表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

1. 獅子も歩けばつがいに出会う 1

 野人とは、この世界「ザリア」における人類の亜種である。

 彼らは人類がザリアに移住する前に存在していた、先住人達の遺伝子を受け継いでいると言う。

 犬歯こそ少し尖っているが、見た目は人間と殆ど変わるところはない。遺伝子の微細な違いがあるだけなのである。

 人間より大柄で、身体能力と知覚に優れてはいるが、決して超人などではなく、傍目からは分かりにくい忍耐力と耐久力に富む種族なのだ。そんな彼らは、概ねうまく人間社会に紛れこんで暮らしていた。

 しかし、その気性は時として非常に荒くなり、彼らが人間と遺伝子を異にする存在だと知らしめるほど、暴力的な存在となり果てる。

 ――その傾向は特に若いおとこに顕著だった。

 彼らが激昂する理由はただ一つ。

 つがいと言う、彼らにとって至高の存在を守り、愛しぬくためなのだ。


 その瞬間、レオの全身に電流が走った。

 ザリアの地方都市である、ジャパネスク・シティの繁華街。

 週末のショッピングモールは若者たちで溢れ、華やいで賑やかだ。その中に、たくさんのカフェやレストランが軒を連ねる、小洒落た通りがあった。

 ――うわ。

 ――見ろよ……あれ。

 ――……すげぇ、どうやったらあんな風になれるんだ?

 男に気づいた途端、ドミノが倒れるように辺りのさざめきは消えてゆき、ごつい長靴ちょうかの行く手は自然に分かれ、視線が彼に釘づけになる。

 見上げるような長身と雄渾な体躯でありながら、流れるような身のこなしは生まれついてのものだ。

 厳しい頬の輪郭を囲うのは、豪華に揺れる豊かな金髪。高い鼻梁を挟む鋭い琥珀の双眸、全身を覆う黒いレザーの下でうねる筋肉は、彼が如何に優れた戦士かを示めしている。危険な、だが抗えない魅力を孕んだ猛々たけだけしくも美しい肢体。

 このような美は人間ではありえない。

 彼は――正真正銘の野人だった。 

 男は通りで目にとまったカフェに入った。

 洒落た料理や飲み物のメニューが豊富な人気店だ。明るく軽薄な雰囲気のフロアは陽気な喧騒に満ちている、そこに――。

 ガチャリガチャリ

 金属音の混じる重い靴音が不釣り合いに響く。

 彼が歩くと媚薬にあてられたように、女達は切なげに身をくねらせ、口を半開きにして熱い視線を絡める。そして、男達は目が合わないように一様に下を向いた。いずれも野人を前にした人間たちの本能のなせる技だ。

 広い店内は混み合っていたが、入口の右手、棕櫚しゅろの木の向こうに席が空いていた。レオは自分の隣を示す女たちを無視し、そこにどっかりと腰を下ろすと、長い脚を組んだ。

 その時、彼は見つけてしまったのだ。

 自分のつがい。

 運命の相手を――。


このお話は拙作「ビースト † ブラッド – 野人のつがい –」と世界観を同じにしています。しかし、スピンオフやパラレルではありません。あくまで独立した物語です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おはようございます!今日から、こちらにお邪魔します。 野人!ゼライトさんとは少し違う感じですね。これから先が楽しみです。今日、停電するまで、読んでみます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ