第30話:王宮を襲う謎の奇病! 天才センサーでバグを検知せよ
天才魔導ベビーベッドの試作品が形になりつつあったある日、王宮内、そして城下町の一部で不穏な事件が発生していた。
幼い子どもたちが次々と深い眠りに落ち、どんな魔法や薬を使っても目を覚まさないという「謎の昏睡事件」が広がっていたのだ。
「ううむ……。体表面に異常はなく、一見するとただ熟睡しているだけに見えるのだが、確実に体内の魔力が少しずつ吸い出されている。これは病ではなく、タチの悪い呪詛の類だな」
工房に設置された試作ベッドの横で、子犬サイズのランが険しい顔で小さな鼻を鳴らした。
「子どもたちの魔力を吸い出す呪詛……。そんなの絶対に許せない。ハンスさん、開発中のバイタルセンサーの術式を、今すぐ広域探知モードに切り替えて!」
「は、はい! ユキ様、すぐに!」
私は試作ベッドのサイドパネルに組み込んでいた、例の「知育マッチングカード機能」の魔術回路に目をつけた。
この機能は、果物や乗り物、十二支などの可愛い絵柄がピタッと一致したときにだけ特定の魔力信号(効果音)を鳴らすシステムだ。つまり、特定の魔力波形を識別してフィルタリングする技術(条件分岐ログ)においては、王宮のどの探知魔導具よりも優れていた。
私は自作の『異世界スマホ』をベッドのメインコアに接続し、城下町全体の魔力スキャンを開始した。
「全データ、一括ソート……! 子どもたちの魔力を吸い上げている、大元の『バグ(呪詛の送信元IP)』を特定するわ。――マッチング、開始!」
スマホの画面上で、数万行の魔力データが目まぐるしく照合されていく。
そして、画面の「十二支マッチング」のグラフィックがピキーン! とパーフェクトに揃った瞬間、ひとつの座標が赤く点滅した。
「見つけた……! 送信元は、王宮の北側にある古い地下貯水池よ!」
「よくやった、ユキ。――そこから先は、俺の仕事だ」
背後から、私の肩を優しく、けれど絶対に離さないという強い力で抱きしめる手が伸びてきた。
ギルバートだった。眼帯の外れた両のアメジストの瞳が、子どもたちを傷つける不届き者への怒りで、見たこともないほど冷酷にギラついている。
「ユキをここに残していくのは気が進まないが……これ以上、我が国の未来である子どもたちを害するバグをのさばらせておくわけにはいかないな。ラン、ユキの護衛を頼む」
『言われるまでもない。主の髪の毛一本、誰にも触れさせんよ』
「待って、ギルバート。私も行くわ! 私のスマホのナビゲーション(GPS機能)があれば、地下の複雑な構造をハッキングして、最短ルートで黒幕を追い詰められるから!」
私が真剣な目で訴えかけると、ギルバートは仕方のない愛おしさに胸を突かれたように目元を緩め、私の額に深いキスを落とした。
「分かった。お前を俺の後ろに隠し、一歩も離さずに連れていく。……さあ、俺たちの新婚生活と、未来の家族のための計画を邪魔した代償を、その黒幕にたっぷりと考えさせてやろう」
こうして、開発中のベビーベッドのチート機能によって黒幕の尻尾を掴んだ私たちは、過保護な旦那様の圧倒的な殺気と共に、事件の核心である地下へと出撃するのだった。




