良い覚悟
「…ここから先は、上手くいくように信じるしかないな。」
完全に包囲されて孤立する共和国軍はすでに限界寸前だ。
7千程度いたはずの魔術師達は次々と倒れてしまい。
時間の経過と共に確実に減少している。
残った魔術師は5千強。
対する陰陽師軍は1万8千といったところだろうか。
序盤戦が優勢としたら、
中盤戦は痛み分けかもしれないな。
このまま戦い続けていけば、
後半戦は圧倒的な劣勢になってしまうだろう。
…それでもだ。
俺達はまだ諦めるわけにはいかない。
勝つための手段を模索して、
米倉代表のあとを追わなければならない。
そのために悠理との相談を終えてから軍の再編成に動き出した俺は、
遊撃部隊として千名の魔術師を率いることにした。
そして残った魔術師の半分を防衛として配置して、
残り半分を悠理の指揮下に置いた。
5つの属性に対抗する為に400名ずつの5部隊。
計2千名の魔術師だ。
悠理の部隊を守る護衛部隊も2千名となり。
俺が率いる遊撃部隊が千名。
合計5千が最後の戦力となる。
「分かるな?悠理。全ての魔術師の命が悠理の判断力にかかっている。」
運に身を委ねるような作戦だが、
今は悠理に命運を託すしかない。
「この作戦が成功するかどうかは悠理の判断力次第になる。だが…な。例え失敗したとしても悔やむ必要はない。」
残念だが、すでに敗戦が確定した戦いだからだ。
「どういう結果になったとしても、誰も悠理を責めたりはしない。」
失敗して負けたとしても、
それは仕方のないことだ。
「だから何も気にするな。」
悠理を励ますために、
両肩にぽんと手を置いた。
「余計なことは考えずに、悠理の思うように戦え。」
「うん!」
俺の励ましが喜んでもらえたのだろうか。
悠理はしっかりと頷いてくれていた。
「ありがとう、お兄ちゃん!でもね、絶対に失敗しないよ!ちゃんと頑張ってみせるから!この戦いに勝ってみんなを…優奈を助けに行きたいから!だから、絶対に負けない!!」
ああ、そうだな。
自信を持って宣言してくれる悠理の表情を見ていると、
不思議と本当に勝てそうな気がしてくる。
…これが。
この気持ちが信じるということだろうか?
上手く言葉に表せないが、
なんとなく穏やかな気持ちになれた気はした。
「そうだな。がんばれ、悠理。俺はお前を信じる。」
「うん!!絶対に成功させてみせるから!だから見ててね、お兄ちゃん!私は…私も近藤家の人間だから!だから絶対に諦めない!!」
ああ、お前も近藤家の一員だ。
共和国にその名を轟かせる一族の人間だ。
「近藤の名をアストリアに刻み込んでやれ。そして共和国に手を出したことを死ぬほど後悔させてやれ。それが近藤の名を示すということだ。」
「うん。やってみせるよ!」
「ああ、お前なら出来る。俺はそう信じている。」
「うん!必ず守るからね。お兄ちゃん!」
「ああ、その言葉を信じよう。」
俺の後ろに悠理がいてくれる。
ただそれだけのことで、
何でも出来るような気がしてしまう。
何故だろうか?
よくわからない。
だがそれがとても気持ちよく思えたのは事実だ。
ホンの数時間前までなら、
こんなふうには思わなかったのに。
それなのに。
今では悠理の存在を何よりも頼もしく感じてしまっている自分がいる。
これはどういう心境の変化だろうか?
自分でもわからない。
…だが。
血を分けた家族が傍にいる。
そのことが俺の気力を高めてくれているのかもしれない。
「あとは任せる。」
悠理に部隊を任せて、
前線に向かって歩きだそうとした…のだが。
「あ、あの…っ!」
その前に、俺の道を塞ぐかのように武藤君が割り込んできた。
そして勇気を振り絞るかのような態度で、
突然、俺に頭を下げて頼み込んできた。
「僕も連れて行ってください!」
…い、いや、それは。
戦力的に考えて無理があるだろう。
頭を抱えたくなる心境というのはこういうことを言うのだろうか?
彼の実力はまだ知らないが、
悠理と同程度では戦力として数えられない。
いるだけで足でまといになるだろう。
頭を下げてまで必死に訴える武藤君の気持ちは理解できなくもないが、
戦力外を前線に連れて行くことはできない。
「悪いが、きみを連れていっても…」
「あんたが行っても足手まといなのよっ!!」
戦力にならないと告げて武藤君の想いを断ろうとしたのだが、
その前に悠理が武藤君に怒鳴りつけていた。
「弱いんだから、大人しく隠れてなさいっ!」
…いや、まあ。
実際に俺も似たようなことを考えているわけだが、
あまりはっきり言い過ぎるのもどうかと思うぞ?
「学園最弱のあんたが前線に出られるわけないじゃない!」
全力で参戦を否定する悠理だったが、
それでも武藤君は変わることのない笑顔を悠理に向けていた。
「そうかもしれない。だけど、僕も戦いたいんだ。僕も悠理の為に戦いたいんだ!!」
悠理のために…か。
その気持ちは俺も同じだが、
だからと言って実力のない者を連れて行くことはできない。
「きみの気持ちは理解できるが…」
「行っても死ぬだけなんだからおとなしくしてなさい!」
「…まあ、そういうことだ。」
武藤君に呆れた視線を向ける悠理は言いたい放題だが、
そんな悠理に武藤君は真剣に向き合っていた。
「大人しくなんてしていられないさ。僕は悠理の笑顔を守りたいんだ。だから僕も戦いたい。戦って、勝って、悠理のお兄さんを守る。それがきっと悠理の笑顔を守る方法だと思うから…。だから僕は行くよ。」
悠理の笑顔を守る…か。
良い言葉だな。
「足手まといなのは自分でも分かってます!でも、だからと言って黙って見てることことは出来ません!!お願いします!!僕にも戦わせてください!!」
必死に頭を下げて頼み込む態度は好感が持てる。
…とは言え。
それだけで同行を認めるわけにはいかないのだ。
だから武藤君に一つだけ問い掛けてみようと思う。
「前線は最も危険な戦場だ。仲間の援護も期待出来ないうえに倒れればそれまでになる。それでも後悔はしないか?戦場で朽ち果てる覚悟は出来ているか?」
悠理のために命をかけられるかどうかを問いかけてみたのだが、
武藤君は笑顔のままで宣言してくれた。
「後悔はします!!朽ち果てたくはありません!僕は生き残る為に戦いたいんです!生きて悠理を守ると決めているんです!!」
…くっ!ははははっ!!
なるほどな。
良い覚悟だ!
そこまで言えれば十分だろう。
もはや確かめる必要はない。
悠理を守ることは生きていなくては出来ないのだからな。
死を悔やむ気持ちがあるのなら、
簡単に死にはしないだろう。
「良い考えだ。いいだろう。参加を認める。だがこれだけは約束しろ!」
悠理を悲しませないために。
約束を求めることにしておこう。
「必ず生き残れ。そして妹を…悠理を守り抜くと約束しろ!」
「もちろんです!僕は必ず悠理を守ります!!」
はっきりと宣言する武藤君に俺は笑顔を向けたのだが、
悠理は最後まで冷たい視線を向けていた。
「ホントに…どこまで馬鹿なのよ?」
不満そうな表情だが、
俺はそうは思わないな。
「俺は良い子だと思うぞ?悠理にはお似合いだろう?」
「ちょっ?止めてよ、お兄ちゃん!こんなやつ、全然良くないわよっ!!」
…ははっ。
全力で否定する悠理だが、
俺は笑顔で武藤君に右手を差し出すことにした。
「よろしく頼む。」
「はい!こちらこそお願いします!」
微笑む俺の手をとった武藤君は、
嬉しそうに握手を交わしてくれた。
「約束は必ず守ります!!」
ああ、その気持ちさえあれば十分だ。
「行くぞ!」
「はいっ!」
武藤君と共に前線に向かって歩きだす。
その様子を悠理は大人しく見送ってくれていた。




