一番の馬鹿は…
《サイド:近藤悠理》
…し、慎吾?
「ねえ…っ。ちょっと、待ってよ…っ!?」
こんなの…嘘でしょ?
無駄に元気で。
無駄にしぶとくて。
どれだけの攻撃を受けても諦めないのが、
あんたの唯一の取り柄なんでしょ!!
それなのに!
それなのに!!
どうしてこんなところで倒れちゃうのよっ!
「慎吾っ!?ねえ、慎吾ってばっ!!」
何度も呼び掛けてみたけれど。
慎吾はもう目覚めなかったわ。
私を守って。
最期まで私を想い続けてくれた慎吾の呼吸は止まってしまって。
今ではもう心臓さえも動いていないのよ。
「ねえ…嘘、でしょ…っ?」
慎吾の体から温もりが消えていく。
最期まで私を想い続けてくれた笑顔も失われて、
ただ静かに流れる血液だけが慎吾の最期を物語っているわ。
「ねえっ!?何をやってるのよ、慎吾っ!勝手に死なないでよっ!私を守るんでしょ!?そう決めたんでしょ!?だったら起きなさいよっ!!こんな所で倒れてないで…ちゃんと私を守りなさいよっ!!」
必死に訴えてみる想い。
だけど私の想いはもう…慎吾には届かないみたい。
「慎吾…やっぱりあんたは…一番の馬鹿よ。こんな私を守って死ぬなんて…ホントに、馬鹿よ…っ。」
…慎吾が死んだ。
雨宮さんに続いて、
慎吾まで命を落としてしまったのよ。
私を守る為に。
大切な人が死んでいったの。
「…こんな私が好きだなんて…。」
…ホントに。
…馬鹿よ。
「ねえ…慎吾。」
地面は冷たいでしょ?
慎吾の頭を抱えてから、
私の膝の上にそっとのせてあげたわ。
「ごめんね…。本当はもっと綺麗な所が良いんだけど…今はここで、許してね…」
謝りながら自分の服に視線を向けてみる。
慎吾を庇って切り裂かれたコートは血まみれで、
制服も大きく破けてる。
溢れ出る血はスカートにまで流れていて、
慎吾の後頭部を私の血が赤く染めてしまっているわ。
…もう、ここまでなのかな?
私自身に迫る『死』
残された時間を感じながら、
ただ静かに涙を流し続けてた。
「ごめんね、慎吾…。」
私と出会わなければ…。
私がここに来なければ…。
きっと慎吾は死ななくて済んだんだよね?
こぼれ落ちた涙をきっかけに、
とめどない想いが溢れ出てく。
…でもね。
きっと、違うわね。
一番の馬鹿は…きっと私なのよ。
「泣きたい時に泣けなくて…本当の自分を隠して強がってるだけの…意気地なしだから…。」
心を閉ざすことで。
現実から目を背けることで。
自分を騙しながら生きてきたのよ。
そんな私がただ一人だけ、
心を開いて話すことが出来たのは親友の優奈だけだったわ。
…だけどね。
それは愛情とかそういうことじゃなくて。
たぶん、助け合い…だったんだと思うの。
お互いに足りない何かがあって、
私達はお互いにその何かを埋め合っていたんだと思うのよ。
だから私と優奈の関係はね。
もしかしたら友情とも違っていたのかもしれないわ。
お互いに相手に依存して。
お互いに相手を想い合って。
お互いに相手を必要としていたの。
こういう関係を友情っていうのかな?
わからないけど。
もしかしたら違うんじゃないかな?
結局は、自分のためだから。
愛情とも友情とも違うと思うのかもしれないわ。
だけど…ね。
それでも私にとって優奈は特別な存在だったと思うのよ。
だって…だって優奈はね。
もう一人の私だと思えるから。
だから多分。
…私にとっての優奈は。
きっと。
…家族だったのよ。
生まれてきた家も育ってきた環境も違うけれど。
それでも優奈は私にとって初めて家族って思える存在だったんじゃないかな。
「ねえ、優奈…。ごめんね。」
一人で謝りながら、瞳を閉じてみる。
優奈は今どこでどうしてるのかな?
天城総魔とはちゃんと再会できたのかな?
私には分からないけれど。
生きてさえいてくれればそれで良いと思う。
「ごめん、優奈。私はもう…そっちに行けないみたい」
だから想うことにしたの。
たとえ離れた地にいる優奈には届かないとしても。
それでも私は優奈を想っていたかったの。
「…ごめんね。」
私はここまでみたい。
出来ることなら優奈に会いに行きたいけれど。
私にはもうそれだけの時間がないみたい。
…だから、ごめんね。
優奈と一緒に学園に帰るって約束したのに。
約束を守りたいのに。
なのに…もう無理なの。
止まらない涙が私の頬を伝って落ちる。
だけどこの想いを堪えようとはせずに、
ただ一心に優奈の無事を祈り続けたわ。
…ねえ、優奈。
優奈は死なないでね。
生きて幸せになってね。
そしていつか好きな人が出来て。
その人と結婚して。
もしも子供が生まれたら。
その時は…その子を大事にしてあげて欲しいな。
私みたいに…悲しい想いはさせないであげて欲しいな。
…ねえ、優奈。
ずっとずっと…大好きだよ。
優奈は私の大切な家族だから。
優奈と出会えて本当に幸せだったと思えるの。
優奈が傍にいてくれたから。
だから私はもう一度だけ。
人を信じてみようと思えたの。
優奈がいてくれたから。
私はもう一度笑うことが出来たの。
それが私の正直な気持ちなの。
だから…ね。
優奈は幸せになってね。
私の分まで…ちゃんと幸せになってね。
「それと…ごめんね、お兄ちゃん。」
せっかく仲直り出来たのに。
やっと…家族と分かり合えるって思ったのに。
「結局…上手く行かないんだね…。」
想いを込めながら。
遠くで戦い続けているお兄ちゃんに視線を向けてみる。
『近藤家の落ちこぼれ』
その言葉の呪縛からようやく抜け出す希望を感じたけれど。
呪縛から逃れる前に…私の死は迫っているのよ。
「ねえ、お兄ちゃん…。」
お兄ちゃんは生き残れるよね?
…だって。
私と違って、お兄ちゃんは強いから。
だからきっと。
お兄ちゃんは逃げ切れると思う。
「だから…ね。もしも私が死んでも…足を止めずに…お兄ちゃんは…逃げてね…。」
今も戦い続けるお兄ちゃんに願いを込めてから。
最後に家族を想うことにしたの。
…お父さん、お母さん。
私ね。
頑張ったんだよ?
…結局、最後は何の役にもたたなかったけれど。
それでもね。
一生懸命…頑張ったんだよ。
…みんなを守りたくて。
…お兄ちゃんを守りたくて。
必死に頑張ったんだよ。
…ねえ、お祖父ちゃん。
私は近藤家にとって最後まで役立たずだったのかな?
…ねえ?
お父さん、お母さん。
私は最期まで近藤家の落ちこぼれだったのかな?
私が伝えたい想い。
それは家族には届かない。
だけどそれでも…それでも問い続けてみる。
…ねえ?
本当に私はいらない子だったの?
返事のない問い掛け。
その切ない想いを心に抱きながら。
最期の時を受け入れることにしたわ。
「ここで私が死んだら…。誰か泣いてくれるかな…?」
それが私の最期の言葉だったと思う。
孤独に生きてきた私の最期の言葉だったのよ。
…ねえ、慎吾。
色々とあったけどね。
あんたみたいな馬鹿がいてくれて嬉しかった。
…だから、ね。
最後の力を振り絞って、
慎吾と唇を重ね合わせたの。
『おやすみ…慎吾』




