判断力
《サイド:武藤慎吾》
…どうなのかな?
悠理は近藤家の落ちこぼれだったのかな?
今までに何度か口にしていたように思うけれど。
その辺りの事情を僕はまだ何も知らない。
それでも僕は悠理の瞳に孤独を感じ取っていたし。
その孤独から悠理を救いたいと願っていたんだ。
…それが。
…それこそが。
僕が『悠理を想う理由』なのかもしれない。
「…僕は…ね。悠理を守りたい…って、思ったんだ…。」
その気持ちは今も変わらないよ。
「悠理にとっては…迷惑だったかもしれない。だけど…だけど僕は、きみを好きになったんだ。だから僕は…きみを守りたい。そう…想えたんだ。」
それが全てなんだ。
それ以上の理由なんて何もないし…いらない。
だから僕は幸せを感じて、
笑顔を浮かべることができているんだ。
「…後悔なんてしてないよ。僕は僕に出来ることを精一杯やったんだ。僕は…悠理を守りたいと願って…最期まで戦えた。それだけで…十分なんだ。」
本当に…それだけで十分なんだよ。
悠理のために頑張れたから。
それだけで満足してるんだ。
「悠理と出逢えて…本当によかった…。」
死ぬのは素直に怖いと思う。
だけどね。
悠理のためなら僕は何度でも戦える。
例え行き着く結果が死だとしても。
悠理のためなら後悔はないんだ。
「これで…良いんだよ。」
体から徐々に力が失われていくのがわかる。
流れる血が。
僕の命を流し去ろうとしているみたいだ。
…だけど、それでも。
…それでも僕は。
最期まで悠理を想い続けていようと思った。
「悠理…。きみは…きみが思う以上に素晴らしい女性なんだ…。」
それだけは自信を持って言えるんだよ。
「悠理の力は決して『才能』なんかじゃない。その力は…きみが必死に手に入れた『実力』なんだ。僕は…そう思ってる。」
才能なんていう言葉じゃ言い表せない実力。
それこそがこの戦いで見せた『判断力』だと思うんだ。
…だけど。
その実力は魔術師としては決して価値が高いとは言い切れないのかもしれない。
判断力の優劣が魔術師としての能力に直結することはないから、
魔術師としての実力は決して高くはないのかもしれない。
…でもね。
総合的な実力は魔術の技術だけで決まるものじゃないはずだ。
現に悠理は試合を勝ち上がることが出来ている。
そして陰陽師との戦いを勝利に導くことが出来ているんだ。
それは魔術師としてではない悠理個人の実力だよね?
家族から疎外されたせいで。
孤独に生きてきたせいで。
居場所を失ってしまったこと。
誰にも助けを求められずに。
常に回りの目を気にしながら。
必死に心を守ろうとしてきた悠理の自己防衛能力。
それが悠理の実力なんだよ。
持って生まれた才能なんかじゃないんだ。
育った家庭環境の中で、
生き抜く為に身につけた孤独と戦う力だ。
家族の気持ちや行動を事前に察して、
傷だらけの心を必死に守る為に身につけた心の壁。
それは絶対に才能だなんて言えないと思う。
悠理がもっと幸せな生活を過ごしていれば、
身につける必要のなかった力だからだ。
だけど。
悠理は生き抜く為に。
心を守る為に。
悲しみに満ちた力を身につけてしまった。
才能なんかじゃない。
実力という名の失望。
それが悠理の力の正体なんじゃないかな?
それを。
その事実を。
僕は感じていたんだ。
悠理のことを何も知らなくても。
悠理の瞳を見ることで気付くことができた。
悠理の瞳に宿る孤独が。
悠理に力をもたらしていると気付けたんだ。
だから僕は最期まで悠理を想うよ。
孤独に生きる悠理を守りたいと願うからね。
「僕は悠理を守りたい。その気持ちはずっと…変わらない。だから…だから悠理。これだけは…言わせてくれないかな…。」
僕はもうすぐ死んでしまうから。
だからその前に。
もう一度だけ想いを伝えたいと思ったんだ。
「悠理…。僕はきみが好きだ。きみと出会えたことが、僕にとっての幸せだったと思う。その『想い』だけは…決して変わらない。僕は…僕はきみに逢えて、本当に良かった…。」
ただ、それだけは伝えておきたかったんだ。
「ありがとう、悠理。僕は…きみに逢えて、本当に…幸せだったんだ。」
心の底から人を愛せたこと。
その想いを伝え終えた僕は口を閉ざした。
…たぶんこれが。
僕の最期の言葉だったんじゃないかな?
僕は僕の想いの全てを打ち明けてから。
悠理を守って。
生涯を終えたんだ。




