反撃開始
《サイド:近藤悠護》
よしっ!!
ついに包囲網が崩れるぞ!!
悠理の援護によって陰陽師軍の攻撃を凌ぎ切った俺達は、
ついに陰陽師軍の最後尾にまで攻め込むことができた。
あと僅かな陰陽師を撃破できれば包囲網の一角が崩れ去る。
「包囲網を突破するぞ!!全軍、前進せよ!!!」
俺の指示によって残存する全ての共和国軍が包囲網の突破へと動き出した。
まずは遊撃部隊が包囲網を切り開く。
その後方から悠理の部隊が追随する。
最後尾を護衛部隊が守りにつく。
あとは『C』型に空いた隙間を全速力で突き抜けるだけだ。
「突き抜けるぞっ!!!!」
先頭を走る俺と武藤君が最後の陰陽師を打ち破った。
…ついに!!
共和国軍は包囲網の脱出に成功した。
「抜けたぞっ!急いで陣形を組み直す!!防衛部隊は留まって敵の進行を食い止めろ!悠理の部隊は後方に回り込めっ!俺達の部隊と共に敵の殲滅を行うぞ!!!」
即座に指示を出してから悠理の部隊と共に走り出しす。
再び包囲網を完成させようとする陰陽師軍に向けて反撃に出るためだ。
「悠理!敵の術を押さえ込め!!その隙に俺達で敵を殲滅する!」
瞬時に気持ちを切り替えて、
再び戦場へと駆け戻る。
「時間がない!!急いで決着をつけるぞ!!」
大声で叫びながら陰陽師軍へと襲い掛かった。
敵の数はまだまだ多いからな。
今の強行突破で倒れた陰陽師は、
千人にも満たないだろう。
幸い共和国軍に大きな被害はないが、
強引な突撃によってかなりの魔力を消費してしまったのは間違いない。
特に護衛部隊の消耗は大きいだろう。
今はまだ壁役として頑張ってくれているが、
その防衛力もそれほど長くは続かないはずだ。
俺が率いる遊撃部隊もすでに魔力、体力共に限界が近い。
最も魔力に余裕があると思われる悠理の部隊はそもそも攻勢に出られる戦力ではないからな。
悠理の部隊が迎撃に専念しているからこそ総崩れの危険性を回避できているのであって、
下手に布陣を変えてしまえば数で勝る陰陽師軍に飲み込まれてしまうだろう。
だからこそ。
悠理の部隊を戦力に考慮することはできない。
そして護衛部隊の時間稼ぎもあまり期待はできない。
…となれば。
俺達だけで陰陽師軍を撃退する以外に選択肢がないということだ。
「問題はそこまで魔力が持つかどうかだが…。」
俺の焦りは確かな不安として表情に現れているだろう。
指揮官としてはあるまじき失態だが、
余裕を見せられる状況ではないからな。
魔術師が抱える最大の欠点である
『魔力の総量』を誤魔かすことはできない。
陰陽師にとっては『霊力』と呼ばれる力であり。
俺達と同様に限りある力だ。
それでも陰陽師は部隊の絶対数によって欠点を補えている。
だが、共和国軍の戦力は限られていて、
現時点では援軍も期待出来ない。
残存する魔術師達に残された魔力。
それだけで陰陽師の軍を打ち破ることが出来るかどうかは分からないが、
今は戦う以外に生き残る方法はない。
包囲網を脱出しても撤退は不可能だからな。
敵の追撃を食い止められなければ全滅は必至となる。
…どうあがいても。
弱り果てた今の共和国軍に逃げながら追撃部隊を食い止める力はないだろう。
微かな戦力をかき集めて、
全力で抵抗することでしか生き残る方法はなかった。
「少しでも敵の数を減らすんだ!それが生き残る唯一の方法だ!」
必死に敵軍を押し戻そうと努力はするが、
現実という言葉は容赦なく俺達に襲い掛かってくる。
1万6千と5千の戦いだ。
部隊単位での陰陽術は悠理の活躍によって相殺出来ているが、
最前線の乱戦で放たれる陰陽術までは相殺出来ないからな。
そのせいで遊撃部隊の被害だけは押さえられていなかった。
「うあああああっ!!」
仲間の叫び声が戦場に響き渡った直後に。
すぐ側で発動した陰陽術によって、
俺の背後を守ってくれていた尾形久志が倒れ込んでしまった。
「くぅ…ぁっ…!?」
「久志っ!!!」
急いで駆け付けようとしたのだが。
その一瞬の油断が俺の身を危険にさらしてしまったのだろう。
「急々如律令!!!」
「しまった…!?」
背後から聞こえた声に気づいた瞬間に、
俺は自らの過ちに気付いた。
久志に気を取られて敵に背中を見せてしまったのだ。
動きを止めた俺に陰陽術が襲い掛かってくる。
「水神衝破!!!」
迫り来るのは水の槍だ。
もちろん水といっても生易しいものではない。
触れれば体がちぎれ飛ぶほどの高圧の水流だ。
数えきれないほどの槍が俺に狙いを定めているのが見えた。
「…くっ!?」
ルーンに力を込めて迎撃を考えるが間に合わない。
「距離が近すぎるっ!!」
至近距離で放たれた水の槍を眺めながら死を覚悟した。
「すまない…悠理…。」
妹を残して倒れることに後悔を感じながら呟いた次の瞬間に。
水の槍が体を破壊して肉を切り裂く音が耳に届いた。
…終わったな。
確実に死んだと思った…のだが。
体のどこにも痛みはなかった。
間違いなく体を抉られる音が聞こえたのに。
俺の体は切られていなかったのだ。
その異変に気づいて顔を上げた瞬間に。
俺は疑問の答えを知った。
「何故だっ!?何故、きみがっ!」
大声で叫ぶ俺の目の前には、
両手を広げて俺を庇う武藤君の背中があったのだ。




