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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
987/1152

同じぬくもり

「深…海、さん…。」



肺がやられてしまっているからでしょう。


上手く声を出すことができません。



ですがそれでも。


諦めずに必死に呼びかけることにしました。



「…深、海、さん。」



僕の足元で、ただ呆然と視線をさ迷わせるだけの深海さんは心を失っています。



そしてすでに感情までも失っている様子ですね。



この状況では何を言ったとしても、

深海さんの心に届かないかもしれません。



すでに思考能力が停止しているのですから。


植物人間か、

あるいは廃人と呼ぶべき状態の深海さんに、

僕の想いは届かないのかもしれません。



…ですが。



それでも僕は深海さんに想いを伝えたいと思います。



それが…僕に残された最期の役目だと思うからです。



「深海、さん。あなた…は、生きて、下さい。あなたのした…ことは、確かな罪、です。それが、それが真実で…あることに、変わり…はありませ、ん。」



偽ることも。


誤魔化すことも出来ません。



それでは何も解決しないのです。



「ですが、その…現実、を受け…入れて、下さい。」



必死に話しかけてみるものの。


やはり深海さんの心には届いていないようです。



僕の言葉を聞いても、

深海さんの瞳に光は戻りませんでした。



…だとしても。



それでも願いたいと思うのです。



「僕や…仲間や…天城、さんが、そうである…ように、あなた…も、受け入れ、て…ください。」



かすれる声。


それでも願い続けた結果として。



「…総魔、さん?」



深海さんは『とある言葉』に反応を示してくれました。



心が壊れてもなお、

天城さんの名前を呟いていたのです。



「…ええ、そうです、よ。」



まだ深海さんの瞳に光は戻らないものの。


それでも微かな希望を見出だしました。



「天城さん…も、あなたと、同じ苦しみと…悲しみを、感じて…いるはず、です。」



人を殺すという罪。



その罪を受け止めて、

彼は立ち向かう道を選びました。



そしてその気持ちは僕も同じです。



「僕も…多くの、仲間を失い…大切な人…までも、失い…ました。」



だから僕も…そして彼も。



その想いは同じなのです。



「それ…でも、それでも彼は、戦い続けることを、選び…ました。僕は、そんな…彼を、尊敬して、いるのです。僕も…そう在りたいと…想うほどに、僕も…彼を、尊敬…している…のです。」



とぎれとぎれでしか話せませんでしたが、

それでもはっきりと想いを言葉にしました。



これが僕の本心だからです。



動かない体でも。


うすれゆく意識の中でも。



それでも僕は深海さんが自らの意志で立ち上がることを願いたいと思うのです。



「現実と、向き合って…ください。今、ここで…あなたが、亡くなれば…悲しむ、人がいる…はずです。」



そんな悲しい想いを誰かにさせない為に。


大切だと想える人に涙を流させない為に。



「あなたは…生きて、ください。」



犯した罪を悔やむ気持ちは大事なことです。



それは決して失ってはいけない、

人としてとても大切な感情です。



…ですが、今は。



今だけは立ち止まることは許されません。



ここで僕と深海さんが倒れてしまったら、

一体誰が兵器を破壊すれば良いのでしょうか?



天城さんが命懸けで後方支援に徹してくれているというのに。


肝心の僕達が全滅では天城さんの苦労も報われません。



「天城…さんは、まだ、戦って…くれている、はずです。だから…僕達も、前へ…進むべき、なのです。」



仮にここで僕は死ぬとしても、

深海さんはこの先にあるはずの兵器まで進まなければいけないのです。



「いい…です、か?兵器の…破壊が、最優先、です。そのための…罪は…仕方がない、ことなの…です。仮にも…医師である僕が…言うのは、どうかとも…思います、が。天城さんの…努力を無駄に、しない…ために、僕達は…」



先へ進まなければいけないと話し終えるよりも先に。


ついに僕は…崩れ落ちてしまいました。



「栗原…さん…?」



目の前で倒れた僕の姿を見たことで、

深海さんの心は急速に動き出したようですね。



「く…栗原さん!?栗原さんっ!!!」



必死に呼び掛ける深海さんの瞳には意志が戻り。


同時に涙があふれていました。



「栗原さん…っ!!」



僕の体に手を伸ばす深海さんが必死に呼び掛けてくれています。



「どうして…!どうして私の為に…っ!こんな…こんな…っ!?」



どうして…ですか?



「ただ、あなたを…守りたかった、だけです…よ。」



瀕死の重傷を負っている姿を見て歎き悲しむ深海さんに、僕は必死に応えました。



「僕はもう…大切な人を、失い…たくない…から。あなた…を、愛里ちゃんと、同じ…運命には、したく…なかったから、です。」



ただ、それだけなのです。



愛里ちゃんを守れなかったから。


だから今度は僕の手で守りたいと思ったのです。



命をかけて、守りたいと思ったのです。



死なせてしまった愛里ちゃんを深海さんに重ね見る僕にとって『深海さんの死』は決して許せることではありません。



最愛の愛里ちゃんを失った僕にとって、

深海さんの死は愛里ちゃんを2度失うことに等しい出来事なのです。



だから。



だから僕はこの命に賭けて深海さんを守りたいと思っていました。



かつて果たすことの出来なかった約束を、

深海さんを守ることで果たそうとしていたのです。



「僕は…駄目な、人間…です。約束も、守れない…ような。駄目な…人間なの、です。ですが、それでも…この想いを、忘れることは…出来ない、のです。」



心の底から守りたいと願った愛里ちゃんはもういません。



ですが、僕にはまだ守れる人がいます。



愛理ちゃんにとてもよく似た深海さんがすぐ側にいるのです。



「ただ…愛理ちゃん、との…約束を、守りたかった…だけ、なのです。」



例え傍にいるのが愛理ちゃんではないとしても。


例え傍にいるのが僕の勝手な幻想でしかないとしても。


それでも僕は守りたいと願うのです。



「深海…さん。」



名前を呼びながら、

僕はゆっくりと右手を動かしました。



血まみれで、ドロドロの手ですが。


痛みをこらえるために手を握り締めていたせいか、

手のひらはそれほど被害を受けていないようですね。



…とは言っても。



手の甲から流れる血で真っ赤に染まっていますが。



そっと触れる深海さんの頬は…。


涙で濡れる頬は…。



温もりに満ちていて、

流れる涙さえとても温かく感じられました。



「愛…里ちゃんと、同じ…温もり、です…ね。」



触れる感触も同じように思えます。



だから、というわけではありませんが。



深海さんの温もりを感じられたことで、

自然と微笑むことができました。



「これで…良かったのです…。」



後悔はありません。


僕は僕にできることをやりきったのです。



「深海さんが…無事で、よかった。」


「…ごめん…なさい…っ。」



無事を喜ぶ僕に、

深海さんは謝罪していました。



「私が…私が戦わなかったから…!私が…逃げたから…っ!」



逃げた…ですか?



いえ…僕はそうは思いません。



そんなふうに思いたくはありませんし。


責任の追求という意味で言うのなら、

そもそも誰もが間違っているのです。



殺し合いを始めた時点で誰もが間違っているのです。



それなのに。



深海さんの責任を追及するというのはおかしな話です。



「泣かない…で下さい。」



…僕は。



僕は満足なのです。



あの時に果たせなかった約束を。


今度は守ることが出来たと思えるから。



…だから僕は満足なのです。



「あなたを…守ること、が出来たから、だから…僕は、自信を持って…愛里ちゃんを、想い続ける、ことが…出来るのです。」



愛里ちゃんを守れなかった事実と絶望。



あの日の辛い思い出によって、

愛里ちゃんへの罪悪感を感じていました。



だからこそ僕は深海さんを守ることで、

かつて果たせなかった約束を守ろうとしたのです。



「これで…これで、良いんです、これで…」



もう、思い残すことはありません。



例え僕の努力が一時の時間稼ぎでしかないとしても、

誇らしく精一杯戦うことができたのです。



今後の戦闘を深海さん一人に委ねてしまうのは申し訳ないと思いますが、

深海さんの意識を取り戻すことには成功しました。



今なら逃げることも戦うこともできるでしょう。



「あとは…お願い、します…。」



後を託した僕の手が、

ついに限界を迎えて深海さんから離れて落ちました。



もはや指先一つ動きません。



声も出せず。


呼吸すら出来そうにありませんでした。



「栗原さん!!!」



必死に呼び掛けてくれる深海さんですが、

その呼び掛けに応える力はもう…残されていませんでした。



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