表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
991/1068

願いを叶えるために

《サイド:御堂龍馬》



いつの間にか、

日が沈んでいたようだ。



夜の暗闇が薄暗い森をより一層暗く染め上げている。



木々の隙間から差し込む月明かりだけが、

僕の存在を照らしてくれているんだ。



「…沙織…。」



何度も何度も繰り返した名前。



総魔達からはぐれたあとも、

僕はずっと動き出せずにいた。



「…沙織…ごめん…。僕はもう…戦えない…。」



絶望に支配される心。



愛する人を失った悲しみが、

僕の心から生きる意志を失わせているんだ。



「沙織…。僕は…きみがいなければ…何も出来ないんだ…。」



もう…何もしようと思わない。



…いや。



何かが出来るとは思えなかったんだ。



孤独に苛まれる心。



愛する人を守れなかった後悔。


愛する人を失ってしまった失意。



絶望だけが僕の心を支配して、

立ち上がる力を失わせていた。



「いっそ、僕もこのまま…」



死んでしまいたい…と思う気持ちが込み上げてくる。



沙織を失った悲しみに耐えきれなくて、

ただただ死を望んでしまうんだ。



「僕が守るべき人はもういない…。僕が戦う理由はもう…何もないんだ。」



嘆き悲しみ。


失望だけが心を埋め尽くしていく。



そうして一人で落ち込んでいると。



不意に『ガサガサッ!』と響く、

複数の足音が聞こえた気がした。



そして。



「誰かいるぞっ!!!」



大声で叫ぶ男の声が聞こえたんだ。



「…ついに来たのか。」



この地にいる人物は限られている。



味方は少数だ。


声を聞けば誰かは分かる。



だけど。


声を聞いても誰か分からないという時点で敵だと判断して良いと思う。



…だから。



僕は微笑みを浮かべていたんじゃないかな?



「間違いなくアストリア軍だろうね。」



好都合…というべきなんだろうか?



今はまだ自殺しようとは思っていなかったから、

殺してくれるというのならそれで良いと思ったんだ。



そんなふうに…思ってしまったんだ。



「これでようやく…終わりかな。」



もう戦おうなんて思えない。


もちろん逃げ出そうとも思わない。



沙織の苦しみのホンの一部でも分かち合えるのなら、

ここでアストリア軍に殺されるもの良いと思ってしまったんだ。



「これで良いんだ…。」



敵の接近に気付いたことで、

全てを受け入れる気になった。



「僕は…ここで終わる…。」



死を受け入れて呟いた僕の視線の先で、

草木を掻き分けて接近するアストリア軍が見えた。



「一人だ!」


「魔術師かっ!?」


「味方じゃないなら、とにかく殺せっ!!」



大声で叫びながら僕を取り囲もうとする兵士達。



その数は、ざっと30くらいかな?



おそらく彼等は総魔達が向かった施設への援軍として駆け付けようとしている増援部隊だろうね。



ここを通りかかったのは偶然だと思うけど。


そのおかげで僕は沙織のあとを追うことが出来そうだった。



「殺せっ!!」



指揮官らしき男の指示によって、

兵士達が一斉に襲い掛かってくる。



「「「「「うおおおおおおおっ!!!!」」」」



激しい雄叫びを上げながら、

僕に切り掛かろうとする兵士達。



その背後にいる指揮官が、

総魔達の向かった方向に視線を向けながら小さな声で呟いていた。



「急がなければ…たった一人の魔術師相手に軍が全滅など許されんからな。」



…え?



軍が…全滅?



呟いた男の声を僕はしっかりと聞き取っていた。



…いや、違うかな。



戦うつもりがなかったから。


抵抗するつもりがなかったから。


だから指揮官の呟きを聞き取る余裕があったんだと思う。



だけど。



聞こえてきた言葉は、

僕に不安を感じさせる内容だった。



「…たった一人?」



そこが、おかしい。


先行したのは総魔と栗原さんと深海さんの3人だ。



一人だけということは考えられない。



「どうして一人なんだ?」



疑問を感じて呟いたことで、

僕の心が微かに揺らめいた。



事実がどうかに関係なく。


その理由が他に思い浮かばなかったからだ。



「まさか…総魔…。」



きみは一人で戦っているのか?



僕はまだ何も知らない。



総魔が一人で戦っている理由を…僕はまだ何も知らない。



栗原さんと深海さんがどうしているのかも知らないんだ。



だけど…だからこそ。



考えてしまったんだ。



「総魔…。」



どうしてきみは戦えるんだ?



命を賭けてまで。


多くの仲間を失ってまで。


どうして戦えるんだ?



…どうして。



どうしてきみの心は折れないんだ?



分からない。



総魔の気持ちが。


総魔の考えが。


僕には想像すらできない。



きみの強さは。


きみの心の強さは。



どうして砕けないんだ?


どうして戦えるんだ?



一瞬で駆け巡る思考。



…だけどね。



答えなんて分かるはずがないんだ。



僕はまだ知らないから。


知ろうとすらしなかったから。



だから一人で戦い続ける総魔の苦しみなんてわからない。



…だけど。



知りたいとは思うんだ。



総魔のことをもっと知りたいと思えたんだ。



…だから。



だから僕は考えた。



総魔の戦う理由を


総魔が戦い続けられる理由を。



必死に考えてみた。



そして目の前に迫る兵士達の姿を眺めながら総魔の言葉を思い出したんだ。



『御堂。今は辛いと思うかもしれないが、ここで足を止めてしまえば再び誰かが犠牲になる。』


『家族や友人…まだ他にも守りたいと思うものがあるのなら…。沙織と同じような犠牲を出さない為に…もう一度、立ち上がれ。』



総魔は僕に進むべき道を示してから旅立った。



もう誰も死なせない為に。


もう誰にも悲しい想いをさせない為に。



総魔は戦うことを選んだ。



…戦うことを諦めた僕の代わりに。



そして。



…戦場で倒れていった仲間達の代わりに。



総魔は戦い続ける道を選んでいたんだ。



「総魔…。きみは本当に強いんだね。力だけじゃなくて…その心も…。」



僕とは違う。


その事実がはっきりと実感できた。



「やっぱりきみは凄いよ。」



心から尊敬する存在だと思えるんだ。



僕にとって最大の親友であり。


最も恐れるべき好敵手。



いつか乗り越えたいと思える存在。


その総魔が戦い続けている。



僕と違って…今も戦い続けているんだ。



その事実に気づけたことで、

僕の心が再び動き出した。



「僕は…何をしているんだ?」



自分自身に対する疑問。



総魔は最後まで僕が立ち上がることを願っていた。



だけど肝心の僕は死を望んでいた。


これでは総魔の期待を裏切るだけだ。



…いや。



それ以前の問題なのかも知れない。



こんなところで死を望むようなら、

総魔の隣に並ぶことさえできないんだ。



総魔を乗り越えるどころか、

総魔に歩み寄ることさえできないんだ!



「僕は馬鹿だ…っ。ここで死んでも…何の意味もないのに…!」



そう思った瞬間に。


両手に力を込めていた。



「まだ…死ぬには早い!僕はまだ…何もしていないんだ!!」



目前に迫る兵士達を睨みつけて、

再び戦う覚悟を決める。



そしてルーンを生み出した。




暗い森の中を照らす光。


僕の手にルーンが現れる。



聖剣『シャイニングソード』



これは僕の想いを込めた力だ。



総魔を越えたいと願い。


常に成長を望んできた僕の心の形でもある。



「僕はまだ死ねないんだっ!!」



必死に叫ぶ。


そして強くルーンを握り締めて、

周囲の兵士達に立ちはだかった。



「僕は…僕は、総魔を見捨てはしないっ!!!」



総魔がたった一人で戦っているのなら。



僕がその場に駆けつけよう。



そして総魔がたった一人で戦っているのなら。



僕が総魔を守ってみせる!



「総魔を死なせはしないっ!!」



全力で叫んだ僕のルーンが一際大きく輝きを増す。



これが力だ!


そしてこれが僕の魔術だ!!



「グランド・クロス!!!!」



ルーンに魔力を込めて一気に解放する。


その力が…周囲の兵士達を一瞬にして飲み込んだ。



聖剣から放たれるのは十字の光。



破壊の光は迫り来る兵士達だけでなくて、

後方に控えていた指揮官も飲み込んで一瞬にして全ての命を消し去った。



…これでもう。



僕を殺せる敵はここにはいない。



「はぁっ…はぁっ…!」



呼吸を整える僕の視線の先に兵士達の遺体はない。



ただぽっかりと地面に開いた大穴だけが残っているだけだ。



たった一撃。


その一撃で30名の命を奪った。



そのあとで。


僕は聖剣を眺めながら亡き沙織を想った。



「ごめん、沙織。本当は今でもまだ、きみを追いたいと思ってる。だけど…だけど僕にはまだやるべきことがあるんだ。だから…だからもう少しだけ待っていてくれないか?」



呟いた僕の心の中で…沙織の言葉が蘇る。



『龍馬…あのね。私…ね。あなたに出逢えて本当に良かったと思っているの。あなたと過ごした毎日が…私にとってとても幸せな日々だったと思っているの。』



『だから…龍馬。私は…。私はあなたが好きです』



沙織は僕が好きだと言ってくれたんだ。


そして沙織は僕に願いを託して立ち去ったんだ。



『私はここに残るわ。例え何があっても…真実がどうであったとしても…私は全てを知りたいの。』


『これは私の我が儘だから、だから龍馬は先に行って…。そして彼を助けてあげて…。戦争を終わらせる為に。沢山の人々を守る為に。』



…ああ、そうだったね。



沙織は最後まで願い続けていたんだ。



戦争を終わらせることを。


多くの人々を守ることを。



沙織は願い続けていたんだ。



そのことさえも忘れてしまっていた。



だけど…今はもう思い出した。


沙織が遺した想いを思い出せたんだ。



大切の想いを胸に抱えて、

まっすぐに視線を向けてみる。



目指すべき場所は分かってる。


総魔が戦っている戦場だ。



「…今から行くよ。」



僕は決意した。



もう一度立ち上がって、

総魔を助けて戦争を終わらせる。



それが…それが自分にするべきことだと分かったんだ。



「少し遅くなったけれど…僕も立ち上がるよ。そして僕は…僕の想いを貫き通す!」



再び戦う覚悟を決めた。



沙織の願いを叶える為に。


そのために再び立ち上がったんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ