悪鬼と化して
《サイド:近藤悠護》
…くっ!
…間に合わなかっただとっ!?
ふざけるなっ!!
これがっ!
これが運命だとでも言うのか!?
こんなことが結末だというのか!?
俺はこんな最後を見届けるために戦ってきたわけじゃないんだっ!!
「悠理ぃぃぃぃぃっ!!!!!!」
目の前にあるのは二人の遺体。
俺が駆けつけた時には既に、
悠理は武藤君と共に短い人生を終えていた。
その死に様を見れば何があったのかは容易に想像できる。
二人は最期まで必死に生き抜いたのだろう。
互いに守り合いながら戦場に散ったのが分かってしまう。
重なり合う二人の遺体は、
どこか誇らしげに見えたからだ。
だが、だからと言って妹の死を目撃して冷静ではいられるわけではない。
残酷としか言えない結末を、
涙を流しながら見つめるしかなかったからだ。
「…悠理ぃぃ…っ。」
力尽きた妹の遺体に歩み寄っていく。
武藤君の体に重なり合う悠理の表情は不思議と幸せそうに見えた。
「武藤君…。きみは…きみは本当に…最期まで悠理を守ってくれたのだな。」
最後まで妹を想い続けた武藤君の心を感じ取り。
涙を拭ってルーンを強く握り締めることにした。
「悠理…武藤君。安らかに眠ってくれ…。」
二人に黙祷を捧げてから背中を向ける。
もはや選ぶべき選択肢はないだろう。
この状況を見て選択の余地などあるはずがない!
「…生き残るべきなのかもしれない。俺は逃げて生き残るべきなのだろう。」
それは分かっているのだが、
感情がその選択を拒絶してしまう。
理性や思考を押さえ込むほどの怒りが、
俺の心を支配していたからだ。
「アストリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
力尽きた妹の死を見てアストリア軍を見逃せるほど。
俺は冷静な人間にはなれなかった。
「許しはしないっ!!!もはやこれは戦争ではないっ!復讐だっ!!」
妹の仇をとる!
ただその憎悪だけが俺の心を埋め尽くしていく。
「すまない、悠理。俺は…お前達を犠牲にしてまで、生き残りたくはないっ。」
殺された妹を見て逃げ出すくらいならば、
いっそ死んだほうがましだ!!
「この命が尽き果てるまで!戦い続けてみせる!!」
大声で宣言した俺は全力と長剣を構えた。
そしてアストリア軍に向かって駆け出す。
「近藤悠理の名にかけて!!俺も最期まで戦い抜いてみせるっ!!」
妹への想いを胸に抱いて、
単独でアストリア軍へと立ち向かう。
そして。
この命が尽き果てる瞬間までアストリア軍に挑み続ける!
「妹の痛みと苦しみを味わえっ!!!」
長剣を手に戦場を駆け続ける。
そして迫り来るアストリア軍を次々と蹴散らしながら全力で戦場を走り続けた。
「邪魔だぁぁぁぁっ!!!!!」
傷だらけの体と限られた魔力。
それでも必死に戦い抜く。
「一人として見逃しはしないっ!!!」
目に付く兵士達を次々と殺していく。
そうして敵陣へと攻め込んでいくのだが。
俺の想いも長くは続かなかった。
最初からわかっていることだ。
たった一人で出来ることには限りがある。
例えどれほど強くても。
一人で出来ることには限りがある。
軍を統べる俺と言えども。
その現実は変わらない。
…いや、変えられない。
必死に戦い続ける俺にも確実に終わりが訪れてしまうのだ。
「ちぃっ!!」
それはホンの一瞬の油断だったと思う。
敵に囲まれたことで生まれてしまった背後の死角だ。
その一瞬の隙をついて、
一人の兵士が攻め掛かってきていた。
「終わりだーっ!!!」
大声で叫ぶ兵士の手の槍が俺を捕らえている。
「しまっ!?」
気付いた時にはすでに手遅れだったようだ。
「ぐぁぁぁぁっ!!!」
痛みを感じて叫び声を上げていた。
背後をとられた直後に兵士の槍によって突き刺されてしまったからだ。
「くっ…ぅっ…」
完全に動きを止めてしまった。
そしてその瞬間に周囲のアストリア軍が一斉に襲い掛かってきてしまう。
「がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
全方位から突き出される槍の刃が俺の体を串刺しにしていく。
数十もの刺突を受けたのだ。
その結果として。
…俺は復讐の想いを果たせないまま。
…悠理の仇をとることが出来ないまま。
最期の時を迎えてしまうことになった。
「すまない…悠理。」
謝罪の言葉を残して。
最期まで悠理を想いながら俺も戦場に散った。
…その後。
俺が率いていた部隊はおそらく壊滅しただろう。
生存者は不明だが。
多くの魔術師の遺体が戦場に転がり。
共和国軍の敗北は確定した。
俺と悠理。
武藤慎吾君。
雨宮奈津や尾形久志。
この戦場に残った者達は全滅。
それがこの戦いの『結末』だった。




