僕の役目
「「「急々如律令!!閻魔煉獄!!!」」」
陰陽師達が力を振り絞って放つ強力な攻撃。
その護符が力に変わり。
地獄の業火を生み出しました。
今まで見たこともないほど強力な炎です。
複数の陰陽術が同時に展開しているせいでそんなふうに思ってしまったのかもしれません。
ですが深海さんが放ったダンシング・フレアの数倍の火力に思えました。
それほどの高火力の炎が僕達に迫って来ているのです。
「…くっ!!」
魔術の詠唱は間に合いません。
…せめてルーンがあれば!
そんなふうに思ってしまいますが、
僕にはルーンは扱えません。
これまで必要としていなかったことが、
ここにきて悔やまれますね。
…もっと努力していれば!!
そんなふうに思っても既に手遅れです。
ないものは望めません。
土壇場で奇跡が起こると考えるのも無理があるでしょう。
…だとすれば。
僕に出来ることは一つしかありません。
「これが…最善の一手でしょうか。」
他に方法がないと感じた僕は、
自らの身を盾として深海さんの前に立ちはだかりました。
「せめて、深海さんだけでもっ!!」
迫る炎。
この攻撃だけは、耐えるしかないのです。
熱風。
そして熱気。
何かが体を通り過ぎたと感じた瞬間に、
全身があっという間に炎に包まれていました。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
熱いっ!
熱いっ!!
熱いっ!!!
「あああああああああっっっっ!!!!!!!!」
気が狂いそうになるほどの苦痛。
全身を駆け巡る痛みと熱気。
燃える制服と爛れる体。
視界は炎だけを映して。
自らの体の焼ける匂いで吐き気すら感じてしまうほどでした。
「ああああああああああっっっっ!!!!!!!」
絶叫としか言い表せない…叫声。
終わらない苦しみと痛み。
炎に飲み込まれるというのは、
これほどまでに心が影響を受けてしまうのですね。
今の僕にはもう…炎に対する恐怖だけで心が一杯でした。
「ぐぅぅぁぁぁぁっ……!!!」
体を焼かれる苦しみ。
それでも一歩も動かずに耐えて。
決して逃げることなく。
自らの身を犠牲にし続けました。
…ただ深海さんを守る為に、です!
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
何度も何度も叫び声を上げて。
全ての炎が消えた時にはすでに。
僕の体は本来あるべき原形を失いつつありました。
制服は完全に燃え尽きて全裸に近い状態です。
ですがそれが恥ずかしいとは感じません。
もはやそんな羞恥心を感じていられる状況ではないからです。
焼け焦げた体は皮膚がただれ。
血まみれの肉が流れ落ち。
ところどころでは骨さえ見えている状態です。
さすがにこの状況では回復魔術も成功しません。
すでに治療を成功させるだけの集中力が残っていないのです。
全身の痛みと苦しみで頭痛が絶え間なく続き。
肺も焼かれたことで呼吸すら満足にできません。
この状況で魔術の詠唱などできるはずがありません。
一度でも魔術が発動できれば痛みを和らげて本格的な治療に移れるのかもしれませんが、
今はもうその最初の一回さえ魔術を展開する余裕がないのです。
ここまでの重傷を負ってしまった以上。
もはや自己回復は不可能です。
他の誰かに助けてもらう以外に、
僕が助かる方法はないと思います。
…ですが。
その誰かは候補が限られている状況でした。
僕の背後で廃人と化してしまった深海さん。
あるいは地上にいるはずの天城さん。
もしくは途中ではぐれることになった御堂さんだけでしょうか。
ですが、どの方にしても僕の治療は難しいでしょう。
深海さんは実力が足りていません。
仮に今ここで意識を取り戻したとしても、
僕の治療を行えるほどの魔術は使えないはずです。
そしてそれは御堂さんも同じでしょう。
…唯一の希望は天城さんですが。
何もかも天城さんに頼るわけにもいきませんね。
これまでにもかなりの負担をかけてしまっているのです。
ここへきてさらに治療を望むのは都合が良すぎるというものでしょう。
この状況は僕自身が考えた結果なのですから、
悔やむわけにはいきません。
深海さんを見捨てれば僕は助かったかもしれませんが、
そうしたくないと決めたのは僕自身なのです。
…だから。
治療を望むのは止めましょう。
それよりも今はやるべきことがあるのです。
治療法を考えている暇があるのなら、
僕は僕の役目を果たすべきだと思います。
そのために。
僕は深海さんを想い。
残された力を振り絞って、
話し掛けることにしました。




