私に出来ること
《サイド:常盤沙織》
「どうかしたの?」
…え?
「あ、う…ううん。ちょっと、ね。」
翔子に心配されてしまいました。
…ですが。
この気持ちをどう伝えればいいでしょうか?
特別何かがあるというわけではないのです。
ただ、少しだけ悩んでいるのは確かでした。
…あ、いえ。
悩みではないですね。
迷いというべきでしょうか。
このまま私も翔子と一緒に行くかどうか?という部分で少し迷ってしまったのです。
もちろん一緒に行動することに不満はありません。
むしろ、病み上がりの翔子の支えになりたいと思っています。
ですが、本当にそれでいいのでしょうか?
結果は敗北でしたけれど、
翔子は天城君と全力で戦っています。
そして北条君は今日一日を天城君と共に行動しています。
ですが、私は違います。
私は天城君と何の接点もありません。
少なくとも理事長に報告すべきことは何もないのです。
だから、考えてしまいました。
天城君と関わりを持っていない私に話さなければいけないことは何もない、と。
ですが翔子と北条君の話はそれなりに時間がかかると思います。
…だとすれば。
その報告が終わるまでの間。
私は何も出来ることがありません。
ただ黙って話を聞いているだけの傍観者でしかないのです。
その扱いが嫌だとか、そういうことではないのですが、
もっと他に出来ることがあるのではないかと思うのです。
…今の私に出来ること。
もしくは今の私にしかできないこと。
それはちゃんとあると思うのです。
…そう、そうよね。
私が出来ること。
私にしか出来ないこと。
それに気づけたことで、
二人とは別行動をする事にしました。
「ごめんなさい。理事長室に向かうのなら私は用がないからやめておくわ。一応、他にもやりたい事があるから」
できるだけ丁寧に断ってから、
二人と離れることにしました。
「ごめんね、翔子。」
「あ、ううん。沙織も忙しいだろうし、またあとでお話ししよ。」
「ええ、またあとでね。」
見送ってくれる翔子に微笑みを返してから、
北条君にも会釈をして二人から離れることにしました。
そして学園内にいるはずの『人物』と会う為に。
目的地もわからないまま捜索を開始する事にしたのです。
…と、言っても。
探すのは良いけれど。
どこに行けばいいのかが分かりません。
どこに行けば会えるのでしょうか?
目的の人物がどこにいるのか知りません。
そもそも普段の行動を知らないのですから、
勘を働かせることもできないのです。
…どうしよう。
どこに行けばいいのでしょうか?
広すぎる学園内を適当に歩いているだけでは見つかると思えませんが、
それでも会う必要があると思うのです。
私が捜している人物。
それは翔子の敵であり、
恩人でもある天城君です。
彼を探して、ちゃんと話をしたいと思ったのです。
…ですが。
会話の目的は翔子に何をしたのかを聞くためではありません。
ただ純粋にお礼が言いたかったのです。
翔子を救ってくれた彼に『ありがとう』と伝えたかったのです。
ただその一言が言いたくて、
あてもないまま学園内をさまよっていました。
「どこに行けば会えるのかしら?」
何度呟いてみても全く見当がつきません。
当てずっぽうで動くには学園内は広すぎるのです。
何か情報があればいいのですが、
これまでに翔子から聞いた話では検定会場以外の場所では図書館にいる事が多かったそうです。
それ以外では食堂か寮のどちらからしいのですが、
まだ夕方になっていない時間帯を考えるとどちらも可能性は低いように思えます。
…とりあえずは図書館でしょうか?
噂話程度の情報を頼りに図書館に向かってみたのですが、
残念ながら今はいないようです。
知り合いの図書委員にも話を聞いて確認をとってみたのですが、
今日は見かけていないという話でした。
…困ったわね。
どこに行けばいいのでしょうか?
中庭や検定会場等々。
彼の向かいそうな場所を幾つか探してみたのですが。
どこにもいないようでした。
…今日は諦めるしかないのでしょうか?
自力で探すのを断念して、
情報を集めることから始めるべきかもしれません。
適当にさまよっているだけでは見つけられませんでしたので、
翔子の仲間である諜報部門の人達に情報を集めてもらってから捜索を再開したほうが早いかもしれません。
…出直すしかないかしら?
一旦諦めるかどうかで悩んでいると、
後回しにしていた食堂の入口付近に彼の姿が見えました。
たまたま食堂の前を通りかかっただけだったのですが。
偶然、彼の姿を捉える事が出来たのです。
…やっと見つけたわ。
足早に駆け寄ります。
本当なら直接呼びかけたいところですが、
お互い何も知らない間柄ですので下手に警戒されても困ります。
ですので、まずは近づくことを優先しました。
急いで彼の後を追いかけます。
徐々に縮まる距離はホンの数秒で10メートルを切ったと思います。
食堂から出て来た彼は図書館方面に向かっているように思えました。
どこを捜してもなかなか見付からなかったのですが、
今回は運良く合流できそうです。
…あと数メートル。
彼がどうして食堂にいたのか。
その理由は知りません。
あとで聞いた話だと、翔子との試合に備えて会場で待機し続けていために昼食を食べていなかったそうですが、
私はその事を知らなかったために食堂を探す事を考慮していませんでした。
だから最後まで気付かなかったのです。
すでに時刻は午後4時を過ぎているので、
どちらかと言えば夕食に近い時間ではありますが、
彼からすればようやくお昼を食べ終えたところだったのでしょう。
その事実を知らないまま急いで駆け寄っていくと。
私の気配に気付いたのでしょうか。
彼は静かに足を止めて、
後方から駆け寄る私に振り返ってくれたのです。




