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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
971/1068

生きる価値

《サイド:近藤悠理》



…どうしてっ!?



どうして雨宮さんなの!?



私のせいなの?


私が余計なことをしたから?



…だから。



だから雨宮さんが死んでしまったの?



後悔と絶望が心の中を渦巻く。


私の心は雨宮さんに対する懺悔ざんげの気持ちで溢れていたのよ。



自分への嫌悪と雨宮さんへの謝罪。



私の行動によって雨宮さんを死なせてしまった後悔の気持ちが私の心を落ち込ませてた。



…全部!



何もかも私のせいなのよっ!



自分自身への激しい怒りが止まらない。



「もう、嫌っ!!」



止まらない自己嫌悪のせいで、

私は死を望んでる自分がいることに気付いたわ。



「どうしてなのよっ!」



私のせいで雨宮さんが死んだのに!


それなのにどうして私はまだ生きているのよ!!



…どうして。



雨宮さんを犠牲にした私が生き続けているの?



その事実が嫌だった。


認めたくなかった。



何の役にも立たない私を守る為に雨宮さんが死んだのよ!?



何の役にも立たない私のせいで!


雨宮さんがっ!!



「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」



悔やんでも悔やみきれない想い。


ただただ後悔だけが募り募って泣き叫んでた。



…今なら分かる気がするわ。



近藤家の落ちこぼれ。



その言葉が心によぎってしまったのよ。



結局、私は最後まで落ちこぼれの役立たずだったの。



そんなふうに思ってしまったのよ。



だから私は私自身の存在を否定することにしたの。



…私がいなければ!!



私さえいなければ、

雨宮さんは死なずに済んだはずなの!



「私さえ…いなければ…。」



深く深い絶望が、

私の心を黒く黒く塗り潰していく。



自分自身に対する憎悪が膨らんでしまったから。


自分だけが生きていることに対して怒りを感じてしまったのよ。



もしも誰かが死ななければいけないのなら。


もしも誰かが犠牲にならないと生き残れないのなら。



…死ぬべきなのは。



「私なのよっ!」



負の連鎖に沈み込んでしまったことで、

無意識のうちに足を止めていたわ。



「悠理っ!?」



突然立ち止まった私に驚く慎吾に、

小さな声で話し掛けておく。



「あんたは逃げなさい。だけど、私は最後まで戦うわ!!」



はっきりと告げてから、

再び追っ手へと攻め掛かったのよ。



「ファイアー・ボール!!!」



両手の間に生まれる炎。



私にできるのはこれだけだから、

炎の球を生み出して追っ手の兵士達へと放つことにしたのよ。



「もう誰も死なせないわっ!!」



放たれた炎の球は追撃部隊に直撃して数名の命を奪ったようね。



だけど、それだけなのよ。



それだけで追っ手は全滅しないから、

戦いはまだまだ続いてしまうみたい。



魔術の範囲外にいて被害を免れた兵士達が襲い掛かってくるの。



「死ねぇぇぇぇっ!!!」



剣を振りかざす兵士達だけど。


私は必死に向き合いながら魔術の詠唱を続けたわ。



「一人じゃ死なないわ!あんた達もここで死ぬのよっ!」



もう一度、炎の球を生み出してみる。



「ファイアー・ボール!!!」



何とか詠唱は間に合ったけれど。


兵士達は炎を恐れずに斬りかかってくる。



「死ねえええええっ!!」


「うるさいっ!!だったら私と一緒に死になさいっ!」



私が放つ炎の球と兵士達が手に持つ剣。


お互いがお互いに相手に狙いを定めてた。



だけど射程距離の差で、

私の炎は剣が迫る前に兵士の体に着弾したわ。


そしてそのまま一気に燃え上がったのよ。



直撃を受けた数名の兵士がまた命を落としたようね。



…だけど。



「「「死ねぇっ!!!」」」



被害を逃れた残りの兵士達が私に刃を突き立てようとして襲い掛かってきていたわ。



目の前に迫る凶器。


冷たい刃が私に届く寸前に。



「…させるかっ!」



私達の間に慎吾が飛び出してきて、

私への攻撃を受け止めてくれたのよ。



「悠理は死なせないっ!!」



いつの間に手に入れたのか知らないけれど。


新たにもう一本の剣を拾っていたみたいね。


2本の剣でそれぞれに兵士達の攻撃を受け止めていたわ。



…おお~!



なかなかやるじゃない!!



なにげに手が震えてるけれど。


その辺りは見逃してあげるわ。



とりあえずは慎吾が稼いでくれた一瞬の隙をついて3度目の炎を放つことにしたのよ。



「ファイアー・ボール!!!」



至近距離から放つ炎の球。



火柱となって燃える炎の直撃を受けて、

生き残っていた兵士達も体を焼かれて崩れ落ちていったわ。



「「「ぐああああああっ!!!!」」」



今までで一番の成果かもしれないわね。


10名近い兵士達の焼け焦げた匂いが広がる戦場。



ひとまず私達は追っ手を撃退することに成功したのよ。



だけど慎吾は不満があるみたい。



両肩を激しく上下させながら、

何度も深呼吸を繰り返してから苛立ち気味に私に振り返ったのよ。



「何をやってるんだ、悠理っ!!!死ぬつもりなのかっ!?」



…はぁ?


…死ぬつもり?



それはちょっと違うわね。



怒りをあらわにして問い掛けてくる慎吾だけど。


私は冷静に答えてあげることにしたわ。



「相変わらず馬鹿ね…。見れば分かるでしょ?誰かが犠牲にならないと逃げ切れないのよ。」



雨宮さんが命懸けで私とお兄ちゃんを守ったように。


私も退路を確保しようとしただけなのよ。



「私が敵を足止めしてあげるから、あんたはさっさと逃げなさい。」



慎吾を一人逃がしても、

あまり意味はないかもしれないけど。


全滅するよりはまだましでしょ?



私はそう思うんだけど。


どうも慎吾は違うみたいね。



「違うだろっ!?そうじゃないだろ!?馬鹿はお前だ、悠理っ!!どうして分からないんだ!?みんな…みんな悠理を守る為に戦ってるんだ!!なのにどうして…っ!どうして、その命を無駄にしようとするんだ!?」



…ああ、もうっ!



うるさいわねっ!


そんなことは分かってるわよ!!



でも…!


だけど…っ!!



何の役にも立たない私が生き残るよりも、

他のみんなが生き残ったほうが良いに決まってるじゃない!!



「私だって死にたくないわよっ!だけど、足でまといで役立たずの私がいればみんなが苦しい思いをするだけなのよっ!!」



死にたくなんてないわ!



優奈に逢いたいし。


先輩達とも会いたいって思うの。



だけどね。



私がいるせいで。


お兄ちゃんも雨宮さんも苦しい思いをしているのよ。



お兄ちゃんだけなら逃げられるはずなの。


雨宮さんだって逃げ切れたはずなの。



だけど私がいるせいでお兄ちゃんは足止め状態だし。


雨宮さんまで死んでしまったわ。



「私がいないほうが、お兄ちゃん達は良いに決まってるでしょっ!!」



胸の内の想いをさらけ出して叫んでみた。


そんな私の頬を『パシッ!!』と、慎吾が叩いたのよ。



「違うっ!そうじゃないだろっ!悠理は…。悠理は役立たずなんかじゃないっ!!」



…はあ?



何が、違うって言うのよ。



「どうして自分を信じないんだ!?どうして自分をもっと大事にしないんだ!?悠理にはちゃんと生きる価値があるんだ!!」



…生きる価値?



何よ、それ?



そんなの誰が決めたっていうのよ!?



「あんたに何が分かるって言うのっ!?お父さんやお母さんにまで『生まれてこなければ良かったのに』って、そんなふうに言われてきた私の何が分かるっていうのよっ!?」


「え?…な、ぅ、ぁ…っ?」



…ほら。



やっぱり何も言えないじゃない?



慎吾が何を言おうとも、

私の価値はその程度なのよ。



「私は落ちこぼれなのよ。生きてるだけで足手まといになるだけの存在なの。」



それが現実なのよ。


そんなふうに呟いた私を見て、

慎吾は悔しそうな表情で唇を噛み締めてた。



きっと、必死に言葉を考えてるんでしょうね。



だけど何を言われたとしても私の考えは変わらないわ。



「私の命で誰かが救えるのなら、私はそれで満足なのよ。」



その相手が慎吾っていうのは微妙だけどね。



最終的にお兄ちゃんが助かるのなら、

それで良いと思えるのよ。



「お兄ちゃんが逃げる時間を稼ぐこと。それくらいなら役立たずの私にだって出来るのよ!」


「ち、違う!悠理は役立たずなんかじゃない!僕は知ってる!悠理は僕なんかよりもずっとずっと強いんだ!!悠理のおかげで陰陽師の部隊は全滅した!その事実を僕は認めてるんだ!!」



…ああ、陰陽師軍ね。



確かに陰陽師軍は敗走したわ。



だけど、それが何なの?


その結果が今でしょ?



それじゃあ意味がないのよっ!!


それだけじゃ足りないの!!



「一度勝てたって意味がないわっ!現に今もみんな殺されてるのよっ!?雨宮さんだって…。私のせいで…私のせいで死んだのよっ!!」



私のせいで死んでしまったのよ!



そんなふうに大声で泣き叫ぶことしかできなかったわ。



だから、かな。



私の心の絶望を感じとったのか、

慎吾も泣き出しそうな表情を見せてた。



「ああ…そうだね、悠理。確かに悠理の言う通りなのかもしれない。雨宮さんは悠理を守って亡くなった。そして今もみんな殺されてる。それは事実だ。だけど…だけどそれでも僕は悠理に生きていてほしいんだ!」



何の為に?なんて。


聞くだけ時間の無駄よね。



慎吾の説得が終わる前に。


新たな追っ手が迫ってきたからよ。



「魔術師がいたぞーっ!!!」


「こっちだっ!!」



新たに近付いて来る撃部隊の数は20名くらいかな?


だけど実力の低い私と慎吾にとっては恐れるべき数だと思う。



「くそっ!!」



兵士達に振り返る慎吾は両手に剣を構えて兵士達に立ちはだかってる。



「悠理は死なせない!!」



決して得意じゃないはずの剣を構えながら、

慎吾は魔術の詠唱を始めたのよ。



そして。


先頭を走る兵士に狙いを定めて魔術を発動させていたわ。



「ウインド・クラッシュ!!」



放たれたのは小さな風の爆弾ね。



最も簡単な風系初級魔術だから私でも使える魔術なんだけど。


最弱の慎吾ならこれが精一杯だと思うわ。



そして風の爆弾が先頭を走る兵士と接触した瞬間に。


『バシュッ!!!』と風の爆弾が弾けて、

迫り来るアストリア軍の一部を後方へと吹き飛ばしたのよ。



「「「っづぁぁっ!?」」」



地面を転がる兵士達。



…だけど、それだけなの。



魔術の威力が低すぎて、

鎧を着込んでいる兵士達に致命傷を与えるには至らないわ。



今回は一瞬の足止めだけで終わったけれど。


それでも慎吾は諦めずに、

両手に構えた剣で応戦に出たのよ。



「悠理は死なせないっ!!」



気合いを込めて振り回す2本の剣。



いつの間に二刀流になったのか知らないけれど。


剣の扱いに関して何の知識もない慎吾の一撃は硬い金属音を鳴り響かせただけで、

兵士達にあっさりと受け止められてしまっていたわ。



さすがに…ね。



相手は陰陽師じゃなくて、

しっかりと訓練を詰んだ正規兵なのよ。



能力戦を考慮していた陰陽師とは剣術の『格』が違うわ。



「ガキが調子にのるなっ…!」



別の角度から迫り来る兵士の一撃が慎吾の体に狙いを定めてる。



「くっ…!!」



両手が塞がれて身動きの取れない慎吾に剣の刃が届く直前に。



「ファイアー・ボール!!!」



ギリギリ私の詠唱は間に合ったようね。



両手に現れる炎の球を、

今回は迷わずに慎吾に向けて放ったわ。



「我慢しなさい!!」



慎吾の謎耐性を信じて放った炎の球は、

狙い通りに慎吾の体に着弾して激しい火柱を巻き起こしたのよ。



そしてそのまま地面から上空に向かって伸びる火柱。


その熱は鎧を着込んでいても防げないはず。



「うあああああっ!!」


「な、仲間を巻き込んで…っ!?」


「そんな、馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



慎吾を中心として燃え上がる炎。



その攻撃範囲に巻き込まれて、

数名の兵士達が命を落としたようね。



…だけど。



「ありがとう、悠理!!助かった!」



慎吾だけは炎の中から飛び出してきて、

前方の兵士達に斬り掛かっていったのよ。



…う~ん。



何で効かないの?


いまだに意味が分からないんだけど?



一応、予想通りではあるんだけどね。


とりあえず慎吾は無事みたい。



2本の剣をデタラメに振り回して、

負傷して動きを止めた兵士達に止めを刺してる。



「「「ぐあああああっ!!!」」」



慎吾の剣が何人かの兵士を斬り殺したわ。


そのおかげで20人ほどいた兵士達の3分の1くらいまで死亡したみたいなんだけど。


それでもまだまだ全滅には程遠いわね。



「「「ガキ共を殺せーっ!!!」」」



叫ぶ兵士達が私達を見逃してくれるようには思えない。



だったら戦い続けるしかないわよね?



次々と慎吾に迫る兵士達に狙いを定めて、

急いで援護の魔術を放ってみる。



「ファイアー・ボール!!!」



再び両手に現れる炎。


私にとっては自信を持って使える数少ない魔術なのよ。



「私の前で仲間に手を出すんじゃないわよっ!!!」



魔術に想いを込めて、

ひたすら炎を放ち続ける。



そうして放った炎は更に数名の兵士達の命を奪ったけれど。


それだけで慎吾への攻撃の全てを止めることは出来なかったみたい。



『ズバッ!ズバッ!!!』



斬撃音が聞こえて。



『ザシュッ!!』



嫌な音に気付いて。


慌てて音が聞こえた方向へ視線を向けてみると。



「ぐっ…くぅ…!?」



慎吾が苦しそうな表情で地面にしゃがみ込んでいたのよ。



…ちょっ!?



…ね、ねえ?


…冗談でしょ?



左腕と右足から溢れ出る血。



剣を手放して苦しむ慎吾の姿を見た瞬間に。


私の顔から血の気が引いたわ。



…嘘、よね?



私を守る為に必死に戦ってた慎吾が苦しんでる。


その理由は聞かなくてもすぐにわかるわ。



…だって。



痛みを必死に堪える慎吾の左腕が…なくなっていたからよ。



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