少佐の憂鬱
中間管理職の宿命
「はぁ」
自身の為に作られた執務室のような部屋で、齢30になろうと言う男が一人ため息をついた。
その男が視線を向ける先には一枚の紙があった。
「攻撃演習命令」
ぼそりと口にした男の表情は暗雲足らしめており、その背面から第三者が見つめたとしても、その憂鬱ぶりに気づくことは容易に違いない。
男が恐らくこの中央防衛拠点で最も恐れているであろう人間……の一人である。
それが栗林軍曹だった。
「うちの隊長もめちゃくちゃ乗り気なのが一番の問題だよなぁ。ああ備蓄されている演習用砲弾が消し飛ぶ」
「大尉! ここにいるのか!?」
部屋の静寂を打ち消し男の鬱な心を良くも悪くも変える声が響き渡る。ああ、この雷雲のような声は間違いようも無い。
ああ来てしまった。
そうは思いつつも男は立ち上がり敬礼をする。
「っは! 少佐殿! 小官はここにおります!」
「よろしい、例の件はどうなっている」
例の件ということは砲弾の事だろう。最寄の全ての練習砲弾を使い果たすなどと豪語していたほどだ。頼まれている量も尋常ではない。
具体的には三日ほど休み無く打ち込める程度である。
だが、それも確保には成功した。
ああ、あとは未熟練の重砲機甲兵中隊の招集も滞りもなく完了している。
「っは! 演習用砲弾及び重砲機甲兵中隊の招集も完了しております!」
「よろしい、流石は白海大尉だ。では二週間後の一二○○から予定されている『演習』に備えよ」
「っは! 承知いたしました!」
「あの化け物の頼みだ。盛大にやらねばな」
「些か盛大にやりすぎでは?」
ふんと鼻を鳴らし、ニッタリと笑う。この頼もしすぎる笑顔を見れば「ああ、これはただ事じゃすまないな」と直感できた。
「敵は意思をもって動く。それもあの機甲兵が防御陣形を組むという異例な形でだ。栗林が考えそうな事だがな」
「栗林軍曹が考えそうな事、でありますか?」
「まぁ、見ておけ。素晴らしい機甲兵達に育つだろうよ。四ヵ月後の模擬戦が楽しみだ」
言うだけ言うと少佐はさっさと部屋を出てしまい残された白海大尉は頭をかきながらボヤく。
「貴方も十分すぎるほど化け物ですよ山室やまむろ 宗武そうぶ少佐。何ていったって」
そこまで言うと壁に貼り付けてある条約を見つめた。
そこには様々なこの基地のルールが明記されており、その殆どがネガティブリストにより構成されている。その文末にはこう書かれていた。
『栗林軍曹及び山室少佐両名の基地内部での私闘はこれを厳重に極めて厳重に禁止する』
ああ、E訓練中隊には可愛そうではあるがこれも任務。というよりあの栗林軍曹や山室少佐を怒らせると被害の多きさは予想が出来ないのだ。とはいえ、二人とも生かさず殺さずを非常に熟知なさっているから安心したまえ。死なないと
……多分。きっと。
男は天井を見上げまだ見た事も無いE組の生還を祈ったのであった。
そして支給されている胃薬と共に資料の山へ赴いていった。
クオリティだけは上げて生きたい!そんな気がいたします。
ガスガスあげれればいいのですけれどねぇ