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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
969/1056

こうするしかないから

《サイド:近藤悠理》



…そんなっ!


…どうしてなの!?



ここまで一生懸命に戦ったのに!!


ちゃんと最後まで戦い抜いたのに!!



結局…戦いは終わらないの?



背後から迫り来るアストリア軍が、

逃げ遅れた魔術師達を次々と殺していく。



せっかく陰陽師軍を追い払ったのに!



何故か今は共和国軍が追われる立場になってしまっているのよ。



「うあああああああっ!!!」


「誰か…っ!助け…!うわああっ!!!!!」



逃げ遅れた魔術師達が次々と犠牲になっていく。



そんな状況の中で。


お兄ちゃん達は背後を振り返ろうとはせずに全力で逃亡を続けてた。



「振り返るな!全力で走れ!!」



必死に逃亡を続けるお兄ちゃんだけど。


このまま逃げ切れるとは思えない。



体中に受けた怪我と消耗した魔力。


そして極度の緊張のせい…なのかな?



普段よりも動きが遅いのよ。



だから…かどうかは分からないけれど。


全力で駆け寄ってくるアストリア軍を振り切れないの。



「ちっ!さすがに逃走も厳しいか…っ。」



あらゆる悪状況によって残存していた魔術師達もほとんどが尊い犠牲になってしまってる。



そしてアストリア軍の攻撃の手は私達にも届こうとしていたわ。



「隊長!!撤退は無理ですっ!逃げ切れませんっ!!」



…そうよね。



どう考えても追っ手を振り切れないわよね。



体力に差があるというのも事実だけど。


それ以前に今回のアストリア軍には騎馬隊が編成されていたのが一番大きな問題だと思うの。



機動力に差がありすぎるのよ。



砦に布陣していた軍や陰陽師軍とは違って、

王都からの遠征部隊は機動力重視の部隊編成みたい。



どう足掻いても徒歩で逃げ切るのは不可能に思えたわ。



「敵軍の騎馬隊が広範囲に散開して退路を塞いでいるようです!」



そのうえで歩兵部隊も後方から迫ってきているのよ。



お兄ちゃんに状況を伝える雨宮さんの報告を聞いた私は、

もうすでに生き残れない可能性を実感していたわ。



…もう、ここまでなのよ。



せっかく勝てたのに!


少しは役に立てると思ったのに!



結局…私達は逃げることになってしまったのよ。



「…お兄ちゃん。」


「どうした、悠理?」



手を繋いでくれてるお兄ちゃんに呼び掛けてみるとね。


お兄ちゃんは心配そうな視線を向けて訊ねてくれたわ。



だけど…ね。



こんな時は何て言えばいいのかな?



…普段、話をする機会がなかったから。



どう接すれば良いのかが分からなかったわ。


何を話せば良いのかが分からなかったの。



素直に怖いって言えば良いのかな?


それとも死にたくないって言えば良いのかな?



…あるいは。



仕方ないね…って言うべきなのかな?



よく分からない。



だけどね。



一つだけ思い浮かぶことがあったの。


だからその言葉を伝えてみようと思ったのよ。



「ねえ…お兄ちゃん。私ね、お兄ちゃんと仲直り出来て嬉しかったよ。それだけでね。ここに来て良かったって思えるの。」


「…な、何を馬鹿なことを!まだ終わったわけじゃない!!今は逃げることを考えるんだ!!」



私の気持ちを聞いて困ったような表情を見せるお兄ちゃんだけど。


それでも私は精一杯の笑顔を見せようと思ったわ。



上手く言葉には出来ないけどね。



少しでも多く。


1秒でも長く。


私の笑顔を覚えていて欲しいから。


だから笑顔でいたいと思ったの。



「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは…生きてね。」


「な…っ!?」



突然のお願いに戸惑う様子のお兄ちゃん。



その一瞬の隙に。


私はお兄ちゃんの手を振り払ったのよ。



そしてたった一人で、

背後から迫るアストリア軍へと駆け出したの。



「ごめんね…お兄ちゃん。」


「悠理ぃぃっ!!!!」



背後で叫ぶお兄ちゃんの声を無視して、

アストリア軍の部隊に立ち向かう。



…って言っても。



別に死にたいわけじゃないわよ?



だけど、他に何も思いつかないから。


こうするしかないから。


だから私は立ち止まることを選んだの。



「ごめんね、お兄ちゃん。」



私には何も出来ない。


せいぜい謝ることしか出来ないと思う。



でもね?



私に出来ることはこんなことだけだから。


こんなことしか出来ないから。



少しでも時間を稼ぐために。


魔術を詠唱することにしたのよ。



魔力はあまり多くないけどね。


それでも私は魔力をほとんど消費してないからまだ戦えるわ。



「…逃げてね。お兄ちゃん。」



必死の想いで詠唱を行う私の手に炎の球が現れる。



「これが私の精一杯だけどっ!ファイアー・ボール!!!」



両手から飛び出す炎の球が追っ手の一部に激突してた。



一気に燃え上がる火柱。



その影響で一時的に足を止めてくれた騎馬隊だけど。


私の抵抗はホンの一瞬の時間稼ぎでしかなかったようね。



「突き抜けろーっ!!!」



弱まっていく炎を突き抜けた騎馬隊が襲い掛かってきたのよ。



「ごめんね…お兄ちゃん。」



死を覚悟したわ。


今更、詠唱なんて間に合わないからよ。



仮に間に合ってもアストリア軍を倒すのは難しいと思う。



そう思ったから逃げないことにしたの。



例え数秒間でもいいの。



時間を稼げればそれで良いと思ってしまったから、

逃げようとも抵抗しようとも思わなかったわ。



「死ねぇぇぇぇっ!!!」



迫るアストリア軍。


その手にある凶器が私に襲い掛かる。



…くっ!!



痛みを堪えようとして瞳を閉じる。



でもね?


その瞬間に。



「フレア・アロー!!!」



数多くの炎の矢が現れて、

私に接近していた兵士達に襲い掛かったみたい。



「「「「「ぐあああああっ!!!!」」」」」



悲鳴を上げながら苦しむ兵士達の隙をついて、

お兄ちゃんが救出にきてくれたのよ。



「悠理っ!!」


「お兄…ちゃん?」


「無茶をするな、悠理!お前が死んだら意味がないんだ!!!」



わざわざ戻ってきてまで私を助けてくれたお兄ちゃんだけど。


すでに逃げられる状況じゃないみたい。



「殺せーーーーっ!!!!!!」



雄叫びを上げながら迫り来るアストリア軍の勢いが凄まじくて逃亡はもう間に合わなかったのよ。



「ちぃっ!!」



ルーンを構えたお兄ちゃんがアストリア軍を迎撃してくれてる。



私を守るために戦ってくれているの。


そうして必死の抵抗を試みている間に。



「隊長っ!援護します!」



雨宮さんも駆けつけてくれたのよ。



「すぐに撤退を!!コールド・アロー!!!!」



雨宮さんの手から放たれる氷の矢が、

お兄ちゃんを襲う兵士達を捉えてた。


そして容赦なく次々と兵士達の体に突き刺さったのよ。



周囲の兵士達が全滅するのを確認してから、

雨宮さんが私を救出してくれたわ。



そして強引に背中を押し出したの。



「走りなさいっ!!!」


「…で、でもっ!?」


「いいから早くっ!!」



まるで命令するかのように、

強く言い聞かせようとする雨宮さんに、

私が返事を返すよりも早く。



「逃げるんだ、悠理っ!!!」



慎吾が私の手を掴み取ってた。



「行くぞっ!!」



力付くで私を連れ去ろうとする慎吾。


その後ろ姿を見送った雨宮さんは、

お兄ちゃんの救出を急いでた。



「隊長っ!!!」




お兄ちゃんを助けようとして魔術を詠唱する雨宮さんだけど。


その魔術が発動する前に。



『ザシュッ!!!!』



兵士達の凶器が雨宮さんの体を貫いてしまったのよ。



「う…あぁぁっ!!」



苦痛によって表情を歪める雨宮さんが倒れてしまったの。



「雨宮っ!?」



大声で叫ぶお兄ちゃんだけど。


今はまだ騎馬隊との戦闘が続いていて、

雨宮さんの救助に向かう余裕がないみたい。



「雨宮ぁぁぁぁっ!!!!!」



叫ぶことしか出来ないお兄ちゃん。



それでも雨宮さんは必死に魔術の詠唱を続けていたわ。



「…隊長…は、逃げて…ください…っ。」



必死に願いを込めた直後に。


雨宮さんの体は次々と騎馬隊の槍に突き刺されていったのよ。



「ああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!」



戦場に響き渡る悲鳴。



「…雨宮さんっ!!」



私も必死に叫んでみたけれど。


たぶん私の声は聞こえてなかったと思う。



周りの出来事なんて全て無視した雨宮さんは、

薄れる意識の中でまっすぐにお兄ちゃんを見つめたまま最期の魔術を放ったのよ。



「…ホーリー…!!!」



囁くように呟いた雨宮さんの手から生まれた光がお兄ちゃんに向かう。


そして周囲を取り囲む騎馬隊へと襲い掛かったの。



上空から降り注ぐのは白い雷。



「ぐあああああっ!!」



閃光の刃が騎馬隊を切り刻んで、

お兄ちゃんの周囲だけが安全地帯になってた。



「うおぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



光の雷を受けて苦しむ騎馬隊が次々と落馬していく。



その隙に後退したお兄ちゃんが雨宮さんに駆け寄ったわ。



「雨宮ぁっ!!!」



必死に叫ぶお兄ちゃんだけど。



「………。」



すでに雨宮さんの命は尽き果てていたみたい。



呼吸の止まった体。


動かない心臓。



雨宮さんはお兄ちゃんを守って、

すでにその生涯を終えていたのよ。



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