慎吾の才能
《サイド:雨宮奈津》
「ちょっと!?大丈夫なのっ!?」
あまりにも無謀な戦いを繰り返す武藤君が気になって駆けつけてみたんだけれど。
武藤君は微笑みながら頷いてしまうのよ。
「全っ然…平気です…。」
…どこが?
どこをどう見ても死にかけじゃない!?
全身傷だらけで。
血まみれで。
どう見ても大丈夫じゃないわよ!
「後退して治療に専念しなさい!!」
一応、心配して言ってあげたんだけどね。
「いえ…大丈夫です。」
武藤君はふらつく体で無理に歩き出そうとしていたわ。
…いやいやいやいや。
「…あのね~?」
その気力は凄いと思うけれど。
だけどね?
誰がどう見ても平気そうには見えないのよ?
「もう下がりなさい!これ以上、無理をする必要はないわ!!」
このままだと失血で死んでしまうのよ。
そうなる前に説得を試みたんだけど。
武藤君は笑顔を浮かべたままで、
落とした剣を拾っていたわ。
「まだ…大丈夫です。慣れてますから、こういうの…。」
…は?
…何を言っているの?
これはね?
慣れてるとか。
そういう問題じゃないのよ?
瀕死なのよ?
重症なのよ?
普通ならもうね。
歩くどころか、動けない状態なのよ?
それなのに。
武藤君は剣を握り締めて、
戦い続けようとしていたわ。
「…約束したんです。必ず守るって、約束したんです!」
再び駆け出してしまったのよ。
…って!?
どうして動けるの!?
本来なら立ち上がることさえ出来ないはずなのに!?
…それなのに。
全身の痛みを無視して。
歯を食いしばって耐えながら。
その身に幾つもの陰陽術を受けながら。
足を止めようともせずに走り続けているの。
「悠理を守る!!!」
その一心だけで戦い続ける姿は一種の英雄ね。
ある意味で、ものすごく尊敬できるわ。
だけど。
気力だけでなんとかなるものじゃないのよ?
動きは確実に鈍くなってるし。
剣の勢いも明らかに低下してるわ。
このままだと戦うどころか、
集中砲火の餌食になるだけよ。
そう思ってしまったから、
改めて武藤君に駆け寄ることにしたわ。
「ったく、せめて治療くらいは受けなさい!」
言って聞かないのなら、
せめて治療だけでもするしかないわよね?
そう考えて回復魔術を詠唱してあげたのよ。
光に包まれて傷口が僅かに塞がって、
出血が収まる武藤君の体だけど。
私の魔術だと完治まではいかないわ。
せいぜい痛み止め程度よ。
それでも何もしないよりはマシだと思うけれど。
「これ以上の治療はできないわよ?」
「大丈夫です!ありがとうございます!」
治療を受けた武藤君は、
私に感謝してからすぐに戦いに戻って行ってしまったのよ。
「ちょ…っ!!」
元気すぎるでしょっ!?
治療したって言っても、
本当に応急手当程度に怪我が治っただけなのよ?
痛いものは痛いし。
水の槍によって受けた怪我はほとんどそのままなのよ?
なのに。
どうしてそんなにすぐに動けるの!?
「待ちなさい!まだっ!」
戦うには早すぎるのよ!!
もう少しまともな治療を受けるべきだと思うんだけど。
武藤君は私の制止に耳を貸すこともないまま、
陰陽師に立ち向かってしまったわ。
「僕は必ず!必ず悠理を守ってみせるんだっ!」
全力で叫びながら剣を振り回してる。
その様子を眺めていたことで、
不意に小さな疑問を感じてしまったわ。
「…どういうことなの?」
私の感じた疑問。
それは『何故』戦えるのか?ということよ。
それは『戦う理由』ではなくて、
もっと『物理的』な疑問になるわ。
陰陽術の破壊力は間違いなく即死してもおかしくないほどの威力があるはずなのよ。
はっきり言えばね。
私でさえ直撃すれば死んでしまうと思う威力なの。
それくらい強力な攻撃なのよ。
それなのに。
武藤君は陰陽術を受け続けても倒れないの。
…いいえ。
違うわね。
一時的には倒れるけれど、
致命傷には至らないというべきかしら?
その理由に戸惑う私に悠護隊長が歩み寄ってきたわ。
「おそらく…彼には耐性があるのだろう。」
「耐性…ですか?」
「単なる推測だが、陰陽術に限らず、あらゆる『属性攻撃』に対する耐性と考えるべきだろうな。」
属性に対する耐性?
悠護隊長は武藤君の異常を属性への耐性だと判断したみたい。
それは悠護隊長や私には想像も出来ないことだけれど。
おそらく武藤君は学園で行ってきた数多くの試合の経験によって、
本人でさえ気付かないうちにあらゆる属性に対しての抵抗力を身につけていたということかしら?
学園最弱という話を聞いたような気がするけれど。
今の武藤君を見ていればなんとなく理解できることもあるのよ。
おそらく試合で敗北した回数は数知れず。
その身で受けた魔術の数は星の数でしょうね。
それでも諦めずに戦い続ける彼の数々の経験が徐々に魔力を変質させて、
属性への耐性となって武藤君を守っているのかもしれないわ。
「詳細は不明だが、彼は耐性を持っている。それが倒れない理由なのだろう。」
分析する悠護隊長の意見を聞いて、
もう一度、武藤君に視線を向けてみる。
何人もの陰陽師に囲まれながら。
幾つもの術を受けながら。
それでも倒れない武藤君の姿を見ているとね。
「はぁ…。」
何故かため息を吐きたくなったのよ。
「耐性でも何でもいいけど、無茶をしすぎなのよ。」
攻撃が効きにくいっていっても、
効かないわけじゃないのよ?
現に瀕死の状況に陥ってるわけだし。
決して死なないという意味じゃないはずよね?
「私や隊長よりも前に出て戦うなんて、自殺行為もいいところだわ!!」
一歩も退かない武藤君に向かって駆け出す。
「ちょっとは大人しくしなさい!」
文句を言いながらも、
武藤君の治療を継続することにしたのよ。
「陰陽術の効果が軽減されるのは間違いないようだけど、それでも無効化出来るわけじゃないのよ!?こんなことを続けていれば、あなたが死ぬわ!!」
必死に説得して理解してもらおうと思ったんだけどね。
「死ぬつもりはありません!!」
武藤君は笑顔を崩さずに宣言してしまうのよ。




