第11.5話:グラサージュ家の日常〜兄の暴走〜
今日から外伝です。
まずはマリアンヌのお兄さんのお話です。
「いま戻ったぞー」
僕は家を守っている執事やメイドたちに仕事場から帰ってきたことを告げる。
……っといけない。僕の名はアルフォンス・フォン・グラサージュ。マリアンヌの兄だ。普段は王宮で官職として働いていて……まぁ所謂エリートと呼ばれている。あんまり心地良い響きではないけども。
僕は外套を脱ぎ、軽く汚れを払ったあと出迎えた執事へ渡す。
「お帰りなさいませ、アルフォンス様。……おや、そちらの袋は一体……?」
執事のセバスチャンが手に持っていた紙袋に気づいた。
「ああこれかい?もうすぐ新年度が始まるだろ?いい機会だからマリーとセレナに新しいリボンをプレゼントしようと思っていてね」
僕が手に持っていた紙袋の中身は王都で大人気の小物店で購入した2本のリボンタイだ。
マリアンヌとセレナが通っている学園は学年ごとにリボンとネクタイの色が決まっている。だがデザインに関しては余りにも派手でなければ自由であり、実際、僕も学園に通っていた時は教師に怒られない範囲内で好きな柄のネクタイを締めていたものだ。
「全く……。アルフォンス様、先月もマリアンヌ様とセレナに贈り物をされていませんか?何かと理由をつけて買い与えるのはお止めなさい!」
「だって仕方ないだろう!マリーやセレナは僕にとって目に入れても痛くない存在だぞ!」
「それは只の言い訳にございます!」
セバスチャンから嗜められるが、僕はマリーとセレナが独り立ちするまで止めることはないだろう。……いや、独り立ちしてからも続けるだろうな!だって2人とも僕の大切な妹だから!
フンフンと鼻唄混じりで2人の帰りを待っていると、屋敷の扉がギィッ……と開く音が聞こえた。 僕は逸る気持ちを抑えつつ、満面の笑顔を向けながら玄関へ向かう。
「お帰り!マリアン……ヌ!?」
玄関に立っていたのは、朝に見送った姿とはガラリと変わったマリアンヌの姿だった。
セットしていた縦ロールは枝葉が絡まり崩れ、制服は至るところに汚れが付着しており、磁器のような肌は擦り傷だらけで、入学祝いにプレゼントしたリボンは見るも無惨に引きちぎられている。
……僕は驚きの余り、紙袋をポトリと落としてしまった。
「ま、マリーー!?何が……一体何があったんだーー!セレナ!何があったのか説明をしてくれ!エドワードか!?エドの奴がこんなことをしたのか!?」
「お、落ち着いて下さいアルフォンス様!」
「これが落ち着いて居られるか!とにかく今すぐ王城に乗り込まねば……!」
僕はセレナや執事たちの制止を振り切り剣や鎧の準備を進める。
するとマリアンヌが、
「……もう!落ち着いて下さいな!お・に・い・さ・ま!!」
「……ふぁい……」
……と、父さんからの説教が始まるときのような恐ろしい表情で僕の暴走を止めたのであった。
――騒ぎが収まったあと、僕は学園で何があったのかマリアンヌから事の顛末を聞いた。
「……というわけなのです、お兄様。怪我はかすり傷程度ですし、リボンは……その、不徳の致すところで……」
怒られると思ったのだろう、マリアンヌの瞳は潤み始め、顔を背けている。
「マリー、僕がそんなことで怒るわけないだろう?そりゃあびっくりはしたけど……。理由を聞いたら納得したよ」
マリアンヌはこちらを向いたが、瞳からはまだ不安の色が見えている。
僕は紙袋から買ったばかりのリボンタイを2人に見せた。
「本当は新学期が始まる時に渡そうと思ったんだけど……実は今日、マリーのために新しいリボンを買ってきてたんだ。こっちはセレナの分だよ。……そんな顔をするな。お兄ちゃんまで悲しくなるぞ」
2人は顔を煌めかせ、「嬉しいです!早速明日着けて行きましょう!」とセレナが提案すると、ようやくマリアンヌに笑顔が戻った。
汚れた制服は洗濯婦に預け、湯浴みをしたらどうかと伝えると、メイドたちに連れられ2人は浴室へ向かった。
嵐のような(というか殆ど僕の所為ではあるが)時間が過ぎ去り一息ついた頃、母さんが帰ってきた。
「お帰り母さん。今日王宮に居なかった?」
「ええ、そうなのよ。王妃からお茶会に誘われてね……」
母さんと王妃は幼少期からの親友で、お互いが嫁いでからも時々お茶会を開き親交を深めていると聞いている。
マリアンヌとエドが婚約したのもこの縁があってこそだ。
「この前の婚約破棄の件で王妃からもうたっくさん愚痴を聞いてきたのよ……。今回の件、エドワード様は国王や王妃に相談せず独断で進めていたみたいね」
母さんが肩をすくめながらお茶会での出来事を伝える。
「そうか……。王妃もその話題で頭を悩ませていたんだね……。というか、勝手にマリーを傷つけておいて、王家としての手続きすら怠っていたのかよ。道理で大臣たちがイライラしていた訳だ……。アイツ、一体何を考えているんだ?」
「本当に。卒業式まであと数日しかないというのに……。王妃も『このままでは済ませない』と仰っていたわ」
今回の件、やはりあのクラリスとかいう令嬢が怪しいな……。エドは少し抜けている部分はあるが、少なくとも国王と王妃に逆らうような奴じゃなかったぞ。
「――このまま、無事に冤罪が晴れるといいが……。まあ、マリーのことだ。案外、ピンチになったとしても皆が助けてくれるかもしれないね。なんたって僕の愛しい妹だからな!」
僕は空になった紙袋を愛おしそうに見つめた。
明日、彼女が新しいリボンを胸に、堂々と胸を張って登校する姿を思い浮かべながら。
シスコン設定はもう初めから考えていました。
エドワードとアルフォンスだと、とある兄弟が思い浮かびますが、生き別れの兄弟とかではないです。
アルフォンスがエドと呼ぶのは幼少期から兄貴分だったからですね。
さてさて明日はそんなエドワード視点でのお話です。
はじめに言っておきます。結構シリアスです。多分。
明日もお楽しみに!
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