第6話:氷の令嬢、戦場(がくえん)への帰還
さて今回の話から一週間の猶予が始まります。
昨日の出来事は学園でも噂になっていること間違いなしです。
マリアンヌはこのプレッシャーに耐えきれるのでしょうか?
猶予1日目。
昨夜、お屋敷で家族を前に高らかに宣言したときは、自分でも惚れ惚れするほど格好良かったと思います。
お父様の覇気に当てられたせいか、「潔白を証明してみせますわ!」なーんて、名門貴族の令嬢らしく胸を張って。
——けれど。
(……帰りたい。今すぐ馬車を呼び戻して、お屋敷のベッドに潜り込みたいですわぁ……!)
学園の白亜の校門をくぐった瞬間、わたくしの決意は、朝露のように儚く消え去りました。
この学園は、王侯貴族の子弟が集う最高学府。磨き抜かれた大理石の廊下は、鏡のように光を反射して美しいはずなのに、今のわたくしには冷たい氷の道にしか見えません。
「おい、見たか……。グラサージュ家の……」
「よくもまあ、あんな平然とした顔で登校できるものね」
すれ違う生徒たちの囁き声が、高い天井に反響してわたくしの耳に突き刺さります。
広い廊下の左右に並ぶ壮麗な彫刻や、色鮮やかなタペストリー。普段なら優雅に眺めていたはずの景色も、今はわたくしを監視する無数の「目」のように感じられます。
わたくしが歩くたびに、談笑していたグループがパッと二手に分かれ、道が開いていきます。
それはまるで、古の伝説に語られる巨大な海獣が、その巨体で荒れ狂う海を真っ二つに割りながら進む光景のよう。
いえ、それは敬意などではなく、汚らわしいものに触れたくないという露骨な拒絶。
(うぅっ……視線が痛いですわ。心臓がバクバクいって、呼吸の仕方を忘れそうです……!)
泣いてはいけません。ここで顔を伏せれば、それこそ「罪を認めた」ことになってしまいます。
わたくしは必死に背筋を伸ばし、震える指先を隠すように扇を握りしめました。けれど、必死に涙を堪え、震えを止めようと顔に力を入れれば入れるほど、周囲が「ひっ……!」と短く息を呑んで後退りしていくのが分かります。
(ああ、またですわ……。わたくし、ただ怯えているだけなのに、きっと今は『獲物を品定めする魔王』のような顔になっていますのね……)
この重苦しい廊下を抜けて、早く自分の教室へ辿り着かなければ。
セレナは今頃、騎士クラスの演習場でしょうか。彼女と離れているこの時間が、永遠の地獄のように感じられました。
冷や汗で滑りそうになる手を扇に添え、曲がり角を曲がった、その時です。
「あらぁ? マリアンヌ様ではありませんかぁ?」
大理石の壁に跳ね返った、甘ったるく、粘りつくような声。
わたくしは最悪のタイミングで、この世で最も会いたくない「主役」の二人と、真正面から鉢合わせてしまったのです。
あー……。早速波乱の予感がします。
この状況下、マリアンヌはどう立ち向かっていくのか楽しみにしていてくださいね。




