第12話:魔女たちの密談と、不穏なランチタイム
4日目です。
ここから物語が大きく動く……かも?
一応ね、マリアンヌ様だって悩んでいるんです。
猶予4日目。
「猶予も半分を過ぎたのに、有力な情報や証拠がなかなか見つかりませんわね……」
午前の講義が終わり、冤罪を晴らす目撃者、あるいはクラリス様の自作自演を裏付ける証拠……。それらを求めて聞き込みを続けていたけれど、今日も目立った収穫はなし。
腹が減ってはなんとやらとも言いますし、わたくしはセレナと一緒に昼食を摂るため食堂へやってきました。
学園の食堂はとても広く、吹き抜けになったガラス張りの天井からは暖かな光が差し込み穏やかな時間が流れています。
……ええ、わたくしの周囲半径3メートルを除けば、ですが。
列に並んで料理を待つ間、わたくしの前にいた2人の生徒は、何度も肩を震わせて後ろを振り返っていました。おそらく、眉間に皺を寄せて『猶予が半分……』と絶望の淵に沈んでいたせいで、早く進めと催促されているように思われたのでしょう。
2人は料理を受け取ると、カウンターへ「ヒッ……!」と短い悲鳴を残してそそくさと駆けぬけていきました。
ようやくわたくしの番が回ってくると、食堂のマダムが「あら、今日は一段と気合が入っているね。お肉、多めにしておいたわよ」と、おたまを手に優しい言葉をかけてくれました。
マダムからの心遣いが眉間に寄せていた皺を和らげます。
「ありがとうございます、マダム。今日のシチュー、とても良い香りですわ」
わたくしが精一杯の感謝を込めて微笑むと、なぜか後ろに並んでいた生徒たちから、
「ひっ……笑った!?」
「誰を処断する相談がついたんだ……?」
と、カトラリーをカタカタと震わせる音が一段と大きく響いてきます。
わたくし、ただお肉が増えて嬉しいだけですのに……。ぐすん。
受け取ったトレイを手に、セレナと共に空いている席へと向かいます。
ようやく腰を下ろし、湯気の立つ料理を前に一息ついたところで、私は声を潜めて本題を切り出しました。
「はぁー……。猶予ももう半分を過ぎたのに、なかなか有力な証拠が見つからなくて辛いですわ……。何で皆さんの目の前であんな啖呵を切ったのかしら……。このままだとわたくし本当に国外つい……ムグゥっ!」
悲嘆にくれるわたくしの口内へ、セレナがシチューの肉塊を音もなく詰め込みました。
「マリアンヌ様、あまり弱気になってはいけません!いざとなったら私はもちろん、旦那様やアルフォンス様と一緒に全力で殿下を制圧いたしますよ。……主に物理的な手段を用いて、ですけど」
「ムグムグ……。セレナ、それは国家への反逆とみなされるのではなくて?」
今のセレナだとシャレになりませんわ、と苦笑交じりに嗜めると周りの生徒からは、
「……おい見たか?今、肉を食らわせながら何かを誓い合っていたぞ」
「しかも『制圧』って聞こえなかったか?やはり『氷の令嬢』……もとい『氷の魔女』は婚約破棄に乗じてこの国へクーデターを……!」
――違います。これは、侍女による(ちょっと)強引な励ましですわ!
というか、しれっとさらに不穏な呼び名に改変されていませんこと!?
……けれど、家族がそこまで私を信じてくれているのだと思うと、鼻の奥が少しだけツンとしました。そうでしたわ。グラサージュ家の名にかけて、わたくしがここで折れるわけにはいきませんもの。
パンっと自身の頬を叩いて気合を入れ直し、最後の一口を飲み込もうとしたその時――。
喧騒を切り裂くような「密談」が、私の耳に飛び込んできたのです。
これまで1日で1話だった証拠集めパート。
4日目から長くなります。
ここからが本番です。
余談ですが、食堂の1番人気のメニューは牛の赤ワイン煮です。ただしアルコールは控えめに作っています。




