第19話:クロエの隠しごと
続きです。
いよいよ事件が動く……かも?
サロンに着いたわたくしたちは、セレナが淹れたお茶を飲みながら互いに自己紹介をいたしました。
「まぁ……クロエ様とおっしゃるのね。とっても素敵な名前だわ」
わたくしが微笑むと、クロエ様はさらに身を縮め、消え入りそうな声で「ありがとうございますぅ……」と呟きました。温かい紅茶の湯気が、彼女の強張った表情を少しずつ解かしていきます。
「昨日は……お礼も言わずに逃げ出してしまって、本当にごめんなさい。……でも、怖かったんです。助けていただいたときのマリアンヌ様の目が、あまりに鋭くて……。わたしのことを……すべて見透かしているのだと思って……」
容赦なく「怖い」と仰るクロエ様にわたくしは苦笑するしかありませんでした。
ですが、周囲から「冷酷な氷の令嬢だ」と悪意を持って言われる時のような嫌な気持ちには不思議となりませんでした。彼女の言葉は、ただ純粋な怯えからくるものだと分かっていたからです。
「目が鋭い……?本当に怖がらせてしまったのね。申し訳ないですわ……。わたくし、必死になるとどうしても顔が強張ってしまって……」
「い、いえ! 大丈夫です! マリアンヌ様が怒って当然なことをしていたのはあの人たちですから……。 ……でも、マリアンヌ様。本当は、あの時怖くはなかったのですか?」
クロエ様がすがるように尋ねてきました。わたくしは少しだけ視線を落とし、白状するように頷きます。
「ええ。心臓が止まるかと思うほど怖かったですわ。……でも、身分を笠にして虐げるなんて、貴族としてあってはならないこと。そう思ったら、考えるより先に体が動いてしまいましたの……。まぁ、わたくしが立ち上がったあと、皆さん一斉にわたくしの方を見てきて怖かったですが……」
わたくしは少し照れながらもクロエ様に伝えました。
「……すごい。……わたし、マリアンヌ様は事件の真相を全てを知っていて、その上で裁きにいらしたのだとばかり……。だから、この『指示書』のことも、既に見抜かれているのだと思って……」
…………ん?
「今、何と仰ったのですか!?クロエ様!」
それまで静かに控えていたセレナが、弾かれたように身を乗り出しました。
急に声を荒らげたセレナに、クロエ様だけでなくわたくしも肩を跳ねさせてしまいます。
「せ、セレナ? 急にどうしたの……?」
「マリアンヌ様、今、彼女は『指示書』と仰いました! ……クロエ様、その指示書とは、もしや西階段での件に関わるものですか!?」
セレナの鋭い追求に、クロエ様はおどおどしながらも、意を決したように鞄から一通の茶封筒を取り出しました。
「……は、はい。マリアンヌ様を陥れるための事件の……『指示書』です。わたし、このことで追い詰められていて……」
「………………ええっ!?」
わたくしの口から、間抜けな声が漏れました。
事件?真相?指示書?
頭の中が真っ白になり、目の前にある茶封筒とクロエ様の顔を交互に見つめることしかできません。
「あの……事件の真相って……?」
わたくしが恐る恐る尋ねると、クロエ様は一旦顔を下げてしまいました。ですが、すぐにグッと顔を上げ、強い意志を込めて口を開きました。
「……あの日のこと、すべてお話しいたします」
そうして、クロエ様はあの日何が起きたのか、静かに語り始めたのです――。
真相はいかに……!?
明日の更新もお楽しみに!




