、でも少し綺麗にも見えるように潰れていた。まだ、右腕が見つかっていないらしい。都市伝説だと、警察以外が見つけたりって多いなってふと思ってしまった。


家に帰るとテーブルの上に紙が置かれていた。


『さよなら、楽しかったよ!』


無責任にそれだけ書かれていた。理由なんて書かれてなかったし、誰に聞いても分からなかった。


彼は他の人が知る限りは最後まで無表情で、でも、とても満足そうな顔をしていたらしい。これは同僚の人に聞いた。

突然過ぎて、悲しむ暇すら無かった。


警察の方にも話を聞かれたし、彼の親族からは殴られた。

まぁ、当然だろうか。私は彼とずっといたのに気づけなかったのだから。正直今でも理由が分からないのだけど。



彼がいなくなって季節は変わった。あの暑かった八月から涼しい九月になった。でも、彼のいない現実は変わらない。

仕事にも身が入らない。あの景色が忘れられなくて踏切の近くもまともに歩けない。テレビで電車の特集を観ただけでもあの景色がフラッシュバックしてくる。

あの日から何度吐いた事か。いまでも、数こそ減ったけどたまに吐くことがある。それは気晴らしに出掛けた街でだったりするし、仕事場だったり、外での事が多い。特に暑い日が一番だ。

だから、私は暑い日が嫌いだ。



こうやって綴っている今も吐きそうなくらいだ。


彼がなんでいなくなったかは分からない。


苦しかったから?


辛かったから?


それとも、


満足したから?



ならいいのか?


誰にも、私にも何も言わずに、親友達には哀しみを残して、線路には赤い跡を残して、私にはトラウマだけ遺して。


ほんとにそれで良かったとでも思っているのか。


私は許さない。


彼を許さない。


私を一人にした彼を許さない。


トラウマを遺した彼を許さない。



.....................................



階段を登る。一歩一歩踏みしめるように。


彼との思い出を浮かべながら一歩一歩。


そこに着くのに掛かった時間は五分か、十分か。もしかしたら、一時間かもしれない。そう思う程長かった。



扉を開ける。地獄に繋がる扉、天国には繋がらない扉を私は開けて通り抜けた。


其処から見える風景は綺麗だった。少し遠くにはあの踏切も見えていた。もう気にしてない人もいるのかな、あの事から一ヶ月が過ぎていて、もうそろそろ二ヶ月にもなる。


今日もとても暑い日だ。十月近いのに気温が三十四度を記録していた。ほんとに暑くて嫌になる。


今日は不思議と吐き気がない。寧ろ清々しい気分だ。


一歩一歩足を踏み出す。震えはない。


一歩一歩前に進んでゆく。恐怖はない。


一歩一歩柵を超えてゆく。悔いはない。


明日はもしかしたら雨が降るかも。


ふと、昨日みた天気予報が浮かんだ。もう私には関係ない事ではあるけど。



さあ、最後の一歩を踏み出そう。




身体が空中に浮かぶ。




彼が最後に言った言葉が蘇った。



『ありがとう、ごめんよ』

「ゆるさない、ぜったいに」





『「また、逢おうね」』






















「今、逝くよ」



潰れて逝く感覚は不思議と痛くなく、自分の赤がとても素敵に魅えていて、今やっと少しだけ彼のあの時の気持ちが分かった気がした。



もしかしたら、同じ世界線で話書くかもです。

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