天城の名を継ぐ者
《サイド:天城総魔》
…行ったようだな。
徹と優奈の二人は無事に施設に潜入した。
その後ろ姿を確認したあとで、
即座に男から距離をとって施設の入口の前に立ち塞がる。
「立場が逆転したな。」
神剣を構えながら天使を側に配置する。
これで防衛の準備は整った。
「ここから先へは通さん。ここは俺が守り抜く。」
俺がいる限り。
誰一人として入口を通り抜けることはできない。
「俺が生きている限り、仲間を殺させはしない!!」
「ふっ。ふはははっ!!」
はっきりと宣言したことで、
俺の意志を感じ取った男が話し掛けてきた。
「魔術師とは言え、死なせるには惜しい男だな。せめて最後に名前くらいは聞いておこうか。天城の血を継ぐ者よ。お前の名は何だ?」
俺の名前か。
それくらいなら答えておくのもいいだろう。
「天城総魔。それが俺の名だ。」
「…総魔か。覚えておこう。その名と…その意志をな。」
名と意志か。
「死に行くお前にはもはや必要ないだろうが、最低限の礼儀として答えておこう。」
俺が素直に答えたことで気分をよくしたのか、
男も自らの名を名乗ってきた。
「俺の名は『阿久津信成』。この国の陰陽師を統括する者だ!」
自らの名を名乗った阿久津は、
配下の陰陽師達に集結するよう指示を出した。
「全軍、集結!!入口を包囲しろ!!」
陰陽師達を先頭にして、
次々と駆け付けるアストリア軍が俺の包囲網を強化していく。
その一連の様子を眺めながら、
前方に立つ阿久津に話し掛けてみる。
「大した数だな。」
「ああ…そうだ。魔術師という存在に対して油断は出来んからな。」
…油断できない、か。
これまでにどういった戦いを経験してきたのかは知らないが、
それほど魔術師を警戒しているということなのだろう。
立場は違うが、
その気持ちは理解できなくもない。
「警戒のしすぎ…とも思わなくはないが…。」
「警戒だと?生ぬるい考えだな。」
阿久津は即座に俺の考えを否定してきた。
「これは恐怖の証なのだ。」
…恐怖だと?
陰陽師の頂点に立ち、
アストリアの軍を統括する男の言葉とは思えない発言だった。
「たった一人の魔術師を相手に恐れるというのか?」
「当然だ!」
隠すこともなく、偽ることすらなく。
阿久津ははっきりと宣言した。
「我等は常に恐怖しているのだ。一軍を相手に戦えてしまう魔術師という存在を!!」
…なるほどな。
…そういうことか。
現に俺一人を相手に足止めを受けているわけだからな。
一撃の破壊力を考えれば恐れるのも当然だろう。
「お前達魔術師は存在自体が厄災なのだ!だからこそ生かしておくことはできん!お前にもここで死んでもらう!!」
兵士達を集めた阿久津が指示を出す。
「全軍前進っ!!内部へ潜入した魔術師もろとも…全ての敵を排除せよ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」
怒号とも言える雄叫びを上げて突撃を始めるアストリア軍。
この勢いを止めるのは難しいだろう。
死を覚悟した数千の兵士達。
その全てを防ぎ切るのは至難の技だ。
…この状況で何分耐えられるだろうか?
アストリア軍の攻勢を眺めながら、
ポケットの中に仕舞っている『翔子の手紙』に手を伸ばす。
小さな封筒に込められたのは、
たった2枚の手紙だ。
その手紙に託された翔子の想いに触れてから僅かな時間で想いを馳せる。
…すまない、翔子。
俺はお前を守れなかった。
沙織も、北条も、美由紀も守れなかった。
そして朱鷺田も三倉も愛里も死なせてしまった。
結局…俺は誰も守れないのかもしれない。
今も御堂や徹と優奈が生き残れるかどうかさえ分からない状況だ。
…だが。
だからこそ。
俺は俺に出来ることをしておきたいと思う。
…もしも誰も守れないのなら。
そもそも守る必要のない状況を作ればいいだけだ。
最期までここで戦い続けて1秒でも長く時間を稼ぐ。
そして兵器が破壊されるまでここにとどまり続ける。
それが俺にできるささやかな抵抗だ。
その役目を果たすために。
…今ここで翔子に誓おう。
お前が守ろうとしたモノを俺が守る。
それが俺に出来るせめてもの謝罪だと思うからだ。
『翔子が守りたかったモノ』
それは世界の平和ではないだろう。
それは共和国の存続でもないはずだ。
翔子が守りたかったのは。
俺であり。
仲間であり。
常盤成美だったと思う。
だからこそ。
今の俺にできることには限りがあるが、
それでも最後の願いくらいは叶えたいと思う。
翔子の望むべき結末を実現するために。
ジェノスに住む人々の為に命をかける覚悟を決める。
そして必ず戦争を終わらせる。
その為に戦い続けよう。
ただそれだけを心の中で誓う。
「この戦争を止めて見せるっ!!」
最も大切な存在となった翔子を想いながら戦争の終結を願い続ける。
「それが俺の役目だっ!!」
「ふはははっ!!やってみせるがいい!」
力強く宣言する俺の言葉を聞いていた阿久津は楽しそうに笑みを浮かべていた。
「戯言を願うのならば、成し遂げて見せるがいい!」
真っ向から俺の挑戦を受けて立つつもりのようだな。
配下の陰陽師達に次々と指示を出している。
「多少のことで兵器が損傷する心配はない!!手加減は不要だ!全力で魔術師を殲滅しろ!!」
「「「「「おおおおおおっ!!!!!」」」」」
阿久津の指示を受けて護符を構える陰陽師達。
この場に残った俺は、
たった一人で数千に及ぶアストリア軍を迎え討つことになった。




