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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
985/1056

たったそれだけの距離

《サイド:栗原徹》



「「「「「ぐあああああああああああああっ!?」」」」」



一斉に後方へと吹き飛ぶ5人の陰陽師達。



まだ致命傷には程遠いようですが、

それでもひとまず距離を開くことには成功したようですね。



「良い子です。」



精霊を褒めてから陰陽師達に振り向きました。



「どうやら僕の人生はまだ終わったわけではないようですね。」



深海さんは動けませんが、

精霊は戦えるのですから。


そう思えただけでも、

少しは心に余裕を持てるような気がします。



…気がしたのですが。



僕が感じた希望は、

ホンの一瞬の出来事でした。



「にゃーーーっ!!!」



鳴き声を上げる精霊の力によって、

再び後方へと吹き飛ばされる陰陽師達。


壁に激突するまではいかなかったようですが、

部屋の端まで吹き飛ばされています。



これでかなりの距離が開けたのですが、

どうやらここまでのようでした。



精霊に出来ることは、

これが全てだったのです。



「にゃ~……。」



力なく声を発する精霊は深海さんの側へと歩みよってから、

心が壊れて呆然と座り込む主人の手を小さく舐めて…そのまま力尽きたのです。



「…にゃ、にゃ~…」



最期に囁く精霊が深海さんに何を言ったのか?



鳴き声の意味は誰にも分かりません。



ですが精霊は深海さんの手を舐めてから消失してしまったのです。



「くっ…!?」



精霊の消失。


その瞬間を見届けたことで、

理由は即座に判断できました。



精霊が消えた理由。


それはつまり『魔力の消失』です。



幾度も重力を操作して全ての魔力を使い果たした為に消失してしまったのでしょう。



本来なら深海さんからの魔力の供給で存在を維持できるはずなのですが、

今の深海さんにはそれができません。



魔力を操作する意思が存在しないことで、

精霊の維持が出来なくなってしまったのです。



そのせいで魔力が断たれてしまった精霊は存在が維持出来なくなったのだと思います。



深海さんが意識を取り戻せば再び精霊を召喚出来るかもしれませんが、

今の深海さんには期待出来ません。



私にとって唯一の希望とも言えた攻撃の要。



精霊の力を失ってしまったことで、

再び危機を感じることになってしまいました。



「陰陽師達はっ!?」



急いで振り返る視線の先。



そこにいるのは5人の陰陽師達。


そして壁に激突して意識を失っていただけの、

まだまだ戦える兵士達が立ち上がっている姿が見えます。



意識を取り戻して立ち上がる陰陽師と兵士達。


その数は20名にも満たないようですが、

考えるべきことは沢山あると思います。



それはつまり、残る兵士達の存在です。



精霊の力によって意識を失った兵士達は陰陽師を含めて総数で100人近くいたはずです。



現段階では20名弱が行動可能なのですが、

時間が経つほどに意識を取り戻して戦線に復帰する可能性が高いと思われます。



大多数の兵士達が深海さんの攻撃で死亡したとは言え。


生存する敵の数はまだまだ油断出来る数ではないのです。



…それでも。



今は距離が開いただけでも喜ぶべきなのでしょうね。



考えながら魔術の詠唱を再開しました。



「「「「「蹴散らせーーー!!!」」」」」



一斉に迫り来るアストリア軍。



「兵器を守れ!」



大声で叫ぶ兵士達。



そして。



「「「急々如律令!!!」」」



陰陽師達の手から放たれる護符。



多くの兵士達の死体が転がる室内で再び戦闘が始まりました。



「エレメント・ガード!!」



僕の魔術が発動して『魔力の盾』が出現します。



属性攻撃を防ぐ為の盾なのですが、

以前の経験で複数の属性を同時に防ぐことは不可能だと実証されています。



…ですが。



それでも今は微かな時間稼ぎの為に、

盾を発動させて次の詠唱を始めました。



「間に合えば良いのですが…」



詠唱の時間を考慮して焦る間に兵士達が迫ってきています。



「「「「「押し潰せーー!!!」」」」」



叫ぶ兵士達の間を抜けて、

陰陽師の護符も襲い掛かってくるようです。



「「「炎神連舞!!!」」」



放たれた複数の護符が、

ほぼ同時に炎へと姿を変えました。



燃え盛る幾つもの猛火。


それらが僕達へと降り注ぎます。



「くっ…うぁっ!!」



必死に盾で防ごうとしましたが、

熱気までは遮断出来ません。



…いえ。



そもそも防御しきれていないのでしょう。


結界の能力を上回る攻撃を受けているのは明らかでした。



「熱…いっ…!」



必死の思いで熱気に堪えます。


そしてそんな状況だからこそ、

生き残る為に魔術の詠唱を急ぐことができました。



迫り来る兵士達が接近する前に、

何とか魔術が完成したのです。



「クエイク!!!!」



先ほど大いに役立ってくれた地震魔術です。


再び揺れ出す地下室で多くの兵士達がその場に転がり倒れて立ち上がれなくなっています。



見てみれば後方に控える陰陽師達も、

その場に膝をついて地震の揺れに堪えているようでした。



地震の揺れによって僕も立っていられなくなるのですが、

そんなことを気にしている余裕はありません。



まずは生き残ることが優先だからです。



玉砕覚悟の特攻や自爆狙いの捨て身は得策ではないでしょう。



仮に僕の攻撃が成功したとしても、

深海さんが動けなければ兵器の破壊は成功しません。


何より攻撃に失敗すれば、

深海さんまで危険にさらすことになってしまいます。



それらの問題を考慮すれば無茶な攻撃は行えません。



確実に敵の数を減らして、

安全を確保しながら戦うべきなのです。



そのために。



僅かに稼いだ時間を使って、

更なる魔術の詠唱を急ぎました。



「何としてでも敵の全滅を急がなくては…」



呟きながら詠唱を続けるのですが、

残された魔力の残量も心配です。



そしてなによりも今は、

僕達以上に考えるべき問題があります。



それはもちろん天城さんのことです。



地上で戦闘を続けているはずの天城さんですが、

時間稼ぎはそれほど長くはできないでしょう。



いくら共和国最強といえども、

一人の力には限界があるからです。


僕に迫る魔力の限界が近いように、

天城さんの魔力も無限ではありません。



いつか必ず底を尽くはずです。



そうなる前に。


天城さんが倒れる前に。


兵器を破壊しなくてはならないのです。



それこそ僕が先を急ぐ理由でした。



「動きを止めた今のうちにっ!」



焦りを隠しきれないまま更なる魔術を発動させます。



「バースト・フレア!!!」



炎系の上級魔術。


炎の炸裂弾です。



僕の手から放たれた炎は足を止めていた兵士達に襲い掛かるはず…なのですが。



「急々如律令!!呪詛散開!!」



炎は途中で消え去ってしまいました。


地に伏しながらも護符を放つ陰陽師によって炎が消滅してしまったのです。



「くぅっ!あの力は厄介ですね…」



悔しさを感じてしまいました。



陰陽師の力は魔術に限らず異能の力を打ち消す力があるようです。



ですが魔術では陰陽術を打ち消すことは出来ません。



解呪系統の魔術は数多く存在するのですが、

そのどれもが魔力への干渉か単一の属性消去であって、

複数の属性に対応出来る便利な解呪は存在しないからです。



シールドは『魔力の遮断』


ディスペルは『魔力の停止』



その他の魔術も陰陽術に対して有効的とは言い難い状況です。



もしも他に仲間がいれば協力しあうことで各属性を阻止することは可能かもしれないのですが、

僕一人で出来ることには限りがあります。



「ですがそれでも!それでも諦めるわけにはいかないのです!!」



叫ぶ声が地下室に響き渡りました。


地震の影響が収まるまでの数分間。



その数分間の間に全ての力を使い果たすつもりで魔術の詠唱を続けます。



「ここで深海さんを死なせるわけにはいかないのです!僕は…僕は彼女を守り抜くと決めたのです!!」



必死に叫びながら新たな魔術を発動させました。



「フレア・アロー!!!!」



数え切れないほどの炎の矢。


これだけの数を用意すれば陰陽師達も相殺出来ないはず。



「こんな所で、負けるわけにはいかないのです!!」



必死の想いで放つ炎の矢は、

僕の予想通り陰陽師の護符の影響を逃れて兵士達へと降り注ぎました。



「「「「「ぐあああああっ!!!!!」」」」



広範囲に分散する炎の矢。



一瞬で燃え上がる兵士達の体。


僕に接近していた兵士達は、

炎の矢を浴びて全滅したようですね。



「よしっ!行ける!!」



まだ負けたわけではないのです。


急いで次の魔術の詠唱を始めます。



ですが僕の視界の先で前衛を失った陰陽師達がそれぞれに護符を構えて狙いを定めている姿が見えました。



「バケモノどもめ…っ。」



誰かが呟いたその言葉をきっかけとして陰陽師達が護符を放ちました。



「「「急々如律令!!」」」



放たれたのは8枚の護符です。



困ったことに意識を取り戻した人物が増えてしまったようですね。


現在戦える8人の陰陽師達が放った護符の力が僕達に襲い掛かろうとしているのです。



「間に合えっ!マイティ・ガード!!」



防御魔術が発動して、

僕と深海さんの周囲に薄い光の膜が現れました。



「雷神逆鱗!!!」


「水神衝破!!!」



2種類の陰陽術が発動したようですね。


雷撃を帯びた水の槍が結界へと降り注いでいます。



次々と結界に突き刺さる水の槍。



その槍の勢いが結界を勝り、

結界の崩壊と同時に雷撃を帯びた水の槍が襲い掛かってきました。



「くっ!!!」



慌てて魔力の盾をかざしたのですが、

威力を増した水の槍を防ぎ切れませんでした。


盾を突き抜けた槍が僕自身を貫いたのです。



ぐ…っ!?



「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!!」



痛みは堪えられるものの。


結界と盾を失ったあとも、

水の槍は容赦なく降り注いできます。



「がっ!?ぐ…っ…ぁぁああああっ!!!」



防ぎきれずに直撃を受けてしまったのです。


重傷を負ってしまい、

その場に崩れ落ちてしまいました。



…ですが、まだです。



ここで倒れるわけにはいきません。


僕にはまだやらなければならない使命があるのです!



「…まだ、です。僕は、まだ…戦えます…!」



ボソボソと呟きながら陰陽師達へと視線を向けました。



そんな僕の視線の先には、

地に伏しながらも護符を手に持つ陰陽師達の姿があります。


すでに攻撃の準備は整っているようですね。


速射性において、

僕では到底太刀打ちできません。



「ようやくここまで来たのに…!」



兵器は目の前だというのに。



「それなのに…っ!!」



放たれる8枚の護符。


それらを眺めながら、

魔術の詠唱が間に合わないことを悟りました。



「…呆気ないものですね。」



あと少しだと言うのに。


目指す場所は見えているというのに。



「それでも手が届かないとは…っ。」



視線の先に見えるのは次へと続く扉。


おそらくあの扉の向こう側に兵器があるはずです。



…それなのに。



その扉が果てしなく遠いのです。


距離だけを考えれば200メートルもないでしょう。



…それなのに!!



たったそれだけの距離が進めないのです。



たどり着きたい場所。



…なのに。



たどり着けない場所。



その扉を見つめる僕に護符が襲い掛かりました。




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