第21話:悪意の指示書
続きです。
指示書の内容は一体……?
「……これは……」
わたくしとセレナは意を決して件の指示書に目を通しました。
そこにはあの日誰が何をやるのか、何を叫ぶのか、事件のあと何を言うのかが事細かく書かれていました。
クラリス様が階段を踏み外すタイミング、位置、距離……。
一昨日セレナと一緒に確認して判明した『突き落としたにしては不自然な体勢』の答えが書かれていたのです。
「……わたしの役割は当日までマリアンヌ様になりきり、クラリス様の練習相手になることでした」
クロエ様はおもむろに制服の袖を捲りました。
「っ……!!」
セレナが息を呑み、わたくしは言葉を失いました。
クロエ様の細い腕には、目を背けたくなるような、どす黒いアザがいくつも残っていたのです。
「……クラリス様は、『練習』が必要だと仰いました。わたしをマリアンヌ様に見立て、何度も、何度も突き飛ばして……。わたしが上手く受け止められなければ、ヒステリックにわたしを打ち据えたのです」
これが、あの日までの彼女の日常。
「……待ってください。クロエ様、なぜそんな危険極まりないものを今まで持っていたのです?この指示書は……クロエ様はもちろん、クラリス様たちにとっても爆弾になるはずですよね?」
セレナへの問いに、クロエ様は絶望的な顔を浮かべました。
「……自分の分の指示書はとうに捨てましたが、クラリス様や子爵令嬢の方たちが持っていなさいと押し付けたのです。……もし計画が露わになるようなことになったら、『あの男爵令嬢が勝手に考えて、わたしたちを脅してやらせた計画書だ』と罪をなすりつけるつもりだったのでしょう。……ただ、マリアンヌ様が事件を調査し始めたことにクラリス様は焦ったのか、子爵令嬢の方たちをけしかけて『早く処分しろ』と……」
「……なるほど。……本当なら、食堂で脅された時に捨ててしまうべきでしたわね」
わたくしがそう問いかけると、クロエ様は指示書に目をやり、大粒の涙を流しながら消え入りそうな声で答えました。
「でも……これを……捨ててしまったら、わたしの『心』まで……あの方たちと同じ真っ黒な何かに染まってしまう……。自分の罪を……認めようとした時に、証拠さえなければ、永遠に自分を……偽り続けなければならなくなる。……それが、怖かったんです」
それは、保身よりも重い、彼女の良心の悲鳴。
たとえ肉体が支配されても、魂だけは売り渡したくなかった……。その最後の抵抗が、このボロボロの茶封筒。
「……クロエ様。貴女は、ご自分を見失っていませんでしたわ」
わたくしは彼女の震える手をそっと包み込みました。
伝わってくる微かな体温が、彼女が必死に守り抜いた「良心」そのものであるように感じられて。
「……もう、大丈夫ですわ。わたくしが、すべてを終わらせます」
その言葉に、クロエ様は堰を切ったように泣き伏しました。
それは、長く苦しい支配から、彼女がようやく解き放たれた瞬間でもあったのです。
さてさて、真相はわかりましたがまだまだ続きますよー
それにしてもクラリスはヤバいやつですね
自分でも驚いてますよ
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