第17.5話:軋みゆく歯車(前編)
本日から外伝その3です!
エドワード視点での物語です。
真実の愛を貫こうとするエドワードが堕ちていく様を是非読んでほしいです。
時はエドワードの卒業記念パーティ後、マリアンヌ・フォン・グラサージュがパーティ会場から出ていきグラサージュ邸に着いた頃に遡る。
卒業パーティの主役でもあるエドワード・マクシミリアン・フォン・ヴェリタスは意気揚々と自身が暮らしている王城へ戻った。
「父上!母上!聞いて下さい!僕はついに真実の愛を見つけ、マリアンヌとの婚約を破棄いたしました!」
息子からの突然の報告に両親は驚きを隠せなかった。
「お前……。今、何と言った?」
「婚約……破棄……?」
国王は戸惑いながらも平然を装い眼前の息子へ問うた。
王妃は動揺し手にした扇を落とす。そして、親友であるグラサージュ夫人の顔が浮かぶのだった。
「ええ!あんな氷のように冷たい女ではなく、もっと相応しい、花のように可憐な女性を見つけたのです。名をクラリス・ド・パーヴェニューと言います!」
国王は頭を抱えながら何とか言葉を絞り出す。
「……パーヴェニュー……? どこの家の者だ? 伝統ある侯爵家を捨ててまで選ぶんだ。騎士団の者か?それとも……隣国の者なのか?」
「いえ、父上! 彼女は、学園に通う子爵家の令嬢です! 彼女の清らかな心こそが、次期王妃に相応しいと感じたのです!」
エドワードの瞳が一段と輝く。そこからまくし立てるようにパーティで起きた一連の出来事を語った。
「……信じられん。お前は、騎士団の調査も待たず、現場の状況確認もせず、その娘の……クラリスと言ったか? その者の『言葉だけ』を信じて、公衆の面前でグラサージュ嬢を糾弾したというのか!」
国王の、怒りを通り越して憐れみすら混じった声。
本来のエドワードなら、この冷徹な問いかけに即座に背筋を正し、謝罪していただろう。彼はそれほどに、両親の教えに従順な息子だったからだ。
(……やはり父上も母上も、マリアンヌに騙されているな。クラリスの言っていた通りだ)
エドワードの脳裏に、クラリスが涙ながらに囁いた言葉が蘇る。
『陛下たちはマリアンヌ様の家柄しか見ていらっしゃらない。わたしのような小さな存在が何を言っても、きっと信じてくださらないわ……』
今、目の前の両親が浮かべている絶望の表情。
それがエドワードには「権力に固執する者の、愛への無理解」にしか見えなかった。
「卒業式の日、彼女はすべてを失い、僕とクラリスは真実の愛を国中に示すことになる。……ああ、今から楽しみです!」
背後で国王がエドワードを引き止める声が聞こえたが、彼は一度も振り返ることなく、軽やかな足取りで部屋を後にした。
翌朝になっても、エドワードの万能感は揺るがなかった。
登校時、クラリスと共にマリアンヌへ「睨みつけたところで結果は変わらない」と忠告をしたが、グラサージュ家の使用人がそれを制止し、貴殿の言葉は稚拙で反論する価値もない、と酷評したのだ。
だが、彼はそれを『愛の試練』だと信じ込んだ。もはや彼の頭の中は真実の愛を貫き通すことでいっぱいとなっているのだった。
――夕刻。
城に戻った彼を待っていたのは、国王からの冷ややかな視線と大臣からの冷徹な指摘だった。
「殿下、手続きがなされておりません。婚約破棄も、グラサージュ嬢への告発も、法的根拠がないままです。これでは殿下の独断、いえ、『暴走』と取られかねませんぞ!」
痛いところを突かれ苛立ちを募らせるが、昨夜の件もあってか国王には反論せず、側近の大臣へ不満をぶつける。
「手続きなど後でいいではないか! 僕は……僕はあの女に慈悲を与えたんだぞ!何も知らないのに僕に指図をするな!」
「殿下……」
「…………」
感情的に叫び逃げるように自室へ戻ったエドワードは、暗闇の中で自分を奮い立たせるように呟く。
「……大丈夫だ。明日になれば、またクラリスの笑顔が僕を救ってくれる……」
しかし、彼はまだ気づいていない。
運命の歯車の噛み合わせが、不気味に軋み始めていることに……。
明日は中編です。
はじめに言っておきます。外伝のエドワードに救いはないです。マジで。
あと予約投稿し忘れちゃった。すまーん!




