好き好き大好きまおーさま!
リクエスト企画です。『ああ、愛しの魔王様』の関連作品です。
ボクはスライム。
おとーさんはレッドスライムでおかーさんはブルースライムのパープルスライム。
最近のボクはとても頭がいい。
まおーさま大好き。ほわほわ。
にんげんは美味しい。ジューシー。
ゆーしゃは嫌い、まおーさまのこと虐める。それに触るとびりびりする。
あどれーはもっと嫌い。まおーさま独り占めする。むかむか。
それにまずかった。まずいは悪いこと。
「な、ロックスライム!?」
お散歩してたらあどれーに硬化魔法掛けられて蹴っ飛ばされてゆーしゃの前に落ちた。
ゆーしゃはまおーさま虐める敵。
「……(ゆーしゃだ)」
「何でこんなところにロックスライムがいるんじゃ、岩場なんぞないはず!」
白いヨボヨボのまほーつかいがボクを見て驚いた。
「……(ゆーしゃと、仲間)」
「きゃあっこっちに転がって来た!?」
ムキムキの斧を持ったせんしがくねくねしながらゆーしゃの腕にしがみつく。
ゆーしゃが死にそうな顔でまほーつかいを見た。
まほーつかいは空を見上げてる。
あ、硬化魔法が解けた。
「……(ゆーしゃはお腹壊すから食べない。仲間は、仲間は美味しい人間?)」
「っ、これロックスライムじゃないぞ! 触ったら猛毒状態になるパープルスライムだ」
ずるずると近づく。
まほーつかいが棒をボクに向けた。
魔力の染み込んだ美味しそうな木の棒。
「……(くれるの?)」
じゅるり。涎が垂れた。
それが地面に落ちてシューシューと音を立てる。
「ファイアボール!」
飛んできた火の玉を身体で包み込んでぱくんと食べる。
中々に濃厚で美味しい。ご飯なのにご飯をくれた。良い人間。
ゆっくり近づいて近づいて木の棒も食べる。
「カイツ! 杖から手を離すんだ、飲み込まれるぞ!」
「言われんでもわかっておるわい!」
「……(木の棒ポリポリして魔力がジューシーで美味しい)」
あどれーをちょっと食べてからボクは美味しいとまずいを知って味にはうるさくなったのだ。
「わしの杖が、杖が……」
「杖くらい魔王を倒したらいくらでも買えるわよん」
せんしが言った。
まおーさまを倒す?(ワタクシの魔王様を倒す?)
そんなの駄目。(そんなことが許されるわけがないではありませんか)
……うえーっ内側に響くあどれーの声が気持ち悪い。
「な、なんかプルプルしてる」
「むむ。猛毒を飛ばすつもりかもしれん」
「きゃあ、こわーい」
ボクはせんしのほうが怖い。(同感です。気色悪い。……違います! 魔王様のことではありません!)
っていうかあどれーうるさい。(スライムの分際で失礼ですね、消しますよ。あ、魔王様なんでもありません独り言です)
──どうやらボクはあどれーに視覚共有されているらしい。
「炎が駄目なら氷はどうだっ! アイスストーム!」
冷たくて、びりびりする。(勇者の魔力は強い浄化作用がありますからあまり浴びていると浄化されて消えますよ)
ええー、ボク、ぽよぽよしてて速く動くの苦手なのに。
「くっ、まだ動けるのか」
何かめんどくさいなぁ。
まおーさまのとこ、帰りたい。
「……(それでほわほわのぽよんぽよんですりすりされたい)」
「勇者様、ちょっともったいないけど浄化魔法使っちゃえばいいんじゃなあい?」
せんしがそう言うと、ゆーしゃがボクを見てにやりと笑った。(逃げないと殺されますよ? まあ、ワタクシとしてはそれが一番の望み──あ、魔王様いけませんっ、ああっ)
「それもそうだな、俺たちはこんなとこで雑魚に手間取ってる暇はないんだ! 喰らえ、浄化の光よ──」
光の集まるゆーしゃの手を見ながら考える。
ボクの一生、短かったなぁ。
「わらわのオトモダチに酷いことをするでない!」
「……(まおーさま?)」
ほわほわのぽよんぽよんがボクを包み込んだ。
魔物だからよくわかんないけど、幸せ、ってこんなことを言うのかな。
「魔王様、パープルスライムごときをそのむ……ね、腕の中に抱くなど!」
「アドレー、わらわのオトモダチは今助けた。もう帰るのじゃ」
「…………わかりました。ええわかりました。先にその魔物とお帰りください。ワタクシは少々殺ることがごさいますので」
状況がよくわからなくて固まっていたゆーしゃたち、御愁傷様。
あどれーはきっとすごくすごく怒ってる。
ボクがまおーさまのほわほわのぽよんぽよんを独占してるから。
「……(あどれー、聞いてるなら、食べるとこ残ってたら持って帰ってきてー)」
ボクはスライム。
あどれーをかじったら頭が良くなったパープルスライム。
好きなものはまおーさま。
大好きなものはまおーさまと人間を食べることと魔力を食べること。
「さ、帰るのじゃ──アドレー、怪我をするではないぞ?」
「わかっております。ワタクシは魔王様のもの、魔王様はワタクシのものでございます」
あーあ、ボクってお邪魔なのかなぁ。
後書き座談会
魔王「ざだん……なんじゃ?」
アドレー「座談会です、魔王様。楽しくお喋りするのですよ」
魔王「そうなのかえ? 何を喋ればよいのじゃ……」
アドレー「好きな食べ物、とかではないでしょうか」
魔王「む、むむ、好きな食べ物……アドレー!」
アドレー「はい」
魔王「わらわはアドレーの魔力が一番好きなのじゃ」
アドレー「魔王、様……っ!」
魔王「アドレー? どうして抱き着くのかえ、苦しいのじゃー」
アドレー「ワタクシも魔王様を愛しております!」
魔王「……好きな食べ物の話ではなかったかのー?」