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【累計8,000PV突破!】氷の令嬢は超がつくほどお人好し 〜婚約破棄から始まる本当のわたくし〜 【完結済】  作者: 境知屋
第4章 その証拠は天国か地獄か

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第27話:悲しみはどこに?

続きです。

泣けないマリアンヌ様……。

「……マリアンヌ様! これ、これだけは……っ!」


激しい雨音を突き破るように、セレナが叫びました。

彼女は膝を泥に染め、熱を帯びた焼却炉の縁に手をかけながら、火かき棒で必死に何かを掻き出しています。


わたくしの震える手の中に差し出されたのは、端が焼け焦げ、雨に濡れて無残にふやけた数枚の紙切れでした。

9割方は灰となり雨に流されてしまいましたが、残ったその断片も……もはや文字なども読み取れない、真っ黒な残骸に成り果てていました。


「……ありがとう、セレナ。……行きましょう」


わたくしは、その「かつての希望」を震える指で受け取り、濡れた鞄の奥へと押し込めました。

それから、力なく地面に崩れ落ちたままのクロエ様を抱え上げるようにして、わたくしたちは逃げるように馬車へと乗り込んだのです。



「ごめんなさい……っ、ごめんなさい……! わたしのせいです。あの時、マリアンヌ様から助けていただいたときに逃げなかったら……あと1日早かったら……こんなことには……っ!」


自分を責め、震え続ける小さな肩。

わたくしは、冷え切った彼女の体を静かに、けれど強く抱きしめました。


(いいえ、クロエ様。貴女は何も悪くない。……悪いのは、わたくしの甘さ……)


「……大丈夫ですよ、クロエ様。大丈夫……」


わたくしの瞳は乾いたまま、ただ、雨に濡れた彼女の冷たい髪を撫で続けました。

慰める言葉の隙間から、どこまでも甘ったるい、あの女の香水の匂いが漂ってきた気がして――わたくしは強く奥歯を噛み締めました。



クロエ様を送り届け、一言も発さないまま、馬車はわたくしの屋敷へと滑り込みました。

門をくぐる時、いつもなら見慣れているはずの屋敷の明かりが、雨の膜に遮られて、ひどく遠い場所のように感じられました。


扉を開けようと手を伸ばしかけたその時、内側から勢いよく扉が開かれました。


「マリー!……無事に帰ってきたか!」


駆け寄ってきたのは、血相を変えたお兄様でした。わたくしの無残な姿を見て、お兄様の顔が驚愕に歪みます。

ですが、わたくしの視線はその背後に釘付けになりました。


「お父様……!?」


本来であれば明日帰ってくるはずのお父様が、そこに立っていらっしゃったのです。


「……お父様が、どうして……?」

「ああ。仕事が早く片付いてね。明日の件もあるから居ても立ってもいられなくなって1日早く戻ってきたんだよ。……だが、予定の時間を過ぎてもお前やセレナが帰ってこないから、皆で心配して待っていたんだ」


お父様は静かな足取りで雨の吹き込む玄関口まで歩み寄ると、泥と雨に濡れたわたくしの肩を、大きな両手で包み込みました。


「遅かったじゃないか、マリアンヌ。……寒かっただろう」


お父様の低く落ち着いた声が、嵐の中に放り出されていたわたくしの魂を、ようやく家へと引き戻してくれたのです。

「帰りが遅いことを心配されていた」という、当たり前のような、けれど今のわたくしには勿体ないほどの慈しみに触れた瞬間――。


わたくしの心の中に張っていた薄い氷が、音を立てて砕け散りました。


「お父、様……っ。わたくし、わたくし……っ!」


喉の奥から、せき止めていた嗚咽が溢れ出します。

あれほど乾ききっていた瞳から、熱い雫が次から次へと溢れていくのが伝わりました。


「……う、うあぁぁぁぁ……っ!!」


わたくしは、侯爵令嬢としての矜持も、氷の令嬢としての仮面もかなぐり捨てて、お父様の胸にしがみついて泣きじゃくりました。





ここでちょっと裏設定

グラサージュ領は王都より少し離れています。

お父様は領主として月〜土曜日まで働き、日曜日に王都の屋敷に戻るって生活を送っています。マリアンヌが学生だから屋敷があるって感じですね。


さて、そんなお父様ですが、久々の登場です。

どんなふうにマリアンヌを救うのでしょうか……?


18時からの「万物の聴手〜」もよろしくお願いします!

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