悠理の作戦
…でもまあ。
とりあえずはここからが本番なのよね。
陰陽師軍を撃退するために頑張らないといけないんだけど。
その前に色々と思うことがあったりするわ。
…って言っても。
別に大したことじゃないんだけどね。
この戦いが始まってからずっと考えてたことがあるの。
それはまあ、陰陽師って何なの?っていうことなんだけど。
生まれて初めて見た陰陽師。
その能力と実力をずっと観察していたの。
まあ、観察って言っても離れた場所から見てるだけだから。
難しいことは何もわからないんだけどね。
だけど確かに魔術師とは違うのかもしれないわ。
そんなふうに思うけれど。
同時に魔術に近い能力だとも思ったの。
正直な感想で言えば、
陰陽師に関して私に分かることなんて何もないわ。
あくまでも沙織先輩から聞きかじった知識として知っているだけで、
それ以上に理解出来ることなんて何もないの。
だから、ずっと観察していたのよ。
何もわからないから。
陰陽師という存在をずっと観察していたの。
魔術師と陰陽師は一体、何が違うの?
その疑問を抱えながら。
ずっと観察を続けていたのよ。
だけど…ね。
今でもまだその答えは出ていないわ。
何も分からないままなのよ。
同じような能力を持っているのに。
どうして魔術師は嫌われていて。
どうして陰陽師は認められているの?
その理由が分からないの。
「何か理由があるのかな?」
一人で疑問を呟いてみる。
誰も答えを教えてはくれないけれど。
私の周りには私の指揮に従ってくれる2千人の魔術師がいてくれてる。
誰もが真剣な表情でこの戦いを生き残ろうと必死に努力してると思うわ。
そして誰もが生きていたいと願っているはずなのよ。
それなのに戦争はまだ終わらないの。
どうしてこの戦争は始まったの?
…私は何も知らない。
そして知りたいとも思わない。
沙織先輩は真実が知りたい様子だったけどね。
私の意見としてはどうでもいいって思ってる。
私にとって大事なのは、
親友の優奈を守ることだけだったから。
だから戦争の理由なんてどうでもいいのよ。
今では大切に思えるようになったお兄ちゃんを守ることも戦う理由の一つではあるけどね。
私が戦う理由はそれくらいかな?
魔術師と陰陽師の違いは気になるけれど。
とりあえず難しいことを考えようなんて思ってないわ。
『守りたいと思える人がいる』
その気持ちさえあれば私は戦えたからよ。
だから私は必死に考えたの。
今回の『作戦』を…ね。
生き残る為に。
生きて大切な人と再会する為に。
私は自分に出来ることを必死に考えてみたの。
そして、気付いたのよ。
沙織先輩から受け継いだ知識が気付かせてくれたの。
陰陽術の理。
それがどういう意味なのか、
当時の私はまだ何も分かってなかったわ。
だけど今なら分かる気がするの。
陰陽術はどんな能力であっても、
必ず五行のいずれかに属しているみたい。
火←水←土←木←金←火………。
巡り続ける力関係。
5つの属性を観察しているうちに、
あることに気付いたのよ。
それは護符の護符が放つ光なんだけどね。
陰陽師の放つ護符は必ず5色の光のどれかを発してることに気が付いたの。
万を越える陰陽師の軍は圧倒的に強いわ。
扱う術は魔術と同じくらいに多種多様で、
全ての陰陽術に対しての対抗策を考えるなんて難しいと思う。
だけど、ね。
5種類の光の識別だけなら出来なくはないと思うの。
だから私は陰陽師の軍隊に視線を向けて、
これまでの一連の動きを観察していたのよ。
万を越える大部隊。
その動きは軍隊に相応しく規則正しく動いているし、
しっかりと統率がとられているように見えたわ。
各魔術師ギルドからの寄せ集めの共和国軍と比べればその差は歴然だと思う。
そもそも軍としての経験が全然違うんだから、
集団行動を得意とする陰陽師軍が優勢なのは当然の結果よね?
…でもね。
だからこそ今回の作戦を思い付いたのよ。
陰陽師軍と共和国軍のどちらにも言えることだけど。
能力による戦いを想定しているせいで、
使用出来る術が限定されているという事実。
そこに『突破口』を見付けたの。
陰陽師軍も。
共和国軍も。
好き勝手に得意な術を使用しているわけじゃないわ。
味方の能力に干渉するのを避ける為に。
ある程度の属性を揃えて術を使うように心掛けているの。
火を放つ横で水を使われてしまったら敵に届く前に干渉しあって消滅してしまうから。
そういった無駄を発生させない為に。
部隊毎に使える属性が限定されているらしいの。
そこに気付いた私は自分に出来る作戦を組み立てたのよ。
陰陽師の軍隊の全ての陰陽術を見極めるなんて不可能だけど。
一部隊毎に発動する属性の識別は出来るわ。
たった一枚の護符の光を見極めるのは難しくても、
複数同時に放たれる護符の光なら確実に見分けられる自信があるの。
…上手く説明なんて出来ないけれど。
幼い頃からね。
直感だけは自信があるの。
一瞬見ただけで大抵のことは判断できるわ。
雰囲気とか状況とか、
そういう空気感的な部分だけどね。
なんとなく分かるのよ。
だからかな?
探し物とかは結構得意なの。
そんな私の直感を最大限に活用して戦局を逆転させる方法。
それが今回の作戦なのよ。
…って言っても。
私の考えた作戦はそんなに難しいことじゃないんだけどね。
敵部隊が発動する陰陽術の属性を見極めて、
指揮下にいる魔術師達に相殺させる。
ただそれだけなのよ。
その為に用意されたのが2千人の魔術師達なの。
400人ずつ、5つに編成された部隊。
全方位を取り囲まれてる状況だけど。
だからこそ、一方向から飛んでくる陰陽術の数はそれほど多くはないわ。
数百対400なら何とかなるはずなのよ。
さすがに全方位から一斉攻撃されたらどうしようもないけどね。
だけどこちらからも牽制を行ってるから、
陰陽師軍も好き勝手に攻撃できるわけじゃないみたい。
魔術による攻撃を凌ぐために、
攻撃の手を止めて防御に徹する必要があるからよ。
そのおかげでね。
護衛部隊の牽制のおかげで、
私の部隊は比較的安全に魔術を準備することができるはずなの。
こうなるともうあとは簡単な作業よね。
魔術を待機させている魔術師達が、
私の指示する方角に向けて五行の属性に対する相殺魔術を展開するだけでいいのよ。
それだけで陰陽術を防ぐことができるの。
私の部隊はただひたすら魔術を発動出来る準備を整えるだけ。
そして私が指示を出した時にだけ陰陽術の相殺を行う。
それが私の作戦なの。
簡単でしょ?
詠唱時間の問題で、
陰陽術の見極めと迎撃を同時に行うことはできないけれど。
見極めた陰陽術に対する迎撃だけなら、
上手く分担すれば出来るはずなのよ。
そうしてお兄ちゃんが率いている遊撃部隊を守り抜くことが重要になるの。
戦力を一点に集中させて包囲網を打ち崩す。
それがこの作戦の最大の目的になるわ。
「絶対に失敗はしないわ!!必ず成功させて見せる!」
気合いを入れ直す私の視線の先で、
お兄ちゃんと慎吾が遊撃部隊に合流する姿が見える。
僅か千人の突撃部隊で1万を越える陰陽師を相手にどこまで戦えるのか?よね。
そこは私の判断力にかかっているわ。
お兄ちゃんの部隊を守りきれれば私の作戦勝ち。
守りきれなければ私の作戦は失敗っていうことになる。
だけど失敗は許されない。
…ううん。
私が許さない!!
私にはまだね。
戦いに勝って優奈を追いかけるっていう最大の目的があるの。
だからこんなところでは絶対に負けられないのよ!
「絶対に負けないからっ!だから待っててね、優奈!絶対にあとで追い掛けるからっ!!」
全力で宣言して気合を入れる。
そして2千人の魔術師を引き連れて、
お兄ちゃん達の後方へと部隊を動かしてみる。
さあ!
全力で凌ぐわよっ!!
「お願いしますっ!!」
大声で叫ぶ私の合図をきっかけとして、
2千の魔術が詠唱されたわ。
…うっわぁ~。
予想以上の重圧を感じるわね。
2千の魔術が私の合図一つで発動するのよ?
果てしなく恐れ多い感じがするわ。
だけどここまではまだ準備段階でしかないの。
作戦が成功するかどうかは、
相殺を実証してみなければ判断できないからよ。
「突撃するぞっ!!!!!」
私の部隊の詠唱をきっかけに、
突撃を始めるお兄ちゃん達。
お兄ちゃんの指揮の下で、
雨宮奈津さんと尾形久志さんを含めた千名の魔術師達が突撃を始めたわ。
そしてその中には、
全力で戦場を駆ける慎吾の姿も見えるわね。




