-集合-
町は静寂につつまれていた。学校へ行く道に誰とも会わない。
避難避難とうるさく言っている割には町の姿はまったく変わっていなかった
みんな避難を完了してしまっているのではと一抹の不安が頭をよぎる。
すると、向こうから校門へ向かって歩いてくる人影が一つ。
里緒だった。里緒も不安だったようで、和也の姿をみてほっとした顔を見せた。
里緒は幼稚園からの幼馴染。小学校時代は毎日のように遊んでいたが中学に入ってからろくに口もきいていなかった。
里緒は美人で男子からの人気も高い。それが和也にとっての面白くないことの一つでもあった。
「あーっ!カズじゃん!よかったぁ…。私一人だけかと思ったよ…」
少し笑いながら状況を話合い体育館へと向かう。
体育館の中に入ると、たくさんの毛布が敷き詰められていた…が人が誰もいない。
不気味な静寂につつまれ、どこか空気が重くも感じられる。
「なんで誰もいないんだ…?」
「なんでだろーね…?」
二人とも同じことを言った。顔を見合わせる。
「まぁ、どっかに行ってるんだろう。みんなすぐに戻ってくるさ」
「だね。」
二人は床に座った。ひんやりとした床は汗をかいた体をスーッと冷やす。
「そうだ!朝ごはん食べるか?いっぱい家から持ってきたんだ」
「食べる食べる!なんにも食べてなくてペコペコだったんだよ…」
「はい、クリームパ…」
「あーっ!!お前ら二人で何してんだ!!」
後ろから聞き覚えのある甲高い声する。振り向くと智也と剛と彩の3人だった。
「俺にもよこせよな」
太く低い声で和也の鞄を漁っているのは剛。
剛は言わば町のガキ大将のようなもの。すごく力持ちで乱暴者。
「ボクもボクも♪」
それにすがるようにくっついて離れないのが智也。
簡単に言う剛の腰ぎんちゃくのようなもの。家はお金持ちで温室育ちのぼっちゃん。
「やめときなよ二人ともぉ」
二人を制止にかかるのはお世話好きの彩。とてもおっとりしている癒し系メガネっ子。
一応全員幼稚園からの付き合いである。
「わっ!京野幼稚園5人組そろったじゃん♪」
里緒が明るい声で言った。とても嬉しそうな顔をしている。
「久しぶりだねぇ。みんな集まるの」
彩がおっとりとした口調で続けた。
「ところでよ。一応俺ラジオ持ってきたんだ。聞こうぜ!」
ラジオ特有のチューニング音が響いた。
興奮した様子のアナウンサーの声が聞こえてくる。
「どうしたことでしょうか!避難所から次々に人が姿を消しています!」
「…え?」
五人が顔を見合わせた。するとアナウンサーが続ける。
「もう東京都内には誰一人として残っていないようです!」
「えぇぇぇぇぇぇ!!」
五人が声を合わせて叫んだ。