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ファクトリー  作者: mamu
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遠足は好きですか?

私は前日はうきうきしています

菅原はリフトで下へ向かうと、右側へ歩き出した。


「……さて、まず何処から案内しましょうか。気になる場所はありますか?」


 こちらへ向き直りながら菅原は、聞いてきた。

そう聞かれれば、最早一つしかあるまい。

意思は二人とも同じだったのだろう。平治と俺は、同時に指をさしてこう言った。


「是非! 機甲兵を!」


 余りの声の大きさに、周囲から若干冷やかな目だったり奇異の目に晒されたが、二人はその程度で落ち込む漢ではなかった。

それを見て、菅原はクスリと笑うと、多くの機甲兵が並んでいる所へ、歩みを進めた。


「さて、ここがお二人が熱望なさっていた所です」


 ッガ!


 っと、男二人が無言で拳を打ち合う。

ようやくやってきたぞ。この時が。そう思っているであろうことは想像に難くないだろう。


「それでは、説明をさせて頂きますね。まず、知っておられるかとは思いますが、一式機甲という兵器は、現段階で最も優れた兵器です。防御・攻撃・機動能力はトップクラス、凡庸性も優れていますし、『特化型』と呼ばれるジャンルも加わった事で、戦場の主役である事は間違い有りません。因みに、皆さんの専門兵科はどこでしょうか?」


「自分は、狙撃部門です」


 おっと、急に質問が来るとは。

不意をつかれて若干言葉を詰まらせた俺とは対照的に、平治の返答は非常に滑らかなものだった。


「俺は、通常部門です」


「……偵察部門です」


 俺の次に若干間を空けて発言した葉瓜は偵察部門か、ふむ似合うな。

なんというか雰囲気的に偵察といった感じがする。平治は狙撃部門というちょっと意外だ。強襲部門とかその辺りと思っていたんだが。ガタイ的に。


「なるほど、では其の三つの解説を優先しましょう」


 そういうと菅原は、コンソールをいじり始める。

すると途端に整然と並んでいた一式機甲が移動を開始し、右に左に、はたまた縦に横に並びを変え、自分らの前には三機の一式機甲が並んだ。

菅原は並んでいる三機の左側へ立ちコホンと一つ。


「汎用機、全長二メートル、重量六十キロ、見た目からロボット、というよりはパワードスーツですね。全身を覆う装甲の厚さは三ミリ。握力は三百二十キロと強力ですが、その理由は手の甲全体に幾重にもワイヤーが張られている為です。其のほかにもエネルギーシールドや、ブースターなどなど戦闘能力に関しては、まず問題ないでしょう。例えばこの曲線ですが……っと脱線気味ですね。

多くの一式機甲のベースとなっている物です。能力は何処も尖っておらず兵器としては全体的に高い。と言えます。ただし、一式機甲同士で戦う場合、どうしても見劣りしてしまいますね。指揮官機の場合、戦場の情報を収集し、整理したり、各方面に通信を飛ばす事の出来るバックパックが追加でつけられます。やはり指揮官機は敵に狙われやすいため、若干の機動力を犠牲に防御能力を上げています」


 どれだけ『万能』といわれる兵器でも、同種となれば、話は変わる。同種同士では『万能』ではなく、『無特化』と言えるからだ。

其の場合、戦闘の局所での戦いは特化型との相性が良い状況というのはあまりない。市街戦闘の遠距離なら狙撃型、近距離なら強襲型、夜ならば偵察型が猛威を振るうだろう。それらと対峙したときに如何に戦うか、如何に弱点を他の能力で補うかが汎用機の基本的なスタイルだ。

逆に言えば、これが徹底され更にその能力が飛びぬけているならば。作戦の柔軟性の高い汎用機使いは平凡な特化型より重宝されるという事だ。

自分が目指すべき目標はおのずと見えてきた。。


「それでは、次に狙撃型ですがこの型は、汎用機と違い、前面装甲が非常に分厚く構成されています。通常の三ミリに加え、追加装甲として五センチ複合装甲と二センチの電磁力装甲が加えられています。伏せた時、その前面装甲は前方に密集展開するよう出来ています。この状態は主力戦車の主砲以外の全てを完璧に弾く事が出来ます。エネルギーシールドとあわせれば、それらも防ぐ事は可能です。現時点でこれを破壊できるのは同型機と百二十ミリ重砲くらいでしょう。ただ、機動力が異常に削がれる上に前方のみですから、後方向きであることは確かですね」


狙撃型はこの古今東西その活躍が味方には尊敬され、敵には畏怖を与えていた。射程外からの攻撃、見えない場所からの攻撃は物理的な戦力を奪うのは勿論、精神的な戦力すらも奪う事が出来る。だがしかし、だからこそ航空機や重砲に狙われやすいのだろうが。


「えっと、次に偵察型ですね。これは特殊な能力が少々存在します。例えば光学迷彩やステルス機構などですね。武装もサイレントウェッポンと呼ばれるものが多くあります。

任務は基本敵の拠点への偵察、威力偵察などですね。砲兵の観測手なんかもするようです。擬態能力があるとはいえ、完璧では有りません。強襲型よりも前線にでますから、必然的に危険度も高いといえます。性能上、防御が薄い面がありますからね」


やはり偵察を主にする兵器は、他とは違い『如何に敵に見つからないか』が念頭におかれているのだろう。それは逆に言えば見つかった場合の対処能力の少なさを示している。

それに非公式の作戦も多々あるためその犠牲は報じられる事も少なく、最も殉職率が高い部門といわれるほどだ。

しかし、特殊兵装はどれも脅威である。

音が無く一撃で葬れる近距離武装などが代表例だろうか。

非常に厄介な敵になることは間違いないだろうな。


 3つの説明を終え、「では次は別の部門を……」とそこまで言った後、視線は完全に俺達からそれた。視線は俺より少し後ろに焦点を合わせており、心なしか怯えていた。

不思議に思った平治と俺は後ろを振り返る。


「これは、菅原二佐。お疲れ様です。」


「は、はい! お疲れ様です!」


 一瞬、言葉に詰まった。

そこにいたのは、先ほど俺たちに罵倒の限りを尽くしたハートマン軍曹だった。

正確には栗林という名前らしいが。

正直今はどうでもいい。


 ハートマン軍曹こと、栗林軍曹はこちらを一瞥すると、非常に豊かな笑面になった。

するとどうだろうか。心が不安に満ち溢れるこの感覚を味わえるのだ。半日も共に過ごしていないにも関わらず、まるで旧知の間柄のように『その』笑顔が指し示す意味を理解してしまうのだった。

平治も既に気づいたのか小さな声で「遺書か……」と漏らしたほどだ。

因みに鎖古に表情の変化は訪れていない。


「よう、ウジ虫ども。予習とはよい心がけだな」

非常にゆったりと喋ってはいるが言葉一つ一つに並々ならぬ重圧がこもっており俺たちに精神攻撃をしているならば効果絶大だと言って、差し支えないだろう。

しかし、ここで何も返さぬのも危険であるのは明白。

返さねば。


「ありがとうございます。ハートマン軍曹」


「っぶほお! っごほっごほ」


「......ほう、中々いい度胸をしているな」


 しまったああああああああ

頭の中で山頂から海に向かい荘厳の出で立ちで遠吠える。

やらかした。殺される。

しかし、時すでに遅い。平治もあまりの事に盛大に吹いてしまった。さあ、一緒に逝こうぜ平治。

そう視線を送ると平治は。


(絶対に許さない)


 と目で語っていた。なんて寛容なやつなんだろうか。私なら即刻ぶん殴る。


「貴様、名前は何だ」


 ハートマン軍曹は、こちらに向き直り、眼圧をかける。

ここまでか……。そう思い立ち、俺は名前を言わねばならぬ世界を嫌った。


「自分は、多田野 正義と申します」


 ビシっと敬礼をしつつ、正対する。

もう、どうにでもな~れ! そういう時。人間はどんな時よりもまじめになれるのだ。

そんな俺の姿に流石のハートマン軍曹も理解しかねたのか鼻をならして、平治の方を見つめる。


「自分は、下平 平治と申します」


「確か貴様は、高地出身だったな。噂は聞いている。非常に優秀だとな。まぁ期待しておこう」


 そう言いつつ、品定めするように下から上へ視線を移す。

さぁ、ここからが本題だ。おそらく私は先の失言の責任を取らされる可能性が非常に高く。それはもう避けようがないだろう。

しかし、ここで折れるのは違うはずだ。

最後まで諦めない。それが大事なのだ。って士官学校が言ってた。


「正義候補生も、確か優秀な士官学校をご卒業との事だ。まぁ期待しておこう……ああそうだそうだ。これを言いにきたのだった」


 そこまで言うと、先ほどまでの不機嫌は何処えやら、意地悪そうな笑顔を引っさげてこういった。


「喜べ、遠足に行くぞ」


「え、遠足でありますか?」


 思わず変な口調になってしまったがそれはこの際関係ない。

遠足か。絶対に思っているのと違うぞ☆

先ほどから心の妖精が乱舞しているが、思考回路は恐らく正解だろう。


「そうだ。つまらん座学をやるより、慣れた方が良い。実践の中で磨き上げてこそだ。そうだろ?」


「っは! そうであります」


 肯定の投げかけは必ず『はい』と答えるのがコツだと私は思う。

上司、特に面倒なやつほどコレは当てはまるだろうな。


「そこでだ。貴様らは明日の早朝6時より、旧徳島まで遠足。その後山頂までピクニックだ。楽しみだろう」


「……は、はは楽しみであります」


 笑いながら去っていく、ハートマン軍曹を見送った俺たちは、その後の見学をあまり覚えていなかった。



 そうして見学を終え、入り口まで戻ってきた。


「なんかさ……すまんかった」


「いや、いいんだ。名前間違いくらい誰にだってある」


 ふふふ、と乾いた笑い声が響きあう中こちらに近づいてくる影があった。

正確には気づいた時には前に居た。というべきだろうか。


「どうしたんですか?世界が終わりそうな顔を浮かべあって」


「な、え? なんでここに」


 平治が驚愕の表情を浮かべる。

恐らく俺自身も同じ表情になっていることだろう。


 そこには、『ソレ』がいた。

この国で最も強力な戦力を持ち、この国の軍事力=『ソレ』とも言わしめる人物。


 本名不明。武装不明。階級無し。

識別ネーム『カミカゼ』

敵識別ネーム『ライン上の悪魔』


人類生存戦争からこの覇権戦争に至るまで、その中心に位置する三十旅団の遊撃手。

そんな人間が何故ここに。


「ああ、いえいえそんな身構えないで下さい。別にとって食べやしません」


 あまりにも警戒していたためか、苦笑しながら手をヒラヒラと振る。

流石に、警戒しっぱなしというのも失礼に当たるため、警戒は早急に解いた。


「申し訳有りません。そういうつもりではなかったのですが」


 そしてすぐさまフォローを入れるとする。

正直早急にこの場から立ち去りたい。

国民から見れば英雄でも。片鱗を少しでも知っているものからすれば良く言って『超人』

悪く言って化け物なのだから。


「それでは、自分たちはここで失礼します」


 そういって、最敬礼をしたのち、その場を立ち去ろうとする。

通り過ぎる瞬間、彼女は明確にはっきりとこういった。


「栗林軍曹についていってみなさい。きっと最高の力となるでしょう」


「……え? それってどういう」


ふと、耳に入った言葉。

あの軍曹の事を知っているかのような発言。その真意を確かめる為に振り返った時には


既に誰もいなかった。後に残るは、肌を撫でる様な優しいそよ風だった。

ちょっとずつ長くなっているのはご愛嬌ですね。

楽しい遠足模様が表現できればいいのですけれど・・・


がんばるがんばる!

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