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フェンリルさん、おいしそう  作者: ひなみそら
第二話:楔ありけり
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その者、名探偵

「口を大きく開いて『あー』」

「あー」

「今度は閉じて『いー』」

「いー」

 何事も無く一晩過ごした私達は、アーデインの武器を作ったと言う職人の住居に向かってる。山の中の細い街道を行くアーデインは拾った枝で上機嫌に葉っぱを叩きながら進んでいた。

 私は毛布に包まった姿で意外と筋肉質のロバの上にまたがって楽をさせてもらってる。上半身のバランスをとるいいトレーニングになってる。

「へっへ。いい感じだ。口の形を変えるだけじゃないんだぜ。舌を動かすんだ」

 アーデインはかなり気さくな性格で、私が喋れなくても積極的に声をかけてきた。そして、朝からは発声練習に付き合ってくれているのである。いい奴。褒美をとらせようかな。

「ほら、みてみろよ。おれっち、口を動かさなくても喋れるぜ?」

 振り返ったアーデインは口を閉じたまま流暢に喋って見せた。口の形よりも舌の動きが重要、というのを物語っていた。

 私は少し考えて、口をもごもご動かして練習する。そして彼が前を向いたタイミングで、それを口にしてみた。

「あーでいん」

 驚いた顔で硬直したアーデイン。その横をロバが悠々と進んで行き追い抜く、大きな目がこぼれそうなほど目を見開いた彼に私は悪戯っぽく笑ってみせた。

「へ、へへ。えらい上達がはやいな」

 追いついた彼は私を見上げて言った。そんな彼に得意げに胸をそらしてやる。

「とうぜん。こちょば、が、りかいできるんにゃ、から」

 舌を噛みまくりでそらしてた胸も丸くなる。得意になってた手前、結構恥ずかしい。

 でもアーデインは少し笑っただけで、すぐに先を歩き始めた。心なしかさっきよりも歩調が軽い。

「ま、そうだよな。こっちの言ってる事がわかんだもな。赤ん坊みたいにカタコトになるはずねぇや。歩けるのもすぐかもな。へへ。しかし最初に喋ってくれた言葉がおれっちの名前とはね……やべぇ。うれしいじゃねえか」

「……べつに、ふかいいみは、にゃいよ?」

「うん。あぁ、わかってる。そこまで自惚れちゃいないさ。へへ。でもうれしいじゃねぇか」

 うれしいならいいけど。

「うれしいじゃねえか!」

「うっさい」

 大声で言うほどの事じゃない。しかも彼は手綱を放して少し先まで走り、口の両脇に手を当てた状態で山中に響きそうな声で叫んだ。


「おれは、美少女の初めての男になったぞー!」


 おいぃ…。

 勘違いするような事を叫ばれて、燃やされたみたいに体が芯から熱くなる。しかも木霊してエコーがかかってた。

「あ、あーでいん、ちょっとだみゃって!」

 言うけど、彼は親指を顔の前で立ててなぜかしたり顔だった。ゴブリンがやるとちょっとうざい。


『うらやましいぞこのやろおおおおおおぉぉぉぉ!』


 そしてどこからかそんな木霊が聞こえてきた。顔まで真っ赤になってしまう。アーデインの親指を立ててた手がピースサインになった。白い歯がきらめく。うざい。

 せっかく会話ができるようになったけど、その後私は彼の言葉を一切無視し続けた。


 時間は流れて昼。


「そんな怒らなくたっていいじゃんよ」

「勘違いされるような事、喋るから」

 街道が見える林の中で、簡単な昼食。かぴかぴに乾いたパンに、煎り豆。パンの中にも豆が入ってて、栄養だけは高いみたいな事を言ってた。おいしい。素朴だけど。

 歩きながらでも食べられるメニューだけど、動物に乗りなれてない私は休憩を提案したのだ。本当はちょっとお尻が痛いけど、それを伝えるとまた煩い事になりそうだから黙っておいた。

 アーデインが馬鹿騒ぎした後、私は小声で喋る練習をしてた。目に付く物の名前を手あたり次第に口にした。体が既に発達していて、言葉の繋ぎ方を知っているだけであっという間に喋れるものだ。舌足らずな喋り方になってしまうのは仕方ないけど、半日でここまで喋れるようになったのは流石私としか言いようが無い。

「でさ。喋れるようになったんなら色々聞いてもいいか? 結局どこから来たんだ? どうしてあんなとこに? 歩けないのはなんで? 名前はなんつーの?」

「…一度にきかないで」

 豆をコリコリしながら考える。アーデインはいい奴。だから素直に喋っても問題ないと思うんだけど、私が魔王の配下で、しかもフェンリルで、殺されて転生したら人間だった、なんて言って信じるだろうか。たぶん、難しいと思う。

 信じられたとして、逃げられても困るけど。私、恐怖の対象。

 だから当たり障りの無い質問から答えてく事にした。

「なまえは、ポルタ」

「ポルタね。可愛いなまえじゃん」

 人間の娘は可愛いと言われたら照れるらしいけど、無視して続ける。

「来た場所は、たぶん、プロペディア」

「プロペディア……」

「しらない?」

 アーデインは腕を組んで考え込む。旅をしていると言っていた彼なら、魔王との和解を進めて大陸中に注目されていたプロペディアの事も知ってると思ったのだけど。

 反応はすぐにない。やっぱり、ここは別の大陸なんだろうか。

 そう思ってた矢先、アーデインは真剣な表情で私の顔を見上げた。

「なぁポルタ。お前、もしかして生まれ変わり、って奴なのか?」

 すごい。アーデイン名探偵。アルビノゴブリン頭いい。

「そのさ――でも……だとしたらその、いろいろ。いろいろ、残酷かもしれねぇ」

「なに?」

 聞くと、ひどく困惑した様子で彼は自分の額を拭った。

「おれっちとしてはだ。ポルタの助けになるなら何だって教えてやるつもりでいる。でもな、知ったら悲しい事だってあるかもしれない。つまり、その…」

 言いよどむ彼は私の知ってるゴブリンの面影があった。弱くて、強いものに従えられた奴隷みたいな奴ら。おどおどしていたゴブリンだけど、アーデインは根本的に違う。気遣って、結果的に弱った表情をしてるのだ。

「…プロペディアは滅んだんでしょう?」

 言うと、彼は顔をあげた。

「炎につつまれて、ほろんだ。そこまでは知ってる。だから、教えて?」

 町や城までが炎に包まれて残ってるとは思えない。他の町に首都を移したというなら別だけど、少なくとも今の私の発言で、滅んだ事を知らせるのが酷、という勘違いは無くなったはず。

 でも、アーデインはまだどうするべきか悩んでるみたいだった。

「違うんだポルタ。いや、確かにプロペディアは、滅んだ。炎と氷に包まれて。でもおれっちが言いたいのは、そうじゃないんだ」

 違う? わからない。彼が何を言いたいのか、まったくわからなかった。

 このまま私が黙っていても、先を喋ってくれそうにない。だから、促す。

「だいじょうぶだよ。辛くても、アーデインのことはキライにならないから」

 だから教えて、と聞くと、彼は大きく息を吐いてから、大きな耳を垂らす。向き直った彼は、優しい表情をしてた。ゴブリンに対する偏見がどんどん壊される。

「わかったよ。でも、きっと傷つく。おれっちの言葉であんたを傷つけるって考えると、おいらが辛いんだ」

「あなたは事実を言うだけ。あなたが私を傷つけようとして言う言葉じゃ、ない」

「…おーけー。わかったよ、おーけー。言うよ。頼むから、覚悟しろよ」

 ふかく頷く。彼は大きく息を吸って、はいてから、静かに私に告げた。


「プロペディアは千年前に滅んだ伝説の都の名前だ。きっと、あんたは千年前の生まれ変わりなんだ」


 それは食べかけのパンを落とすくらいには、十分な事実と推理だった。



プロペディアがポルペディアになってました。修正しました…6/3

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