翔子の気持ち
《サイド:天城総魔》
………。
黙々と食事を始めた徹と優奈。
そんな二人の様子を眺めてから、
手紙の続きを読むことにした。
『ねえ、総魔。ちゃんとご飯は食べてくれた?上手く言えないけれど、きっと総魔は食べてくれてると思う。理由はないけどね。私はそう信じてる。だって総魔は優しい人だから。きっと私の気持ちを無視したりしないと思うから。だからきっと、総魔はちゃんと食べてくれてるよね?』
…優しい人か。
どうだろうな?
自分ではそうは思わないが、
どちらかといえばわざわざ食事を用意してくれた翔子の方が優しいように思える。
今はまだ食べてはいないが、
手紙を読み終えたら食事をしよう。
そう考えてから読み進める手紙は、
俺を心配する言葉で埋め尽くされていた。
よほど心配させていたのだろう。
俺を案じる想いと翔子の優しさが、
1枚目の手紙には込められている。
その内容を読み終えてから、
2枚目の手紙を読むことにした。
1枚目の手紙の後ろに隠された翔子の想い。
その文章に視線を向けてみる。
手紙の2枚目。
そこには翔子の気持ちが綴られているようだった。
『ねえ、総魔。総魔はこの戦争が終わったらどうするつもりなの?学園に戻るのかな?それとも研究所に就職するのかな?それとも、どこかへ行っちゃうのかな?』
これからどうするか…か。
どうだろうか?
学園に戻ることは考えていないが、
ルーン研究所に入るのは悪くないように思える。
あの黒柳がいるからな。
充実した研究が行えるだろう。
…とは言え。
全てが今さらのように思えてしまう。
多くの命を奪い。
多くの犠牲を生み出した俺が、
平穏な日々に戻れるだろうか?
アストリアの王族を暗殺した俺に、
安息の日々など有り得るのだろうか?
それでも黒柳は俺を迎えてくれるかも知れない。
だが、共和国としてはそうはいかないだろう。
今後の外交関係上。
俺の存在は迷惑なはずだ。
王族を暗殺できる人物を抱えていては、
和平交渉は進められないだろうからな。
だとすれば。
俺の居場所は共和国にはない。
もはやジェノスに戻ることはできないだろう。
ならば、どうするか?
できることは限られている。
共和国を離れて異国の地に旅立つことだ。
あるいは死亡したことにして身を隠すか…だな。
どちらにしても天城総魔という存在は歴史から消えることになるだろう。
その結末に対して思うことは何もない。
そもそもアストリアへの復讐だけが目的だったからな。
無理に生きながらえようとも、
生きていたいとも思わない。
だからこの戦争が終わったら、
俺は姿を消す道を選ぶだろう。
それ以外に思い浮かぶ選択肢はない。
俺にとっては復讐が人生の全てであり。
そのあとの人生など考えたことがないからだ。
ここにたどり着くまでに、
何万…何十万という殺人を行ってきたのだ。
…王都だけでも百万人を超える。
実際に兵器を起動したのは朱鷺田達だが、
作戦を指示して成功させた事実は否定できない。
…グランパレスで。
…研究所で。
…王城で。
…そしてこの地で。
数多くの命を奪ってきたことは事実だ。
………。
自らの手を見つめてみる。
ただそれだけの行動で、
自嘲するかのように微笑んでしまっていた。
「今更…普通の生活になど戻れはしない。」
優奈と徹にも聞こえないような声で、
自分の手を見つめながら呟いてみる。
「俺の手は『血』と『罪』で汚れているからな…。」
今更、普通の生活には戻れない。
国も為でもなく。
誰かの為でもなく。
自らの為だけに、力を求めたからだ。
復讐という目的で動く俺に、
平和で幸せな生活は想像も出来ない。
「どこかへ…か。」
どこか遠くの世界へ姿を消す。
それがもっとも自分に相応しいと思える。
『どこかへ行っちゃうのかな?』
そう書かれた文章の続きに視線を向けてみる。
『ねえ、総魔。私はね。総魔の人生だから、総魔の自由にして良いと思うの。ジェノスに残ることも、どこか誰も知らない所へ旅立つことも自由だと思うの。総魔にはそれだけの力も権利もあると思うから。だけど、だけどね。』
自由と書かれた文章の続きを読んだ瞬間に、
俺の心は揺れ動いた。
『だけどね、総魔。もしも願いが叶うのなら、私は総魔と一緒に居たいと思うの。ずっと総魔と一緒に居たいと思うの。ねえ、総魔。それは叶わない夢なのかな?私は総魔の隣に居られないのかな?私じゃ、ダメなのかな?』
俺の隣に…か。
それが翔子の願いらしい。
今まで言葉に出来なかった翔子の本当の気持ちなのだろう。
その文章の続きには…
『あのね、総魔。本当なら直接言いたいんだけど。恥ずかしくて、なかなか言い出せないから、この手紙に書いておくね。』
手紙に記された最後の一行。
そこに込められた翔子の想い。
最後の一言を読んでから、
そっと手紙を閉じることにした。
折り目に沿って畳む手紙。
桜色の封筒に手紙を戻して、
服のポケットに手紙をしまい込む。
決してなくさないようにだ。
落としてしまうことがないように。
大切に保管することにした。




