鞄の中身
《サイド:天城総魔》
休息を宣言してから、
御堂の到着を待つことにした。
すでに兵器が稼働している現状でのんびりとしている暇はないが、
実際問題として体を休めることも必要だと思うからだ。
御堂もそうだが、
優奈も戦場を経験しながらここまできている。
…と、同時に。
俺や徹も王都から休みなしで活動している。
これから最終決戦という状況で、
無謀な突撃はするべきではないだろう。
体力の回復は必要だ。
魔力も可能な限り万全にしておいたほうがいい。
王都を脱出してからここまではそれほど戦闘をしていないから回復傾向にあるのだが。
この地に、どの程度の規模の軍が待機しているか分からないからな。
休める時に休んでおくべきだ。
そう判断して休息をとることにしたのだが、
肝心の御堂は来るのだろうか?
期待はしているが、
無理かもしれないとも思っている。
…御堂、お前はどうする?
最終的な判断は御堂自身が決めることだ。
俺には何もできない。
さすがに死者を蘇らせることは出来ないからな。
御堂のために沙織を生き返らせることはできない。
それが可能であれば、
すでに愛里を生き返らせている。
…死者の蘇生だけは不可能だ。
それは倫理観や技術の問題ではない。
ありとあらゆる創造を具現化できる俺の能力があっても、
死者の蘇生などという方法は『想像』すら出来ないからだ。
ただ願うだけでは奇跡は起こせない。
願いを叶えるためには、
完璧な道筋を用意する必要がある。
…だからこそ。
分からない現象を実現することは出来ない。
だがそれは魔術師としての限界や、
魔法の限界といった話ですらない。
『想像』出来ない理論を、
『創造』することが出来ないからだ。
過去から現在に至るまでに、
一度でも成功例があれば模倣することが出来るかもしれない。
だが…仮に成功したとしても。
生き返った蘇生者が本当に本人と言い切れるかどうかは誰にも判断できない。
…おそらくは蘇った本人でさえ判断できないだろう。
自分は本当に自分自身なのか?
それとも活動できるだけのゾンビなのか?
その判断は誰にも出来ない。
それでも。
幻想でも、願望でも、何でも良いと。
生きてさえいればそれで良いと思うのなら、
気にする必要のない部分なのかもしれない。
だが代償のない奇跡は起こらない。
魔術に魔力が必要であるように。
治癒魔術に副作用があるように。
死者の蘇生にも何らかの代償があるはずだ。
そして。
事例も前例もない理論に完璧はあり得ない。
理想通りの蘇生を実現させることは不可能だ。
…遺体が残っている愛里ならともかく。
遺体が見つけられるかどうかさえ疑わしい沙織の身体をどうやって蘇生させるというのか。
記憶の中の沙織を魔力で構築するのか?
絶対に出来ない…とは言えない。
だが魔力体である以上、それは人とは言えないだろう。
それこそ幻想でしかなく、
生命は存在しない。
仮に遺体が発見できたとして。
仮に治癒魔法による身体の治療ができたとして。
仮に蘇生魔法が完成したとして。
仮に沙織が目覚めたとしても。
後遺症は存在しないのだろうか?
そのまま何事もなく生涯を終えられるのだろうか?
…いや、それ以前に。
蘇った者の気持ちはどうなのだろうか?
奇跡を喜ぶのだろうか?
それとも自我を見失って失望するのだろうか?
…そもそもそんな事例すらないだろうが。
奇跡に等しい魔術と言えども、
出来ないことは存在する。
『死者の蘇生』と『時空の操作』
それだけはどうあがいても実現出来ない。
だから俺は御堂と距離を置くことにした。
説得が通じないのなら、
あとは信じるしかないからだ。
御堂がどうするのかは俺にも分からないが、
もう一度、立ち上がれると信じている。
「一時間ほど様子を見よう。」
ひとまず体を休めることにした。
木に寄り添って体を預けて深呼吸を繰り返す。
その僅かな休憩が俺の体から緊張感を薄めていく。
思っていた以上に無理をしていたのかもしれない。
体から徐々に力が抜けていく感覚がはっきりと感じ取れるからな。
少し無理をしすぎただろうか?
予想以上の疲労が体を支配しているようだ。
精神的には問題がなくとも、
体力的には限界が近かったらしい。
思わず座り込んでしまったことで、
優奈が心配そうな表情で駆け寄ってきた。
「総魔さん、大丈夫ですか?」
俺を覗き込む優奈の表情は不安で一杯に思える。
自分ではよくわからないが、
相当疲れているように見えるのかもしれないな。
いや…間違いなくそうなのだろう。
優奈に話しかけられたことで、
自分が疲れているのだとようやく理解できた。
…とは言え。
ここで弱音を吐いても仕方がないからな。
あと少しで戦いが終わるところまできているのだ。
本格的な休息は戦いが終わってからでいいだろう。
「大丈夫だ。少し休めば落ち着くはずだ。」
魔術で体調を整えることもできるが、
そこまで危険な状態ではない。
しばらく休めば十分だ。
「心配しなくていい。」
「だったら良いんですけど…。」
大丈夫だと答えたことで、
優奈は大人しく見守ることにしてくれたようだ。
それでも言葉とは裏腹に、
心配そうな表情は変わらなかった。
優奈は俺をじっと見つめている。
「大丈夫だ。」
「…はい。」
返事はしてくれるが、
俺を見つめるのを止めるつもりはないらしい。
その様子を見て、
いつものように答えることにした。
「問題ない。」
その一言によって優奈はほっと安堵の息を吐きながらようやくその場に腰を下ろした。
「良かったです。」
満足した様子だな。
何が違うのかは分からないが、
優奈なりに判断基準があるのだろう。
ようやく俺から視線を外してくれたのだが。
自分が手にしている物を思い出したのだろう。
何故か俺に荷物を差し出してきた。
「あ、あの!これ…翔子先輩から総魔さんに渡すように頼まれたんですけど…。」
何故、鞄を…?
疑問を感じながらも、
優奈から鞄を受け取ってみる。
差し出されたのはおそらく翔子の鞄だ。
優奈は自分の鞄を抱えているからな。
この状況なら翔子の荷物だと判断すべきだろう。
ひとまず鞄を受けとってから中身を確認してみる。
鞄の中に入っているのは翔子の私物や着替えの服がほとんどだ。
それらにはたいして興味はないが、
一つだけ気になる物が入っていた。
それはグランパレスに残してきた俺の鞄だ。
「翔子が預かってくれていたのか。」
個人的には置き去りにしていたことすら忘れていたのだが、
どうやら翔子が回収してくれていたらしい。
翔子の鞄から自分の鞄を取り出そうとしてみる。
…だが。
思っていた以上に力を込めなければ上手く取り出せなかった。
自分の鞄とは思えない重さだ。
最初は翔子の鞄が重いのかと思っていたが、
そうではなく俺の鞄に何かが詰め込まれているようだな。
ゴソゴソと自分の鞄を開いてみる。
鞄の中に入っていたのは俺の着替えと原始の瞳だ。
そして入れた覚えのない食糧が丁寧に詰め込まれていた。
どうやらこの食料が重さの理由らしい。
どういう目的で詰め込んだのか疑問に思いながらも続けて鞄の中を探ってみる。
その結果として。
一通の『手紙』を発見することになった。




