第31話:明かされる「事実」
今日からマリアンヌ様のターンです!
「――説明は、それだけでよろしくて?」
ここからはわたくしの番です。閉ざした扇を持って口を隠し、焦らずにただ「事実」だけを述べなくてはと意識するために表情を凍らせます。
「エドワード様……いえ、エドワード殿下。ここまでのクラリス様のお話を聞いていましたが……。わたくしもただ黙って一週間を過ごしていた訳ではございません。3点ほど気になる点がございます。……お話してもよろしいかしら?」
わたくしがそう告げた瞬間、講堂内の空気が一変しました。
「3点……? そんなにあるのか?」
「……ただの言い逃れにしては、随分と具体的じゃないか……」
ひそひそと、けれど確実に波紋が広がっていきます。
エドワード殿下は鼻で笑いましたが、その瞳の奥には、わたくしの想定外の冷静さに対するわずかな焦りが浮かんでいました。
「……ふん。いいだろう。お前がどのような『悪あがき』をするのか聞いてやるさ」
「恐れ入りますわ。……ではまず、1点目。あの日、わたくしがクラリス様を突き落としたという『現場の状況』についてです」
わたくしは扇を閉じ、静かに、けれど射抜くような視線を壇上へ向けました。
「エドワード殿下。殿下はあの日、事件の後どうなさったのですか?」
「……私は騒ぎのあとすぐに保健室へ駆けつけ、そこで震えるクラリスからすべてを聞いたのだ! 彼女のあの怯えようを見れば、何があったかなど明白ではないか!」
(……ああ。やはり、ご自分の目で確かめず、陛下にもお伝えしていなかったのね……)
予想通りの答えに、わたくしの心はさらに静かに、冷えていきました。
「そうですか。……ではクラリス様。貴女が殿下に話した『わたくしが貴女を突き落とした』という状況、わたくしとセレナで実際に現場を確認いたしましたが、物理的にあり得ませんの。……まるで、踊り場で綺麗に『着地』したかのような……不自然な状況ですわね?」
わたくしの顔は自分では見えませんが、恐らく獲物を狩ろうとしている鷹のような目をしているのだと思います。
「……っ! それは……わたしが必死に手すりを掴んだから――!」
「いいえ。あそこの手すりは低く、咄嗟に掴んだ程度で勢いを殺せるようなものではございませんわ。……まるで、あらかじめそこで止まれるように練習を積んでいた……。そう考えたほうが、よほど辻褄が合いますわよね?」
「な……何を馬鹿なことを……!」
「馬鹿なこと、かしら? ……では、2点目ですわ」
わたくしは、クラリス様の叫びを冷然と受け流し、傍らに控えていた1人の令嬢へと視線を送りました。
「クロエ様。……前へいらしてくださる?」
「ひゃっ……ひゃい!」
(あ……もしかしてわたくし、また怖い顔をしていたのかしら……?)
一瞬、素の自分が顔を出しそうになりますが、わたくしは必死に「氷の仮面」を繋ぎ止めます。驚いて肩を跳ねさせたクロエ様が、恐るおそるわたくしの隣へ並びました。
エドワード殿下が、怪訝そうに眉を寄せます。
「クラリス……。彼女は確か、君と一緒にいた下級生だね? 以前、食堂で君と一緒に居たところを見た覚えがあるが……」
「……いいえ……。エドワード様、何かの見間違いですわ。あんな……あんな男爵令嬢なんて、わたしは知りません……!」
(あら。今、ご自分で答えを出されましたわね)
「知らない」と言い切ったその口で、出会ったばかりのはずの彼女の身分を正確に言い当てた矛盾。
それに気づかないエドワード殿下とは対照的に、周囲の生徒たちは「えっ、今……」「知らないのに身分を?」と、冷ややかな囁きを漏らし始めました。
クロエ様が不安げにわたくしを見上げてきます。
その瞳は「マリアンヌ様、本当に大丈夫ですか?」と揺れていました。
わたくしは彼女の手をそっと握り、視線だけで「大丈夫です、わたくしを信じて」と強く、静かに伝えました。
長くなりそうだったのでちょっと不自然ですがここまで!
明日の更新もお楽しみに!
※R8.3.10現在、累計PV数2,500突破しました!ありがとうございます!
※3月13日(金)の夜21時頃、ちょっぴりゴシックな読み切り短編を投稿します!
吸血鬼とシスターの恋愛ものです!
また吸血鬼モノか……と思いますが吸血鬼モノ大好きなんです。許してください!




