第14話:噛み合わない救出劇
さて、マリアンヌ様の華麗(?)な救出劇です。
立っただけでシーンとなるからマリアンヌ様は何かしらのオーラを纏っているんだと思います。
コツ……コツ……。
静まり返った食堂に、わたくしのローファーが奏でる硬い音だけが一定のリズムで響き渡ります。
わたくしは恐怖心を悟られないよう背筋をピンと伸ばし、扇で口元を隠しながら、クラリス様のご友人方が集まっている隅のテーブルの前へと辿り着きました。
追い詰められている方を改めて見ると、今にも床に崩れ落ちそうなほどガタガタと震えていました。
――これほどまでに追い詰められるなんて。
わたくしは精一杯の慈愛を込めて、扇越しに、低く、落ち着いた声で告げました。
「ごきげんよう……。皆さま、あまり感心いたしませんわね。随分と騒がしいようですけれど?」
その瞬間。
クラリス様のご友人方の身体は、ビクゥッ! と大きく跳ね上がったのです。
「ご、ごきげんよう……。マリアンヌ様」
ご友人の1人がぎこちなく身体をこちらに向け挨拶を返します。
「身分を笠にし、そうやって寄って集って詰め寄るなんて……。あまり感心いたしませんわね。それに、あまり騒がないほうがよくてよ。皆さまも見ていらっしゃいますもの」
わたくしがそう告げた瞬間、彼女たちの動きがピタリと止まりました。
さっきまで威勢よく捲し立てていた口は、今はただ、金魚のように力なくパクパクとさせています。
(あら……。あまりの恥ずかしさに、言葉を失ってしまったのかしら?)
どうやら、自分たちの振る舞いがどれほど周囲の目に醜く映っていたか、ようやくお気づきになったようですわね。
すると、正気を取り戻したのでしょう。ハッと我に返り、
「は、はひぃっ……! も、申し訳ありません! もういたしません、失礼いたしますわぁぁ!……ほら、行くわよ!」
と、ご友人の手を引きました。手を引かれたもう1人のご友人は、わたくしへの恐怖を隠しきれない様子で震えながらも、最後にこちらを……いえ、背後にいた彼女を睨みつけました。
「……例のモノ、さっさと処分しなさいよね!」
捨て台詞とともに、クラリス様のご友人たちは逃げるように食堂から消えていきました。
処分?
その不穏な響きに、わたくしは扇の下で眉をひそめます。
どうやら事はわたくしが考えていた以上に根が深いようですわね……。
……っていけないいけない!彼女のケアをしなければ!
わたくしは先程までの鋭い表情を崩し、精一杯微笑み、彼女が安心できるようしゃがみこんで目線を合わせ、手を差し伸べながら声をかけました。
「貴女……大丈夫ですか?大分顔色が優れませんわね。」
彼女の体がビクッと跳ね上がります。無理もありませんわ。あれだけ怖い思いをされたんですもの……。
わたくしは彼女の緊張を解こうと、さらにぐいっと顔を近づけ、身体の震えを止めさせようと思い肩に手をかけながら、彼女が胸元で必死に守っている茶封筒へと視線を落としました。
「その手に握ってる封筒は……とても大切な物なのでしょう?奪われなくて良かったですわね」
精一杯の「共感」の言葉。
わたくしが彼女へ微笑みを向けると、今まで生気を失っていた彼女の瞳はまるで蛇に睨まれた蛙のように見開かれ、顔面からは瞬時に血の気が引いていきました。
「ヒッ……ヒィィィィ゙っ!ご、ごめんなさーーい!」
え、ええええーー!?謝られてしまいましたわーー!?
わたくしが呆気に取られると、彼女は脱兎の如く一目散に食堂から出ていかれたのです。
「ま、待って! 待ちなさいな! 何も怖いことなんてありませんわ!」
わたくしは慌てて立ち上がり、逃げる彼女の背中を追いかけました。
ですが、恐怖で火事場の馬鹿力を発揮したのか、彼女の足の速いこと!
わたくしも必死で追いかけましたが、彼女の姿はあっという間に廊下の角へと消えていきました。
「……行っちゃいましたわね」
「……ですね」
後ろから追いついてきたセレナの、どこか遠い目をした呟きが胸に刺さります。
――結局、放課後改めて学園内をあちこち探しましたが、あの方を見つけることは叶いませんでした。
……あんなに顔を真っ青にして、謝りながら逃げ出してしまうなんて。
わたくし、よほど彼女の「大切なもの」の核心に触れるような、失礼なことを口走ってしまったのかしら……?
(明日こそ、ちゃんとお話しして誤解を解かなくてはね……!)
わたくしは夕暮れの廊下で、固い決意を胸に、家路へとつくのでした。
一週間の猶予:残り3日
ピューっと逃げちゃった下級生の正体は一体……!?
明日は下級生の視点からの4日目です。
※廊下は走らないようにしましょう。




