第26話:断たれた「希望」
続きです。
「あらぁ?皆さんお揃いでどうなさったの?そーんな怖い顔をして」
クラリス様はゆっくりとこちらを向きわたくしたちへ問いかけます。
「……クラリス様。確か貴女は本日体調が優れずお休みしたとホームルームで先生が仰っていましたわ。なぜ今居ないはずなのに学園にいらっしゃるの……!?」
「あらぁ?マリアンヌ様こそ、そんなに血相を変えて……病人のわたしをいじめるおつもり?『氷の悪女』がわたしを気遣う……なーんてこと、いたしませんものねぇ」
クラリス様はうふふ……と笑いながらわたくしに近づきました。彼女が好んでつけている甘ったるい香水の香りと焼却炉の煤の匂いが交わり、鼻腔に不快な香りが纏わりつきます。
「でもねマリアンヌ様ぁ。わたし本当に体調が優れないの。けどご安心なさって!原因さえ『取り除け』ばすぐ良くなりますから!」
「……その原因が手に持っていらっしゃるもの……でしょうか?」
わたくしはクラリス様が手に持っている紙の束を指差します。
「ええそうよ!だってこの紙束は、そこにいる黒い『ドブネズミ』がわたしを貶めようとして作った偽の証拠ですもの!……マリアンヌ様には『正しい証拠』を持ってきて頂かないとと思って♡」
「そん……な……。ひどい……」
クロエ様はショックで気を失いそうになりましたがセレナが何とか支えます。
わたくしも身を案じてクロエ様に近寄りましたが、その一瞬でした。
「本当、バカがつくほどお人好しなんだから♡」
クラリス様は焼却炉に向かって歩き出し、指示書の束を紅蓮の炎の中へ入れたのです。
「やめて……やめてーー!!」
クロエ様の悲痛な叫びが、鼓膜を震わせます。
ですが、わたくしの体は石のように固まり、一歩も動くことができませんでした。
視界の端で、クラリス様が満足げに口角を上げているのが見えます。
焼却炉の火口からは、熱を帯びた風が吹き抜け、わたくしたちの「希望」であった紙の束が、皮肉にも美しい紅蓮の花びらのように舞い上がっては、黒い死へと変わっていったのです。
「ぷっ……あは……あはははは!!見て、見てくださいな!マリアンヌさま! わたしを貶めようとした偽の証拠が!見事なまでに燃えていますわぁ!!」
クラリス様は笑い転げ、わたくしたちの絶望を心底楽しそうに眺めています。
「あーーっ……面白かったぁ……。ドブネズミの叫ぶところなんて……もう、思い出すだけでも笑えちゃう!これで明日はマリアンヌ様の一週間は全てム・ダ♡だったって証明されますわね!」
「…………」
「……さて。お片付けも終わりましたし、わたしはもう行きますね!明日、とーっても楽しみにしていますわ! うふふふふ!!」
満足げにそう言い放つと、彼女は鼻を鳴らし、一度もこちらを振り返ることなく立ち去りました。
その背中から、あの甘ったるい香水の匂いが死臭のように漂ってきます。
クラリス様が去った静寂の中、クロエ様が力なく地面に膝をつき、慟哭しました。
「……っ、う、うあぁぁぁ……っ!!」
その時でした。
重く垂れ込めていた雲が、ついに堪えきれなくなったかのように、激しく地を叩き始めました。
(……ああ。空も、泣いていらっしゃるのね……)
わたくしの瞳からは、一滴の涙も零れません。
ただ、叩きつけるような土砂降りの雨が、わたくしたちの震える体を冷たく、容赦なく濡らしていく。
それでも、わたくしはただ、灰が流されていく焼却炉の火口を、虚ろな目で見つめ続けていました……。
やってしまったなクラリスー!
証拠をなくしたマリアンヌ。一体どうなる!?
クライマックスまで10話切ってます!
18時は「万物の聴手」も更新予定!
お楽しみに!




