120秒
《サイド:米倉美由紀》
ああ~っ!
もう~っ!!!
翔子がわがままを言ってる間に、
アストリア軍が接近しつつあったわ。
「敵はたった二人だ!!押さえ込めーっ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」」
…うぅっ。
一斉に迫り来るアストリア軍の勢いに恐怖を感じてしまうわ。
「もう…逃げられないわね…。」
手遅れだと感じたことで、
翔子を庇って前へと飛び出す。
「もう逃げられないわ!こうなったら一人でも多くのアストリア軍を道連れにするしかないわ!」
逃げられないのなら戦うしか選択肢がないのよ。
奇跡的に勝つ…なんて。
非現実的な可能性は考えるだけ無駄だけど。
時間さえ稼いでいれば近藤隊長の部隊が駆けつける可能性はあるはずよね?
その程度の可能性くらいは信じても良いと思うのよ。
「戦って生き延びるわよ!」
「…すみません。私のせいで理事長まで巻き込んでしまいました。」
覚悟を決めた私に翔子が謝罪してきたわ。
だけど…ね。
それは違うんじゃないかしら?
「そもそもこの戦争に巻き込んだのは私のほうだから、翔子が気にする必要なんてないわ。」
私がもっと上手く行動していれば。
あるいは私自身が奴隷となる覚悟でアストリア王国に身を捧げていれば。
北条君も翔子も助かっていたかもしれないのよ。
例えその可能性がどれほど低かったとしてもね。
翔子達を戦争に巻き込んだのは、
代表である私の失策なの。
だから謝る必要があるのは私なのよ。
「辛い思いをさせてごめんなさいね。」
「…あ、あははっ。」
私からも謝ってみると、
翔子は微笑みを返してくれたわ。
「あの…理事長。最期に一つだけお願いしても良いですか?」
…お願いね。
最期っていう部分が、
ちょっと大いに問題ありなんだけど。
私に出来ることなら断る理由なんてないわ。
「聞いてあげるから、言ってみなさい。」
アストリア軍を一掃しろとか。
一人で逃げろって言われるとちょっと無理だけどね。
「どうして欲しいの?」
願いを聞いてみるとね。
「2分だけで良いんです。」
笑顔を浮かべたままで、
ささやかな願いを告げてくれたわ。
「2分だけ時間を稼いで貰えませんか?」
…ああ、時間稼ぎね。
それも2分だけで良いなんて、
とてもささやかな願いだと思うわ。
だけど。
今の私にはちょっと苦しいかもしれないわね。
「万全な状態なら楽勝って言えるんだけど…今の私の魔力だと約束は出来ないわね。」
120秒間を耐える方法。
ただそれだけのことがとてつもなく無理難題に思えるのよ。
…でも、ね?
保護者としては翔子の頼みは実践して見せないと格好がつかないわよね。
今更な感じはあるけれど。
こんな私でも一応ね。
責任ある大人としての誇りは持っているつもりなのよ?
「結果はともかく、出来る限りの時間を稼いで見せるわ。」
最後の手段としてルーンを解除することで微かな魔力を取り戻してみる。
魔杖に込めていた魔力を取り戻したことで、
魔力の残量は9%ってところかしら?
10秒ごとに1%として90秒。
残り30秒が厳しいわね。
だけど北条君が実践してみせたように、
私の命を代償とすれば残り30秒くらいはなんとかなるかもしれないわ。
「何をするつもりかは知らないけれど。あとは私に任せなさい。」
「…はい。ありがとうございます。」
お礼を言ってから、
翔子は最期の魔術の詠唱を始めたわ。
だけどその詠唱が何なのか、
私にはわからないわね。
…いえ、逆かしら?
分からないからこそ分かることもあるのよ。
私の知らない魔術の詠唱。
それもこの場に相応しい魔術となればアレしか思い浮かばないわ。
「…北条君のあとを追うつもり?」
「そういうわけじゃないですけど…真哉だけに淋しい想いをさせられません。だから…だから私も最期まで戦います!」
…なるほどね。
あくまでも戦い続けるつもりでいる翔子の言葉を聞いて、私も笑顔になれたのよ。
だってそうでしょ?
翔子が前向きに頑張ってるのに。
私が落ち込んでいるわけにはいかないわよね?
例えどういう結果を迎えるにしても、
大人の貫禄だけは示しておかないといけないのよ。
「だったら私も最期まで付き合ってあげるわよ。」
翔子と一緒なら、
案外楽しいかも知れないしね。
覚悟を決めた私は迫り来るアストリア軍に向けて最期の抵抗を試みることにしたわ。




