金色の弓
今回の試合場はA-1。
会場内において最奥の角になる。
現在、試合場内にいるのは俺と翔子の二人だけだ。
間違いなく激戦となる二人の戦いの中に入ろうとする審判員はいない。
今回は北条も辞退したらしい。
同様に沙織も試合場の外にいる。
その理由は単純だ。
明らかな翔子派である二人では公平な審判が出来ないからだ。
審判は中立でなくてはならない。
だから北条も沙織も審判を辞退していた。
そして誰もが巻き添えを恐れる為に審判が決まらなかった。
その結果として北条が独断で判断しようとしていた。
「…まあ、あれだな。」
適当な人材を押し込んでもまともな審判は出来ないからだろう。
そうなると選択肢は一つしかない。
「どうせどっちかが倒れるまでやるんだ。審判は要らねえだろ?」
その一言によって、
学園史上まれにみる審判のいない試合が行われる事になった。
「でもまあ、開始の合図だけは俺がしてやるよ」
試合開始の宣言だけはすると言って、
北条が試合場の外ギリギリの位置まで近づく。
試合開始と共に防御用の結界が発生するからな。
一度、中に入れば試合中は外に出られない。
その結果として、
試合場には俺と翔子の二人しかいない。
それぞれの開始線に立つ。
二人の姿を視界に入れる北条が試合開始を宣言する。
「準備はいいな?行くぜ!試合開始っ!!」
宣言と同時に即座に北条が試合場を離れ、
同時に試合場を覆う特殊な結界が発生する。
そんな北条の動きとほぼ同時に俺の手には『ソウルイーター』が現れ、
翔子の手には光り輝く『金色の弓』が造り出された。
「こうして総魔に見せるのは始めてよね。一応紹介しておくわ。これが私のルーンよ」
誇らしげに掲げる弓。
きらびやかではあるが、
それは装飾の輝きではない。
神々しさを感じさせる輝きは金色の弓の存在感によるものだろう。
「あらゆる物質を貫く神器。金色のパルティア」
弓を構えた翔子は手馴れた仕草で弦に指をかける。
「形状は弓。放たれる矢は魔術。いえ、魔法というべきかしら」
ゆっくりと引かれる弦。
金色に輝く弓の中心に光り輝く矢が生まれた。
「って言っても、まだまだ魔法を扱いきれてないってすでに言っちゃってるから、あんまり期待されると困るんだけどね~」
苦笑いを浮かべながらも、
膨大な魔力を秘めた光の矢を番えた翔子はまっすぐに狙いを定めて宣告する。
「この矢に込められた魔力はあらゆる物質を撃ち貫く能力を持っているわ。それでも総魔はこの矢が防げるかしら?」
自信たっぷりに力を見せつける。
確かに感じ取れる力は恐れるに値する魔力を内包しているようだ。
今はまだ放たれる前なのだが、
それでも強烈な威圧感が感じとれる。
「俺の力が通じるかどうかは試してみるだけだ。」
翔子の挑発を受けてソウルイーターを向ける。
これから行われる一撃はどちらにとっても賭けに等しい攻防になるだろう。
翔子にとってはここが最初の賭けになる。
そして俺はまだ翔子の実力を知らない。
だからここが運命の分岐点となる。
俺に力を見極められてしまう前に初撃を当てることができれば試合の流れは翔子に傾く。
だが、外せば勝ち目は薄れる。
一度でも確認すればおおよその判断は出来てしまうからな。
完璧とはいかなくても対処する自信が生まれる。
だから俺が翔子の力を解析する前に攻撃を成功させることが翔子の勝利の絶対条件だ。
逆に翔子の先制攻撃を防げなければ俺の力はまだまだ翔子に及ばないという事になるだろう。
最初の一撃で優劣が決まる。
互いに絶対の自信を持つルーン。
翔子は覚悟を決めて両手に力を込める。
単なる小手調べではないはずだ。
俺に自分の力が通用するかどうかを見極める大事な一手だからな。
翔子は持てる全ての力を出し尽くすつもりで魔力を込めているはず。
「絶対に外さないわ!」
翔子の頬に一筋の汗がこぼれ落ちる。
互いの優劣は一瞬で決まってしまうからな。
緊張を感じるのは当然だろう。
「覚悟しなさい。これが私の力よ!!」
翔子の膨大な魔力が光の矢に流れ込み、
検定会場そのものを揺るがせるほどの強烈な衝撃が試合場を突き抜けた。




